もし株が暴落したら? もし知識があれば、急落や暴落がチャンスになることもある(写真:Graphs/PIXTA)

日本の株式市場や為替市場において、AI(人工知能)による投資や運用の影響度合いが高まりつつあります。

人工知能を活用したHFTとは?

「ミリ秒」のような、超短期投資においては、AIやアルゴリズム(手順の定式化)を活用したHFT(高頻度・高速取引)業者の売買ウエートが高まっています。また、短期投資を中心に、ネット証券などが提供しているチャートなどを活用したAIロボ・アドバイザーによる投資戦略の示唆や、それを活用したトレーダーの売買の影響度合いが高まってきています。

そうした中、投資家の間では「テクニカル分析を再度、活用しよう」という機運が高まっています。なぜでしょうか? いろいろな要因がありますが、今回は超短期投資のHFTを例に、みていきたいと思います。

HFTはHigh frequency tradingの略で、高頻度・高速取引などと呼ばれています。前出のような極めて短い時間に、コンピュータで自動的に株式や為替などの売買を実施するシステムを指します。

日本は欧米と比較し、HFTへの取り組みが遅れているといわれていました。そこで東京証券取引所では2010年、超高速取引に対応するプラットフォーム「アローヘッド」を導入し、さらに2015年9月には、売買システムを刷新したことで、HFTの市場での存在感が増しました。

HFTの市場に与えるメリットとしては、市場の流動性が増え、ビッド(こちら側が売る場合に相手側が提示する買値)と、オファー/アスク(相手側がこちら側に売る場合に提示する売値)の差が縮小することで、取引に参加する投資家にとってコストが低下する可能性が高まるといわれています。

一方、HFTが市場や投資家にもたらすデメリットとして、瞬間風速のような短期のボラティリティ(変動率)の高まりが指摘されています。たとえば、2010年5月6日の米国のフラッシュクラッシュ(わずか数分の間にダウ平均が1000ドル近く下落)、2016年6月24日の英国の国民投票や2016年11月9日の米大統領選の開票状況を受けた日経平均株価・米ドル/円の乱高下が代表的です。こうした瞬間風速のような動きは高度な金融工学やAI・アルゴリズムを活用した取引であるHFTによって一部、増幅されたとの見方が強まっています。

HFTの欠陥で「フラッシュクラッシュ」が起こる?

では、なぜHFTによってフラッシュクラッシュのような動きが一部、増幅されてしまうのでしょうか? HFT自体に欠陥があるからこのようなことが起きてしまうのでしょうか?

その答えはこうです。逆にHFTとしてのシステムがより高度で優秀だからこそ、このような動きがもたらされていると考えられています。わかりやすい事例を挙げて説明していきましょう。

たとえば、数々のHFTが人間の目にも留まらぬ速さで、アスクとオファー/ビッドを提示し続けたとします。仮に何かの原因で市場に大量の売りが出て、さらに下がりそうだと予想されたとします。

そうした場合、HFTとしては、平時、つまりいつもと同じように価格を提示し続けた場合、大量の「売り玉」を引き取らされて、さらにその後、価格が急落するのであれば、大きな損失を抱えてしまいます。そうした場合、HFTのリスク管理として、価格の提示を取りやめ、様子を見る、または今、「抱えている玉」を放出して、リスクを軽減する戦略を実施することが1つの合理的な意思決定になることでしょう。

そうした個々のHFTの合理的なリスク管理が同時的に発動された場合、市場にいったい何が起きるか想像してみてください。平時でHFTが市場に提供していた流動性が一気に縮小します。つまり、提示していた板をさっと引っ込めることで一段と市場の板(コンピュータ画面上に表示される、値段ごとの売買の注文)が薄くなり、その後、市場に出された売り玉によって、市場の価格は急落することになります。

つまり、個々のHFTはリスク管理としては合理的で正しいことをやっている。ただし、ほかのHFTも合理的に同じようなことをやるので結果として「合成の誤謬(ミクロの視点では正しいと考えられることでも、それが合成されたマクロでは、意図しない結果が生じること)」が生じ、マーケットが超短期の間に崩れていったと言うと、イメージが湧きやすいと思います。

市場に与える悪影響への懸念から足元ではHFTに対して規制の動きも強まってきています。欧州では2018年1月から超高速取引業者の登録制が導入される見込みであり、日本においても、改正金融取引法が成立し、超高速取引業者を登録制(取引戦略の届け出や取引記録の作成・保存など)にすることが決まっています。ただ、HFT自体が規制によりなくなるわけではないので、今後も市場の素早い動きに対し、無防備な投資家は右往左往してしまうことでしょう。

AIに負けないようにするには?

このような短期のボラティリティが高まる動きが今後も予想される中で、個人投資家としてHFTなど機械・AIによってもたらされる市場の動きに一喜一憂することなく、しっかりと対応して投資の成果を上げる方法はあるのでしょうか?

その答えの1つとしてテクニカル分析の活用が挙げられると思います。テクニカル分析を活用することによって、適切な投資タイミングの把握や市場の動きに一喜一憂しないしっかりとしたリスク管理手法の構築がより可能になってくると考えられるためです。

たとえば、市場が短期で急落した場合、テクニカル分析のタイミング効果を活用し、逆張り戦略として移動平均乖離率やボリンジャーバンドなどによる買いサインに加え、割高・割安をはかるRSI(相対力指数)などもしっかりと活用できれば、短期の急落場面は逆に大きな投資チャンスになることも考えられます。

また、短期の市場のボラティリティが高まる中、損失拡大をしっかり抑えるためにも、ロスカットなどのリスク管理がより重要になってきます。一定の売買ルールに基づくテクニカル分析は、市場の動きを受け、一喜一憂するような人間の弱みとしての感情(株価急落による市場の動きに対応できず塩漬けにしてしまうなど)の排除・抑制効果をもたらすという点でAI時代の投資スタイルとして利にかなっていると思われます。

投資家はAI時代だからこそ再度、テクニカル分析に注目し、投資の成果につなげていくことがより大事になってくることでしょう。なお、私が所属するNPO法人・日本テクニカルアナリスト協会主催で、同志社大学の東京キャンパスで3回にわたってセミナーが開催されます。私も11月4日(土)に「AIの最新トレンドとテクニカル分析」について一般の投資家や文系の方々にもわかりやすく解説させていただく予定です。

少しでもテクニカルアナリストを含む投資家の皆様にとってAIの最新トレンドを効果的に活用するためのヒントにつながるようなお話ができたらと思っています。ご興味のある方はこちらからお申し込みいただいたうえでご参加ください。