最近は多くの日本企業で何らかの働き方改革の取り組みが、全社的ないしは部分的に意識されている。皆さんの職場でも、働き方改革に取り組んでいるところが多いのではないだろうか。

 時間外労働の多寡や休日労働の有無などが企業イメージにつながり、採用活動にも影響を及ぼすという調査結果もある。連合(日本労働組合総連合会)の新規大卒者に対する就職活動に関する調査結果(2014年)によると、「残業や休日労働が多い」ことからブラック企業をイメージする割合は81.5%に達する。私は「ブラック企業」という表現は好きではないが、企業にとっては決して貼られたくないレッテルであろう。

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職場における働き方改革の実情は?

 そうした状況を踏まえて次のような問いを投げかけてみたい。

 職場の人たちは(自分自身を含め)どのように働き方改革の活動に取り組んでいるだろうか?

 仮に取り組み度合いを100点満点で表現すると、現状は何点くらいだろうか? その理由は?

 活き活きと自分たちで主体的に課題設定しながら工夫して取り組んでいる、人事部から展開された全社施策にはきちんと取り組んでいる、上司からやれといわれたことはとりあえずやっている、今は取り組めるタイミングではない、そもそもやる意味が分からないので取り組んでいない・・など、実情は様々あるだろう。

 実際に働き方改革を検討・実施している企業の方と話をすると、改革活動に取り組む職場では「時間外削減」「有休取得」など定量的な施策への取り組みは行っているが、そこにとどまっているというところをよく見受ける。

 一方、他の企業の取り組みを研究しながら様々な手法を試す企業もある。ただし、悩ましいのは、人事部が中心になって施策を展開しても、職場の活動がなかなかついてこない、やる気を引き出せない・・という点だろう。

 トップダウンやオーナーシップをもった推進力は必要だが、人事部が重点施策と評価項目(KPI)を決めて管理するだけの一方通行の働き方改革では、職場の受け身体質を助長し、やらされ感の増加、負担の偏在など“悪魔のサイクル”を回すことになりかねない。

 その結果、施策の形骸化や、成功体験(成長実感)が得られないといった状況を招く恐れもある。

働き方改革を「自分事化」するための3つの働きかけ

 働き方についての見直しの気運が高まったことで、特に勤務時間という観点から、就業規則の方針展開や職場のルール変更などに取り組む企業が増えるようになった。しかし「どのような働き方が“うちの会社らしい”のだろうか」と、会社として理想的な働き方を考える機会はまだ不足しているのが現状ではないか。

 今、必要なのは、「自分(たち)にとって働きがいのある働き方」を考えることであろう。

 正社員、パート、派遣社員、
 乳幼児がいたり、介護に携わる時短勤務社員、
 障がいを持ちながらも会社に貢献したいと考えている社員、
 今後の処遇が気になるシニア社員・・・

 こういった多様な人材の力を引き出して改善・改革を進めていくには、個々の人たちにとって“自分事化”を促すプロセスが欠かせない。

 以下に、働き方改革の活動において自分事化を促すための働きかけを3つ挙げる。

1.個人やチームの理想とする働き方像を表現する

 部や課、チームの単位でこのようなテーマを話し合うことは、あまりないのではないだろうか。限られたメンバーでは行っているかもしれないが、業務上の立場や役割、プライベートの事情によって理想的な働き方像は異なるはずである。

 自分事化の第一歩は自分の状態を他者と共有できる状態をつくることであり、相互尊重できることだ。共有した上で、全社の方針と連動した取り組みについて話し合うことをお勧めする。

2.4つのきっかけで自分事化を促進する

 自分事化に影響を与える4つのポイントを挙げてみたい(図1)。これらは自分自身の状態をみるだけでなく、課やチームとして何かに取り組む際、他者の状態をみるときにも役立つ。

図1 自分事化に影響を与える4つのポイント


(1)有意味感を高める

 その人にとって、取り組む意味や、取り組むことによる効果は何か。立場や理想的な働き方との関連づけなどを、できるだけ相手が理解しやすい言葉で伝える。

(2)効力感を高める

 その人の経験や意欲に応じたスモールゴール、スモールステップを設定し、ストレッチする状態をつくる。

(3)自己決定感を高める

 取り組み方や優先順位など、すべて他人から決められて実行するのではなく、自分(たち)の意思が反映できるよう選択、決定できる状態にする。

(4)貢献感を高める

 例えば、仕事の仕方のちょっとした工夫に反応してもらえる、改善アイデアが採用される、取り組む姿勢が評価されるなど、他者の役に立てている実感を持てる状態をつくる。

3.推進ファシリテーターの役割を担う

「推進ファシリテーター」とは、人事部メンバーや部門の推進リーダーなど、働き方改革を推進する立場を担う役割を指す。推進ファシリテーターに期待される役割は「促進者、指導者、管理者、体現者、同僚」の5つがある(図2)。「上司と部下」「本社と拠点」などヒエラルキーを感じる関係性において施策展開すると、一方がマネジャー(管理者)の役割に終始してしまう場合が出てくる。相手が動ける状態をつくるためには、管理者にとどまらない状態に応じた関わり方が大切になる。

図2 推進ファシリテーターに求められる5つの役割と関わり方のポイント


「日常」は変えられる

 働き方改革では課題設定の可能性が広く、どこまで、誰が、何に取り組むかなど、人事部や職場のマネジャーもメンバーも悩みやすい。一方でお互いの状況は分からないことが多い。そのため、個々に悩むよりも横でのつながりが職場実践のヒントを与えてくれることもある。社内のマイノリティーとして働き方に制約を感じている人は、働き方改革の掛け声以前から生産性の高い働き方を目指して様々な工夫をしているので尋ねてみるとよい。

 また、目の前の改善レベルの取り組みが軌道に乗ったら、節目で振り返ってみることをお勧めする。そのときは、本来の目的に立ち返ること、これまでの働き方を意図的に自己否定してみることで、より本質的な改革課題を設定ができるようになるはずだ。

 最後に、“変えられない”と思っている日常を見直すための一遍の詩、サム・ウォルター・フォスの「子牛の通った小道」を紹介したい。働き方を見直す皆さんにとって改革を考えるきっかけになれば幸いである。

「子牛の通った小道」 サム・ウォルター・フォス
 
 野原があった。そこへ一匹の子牛がやってきた。子牛は気まぐれに、くねくね曲がりながらその野原を通って行った。
 
 その翌日、狩人に追われた鹿がやってきた。鹿は子牛の通った、草がねているあとを逃げて行った。・・・緊急の時は、創造しているひまはない。ひとの通ったあとを通るものだ。・・・狩人もそこを通って追って行った。草はますますふみつけられ、はっきりと曲がった道ができた。
 
 その次の日は羊が来た。羊は、その曲がりくねった小道を、曲がりくねっていると不平を言いながら通っていった。
 
 しばらくたって、こんどは旅人が来た。旅人もその曲がった道を通っていった。
 
 こうして、草はとれ、土面が顔を出し、曲がりくねった小道ができ上った。こうなると、村人も、旅人も、馬車も、犬も、そこを通る。
 
 月日は矢のように過ぎ、その曲がりくねった小道は大通りになった。村の家々は、その通りに沿って曲がりくねって建てられていった。またたくうちに、そこは大都会の中心街となった。
 
 鉄道が敷かれたが、その線路も道に沿って曲がっていった。
 
 何十万人もの人々が、今もなお、三百年も昔に通った、あの子牛に導かれて、くねくね曲がりながら通っていく。
 
 確固たる前例なるものは、こんなにまでも尊ばれるのだ。
 
(出所:『逆M&Aの成長戦略』羽鳥宏著、ダイヤモンド社、1992)
 

◎連載「働き方改革を進めるポイント」のバックナンバー
(第1回)会社が働き方を変える前に必ずやっておくべきこと
(第2回)なぜ社員は帰れないのか?要因ごとに残業を削減する
(第3回)同時に実現すべき女性活躍と働き方改革
(第4回)働き方改革の軸は「目指す人材像と働き方像」
(第5回)社員の「働き方」を変える制度とルールをどう作るか
(第6回)業務・マネジメントの見直しで生産性を向上させる
(第7回)働き方改革の要諦は管理職の意識と行動変革!
(第8回)ハード面、ソフト面で「働く場所」の制約を取り除く

筆者:堀 毅之