小池にはまって足を取られた前原氏はどうする(写真:日刊現代/アフロ)

「政界、一寸先は闇」との名言を残したのは故川島正次郎自民党副総裁だが、この稀代の寝業師も今回の解散、総選挙の目まぐるしい展開には草葉の陰で目を丸くしているはずだ。

「今しかない」と異例の臨時国会冒頭解散に踏み切った安倍晋三首相の心胆を寒からしめたのが"女勝負師"の小池百合子東京都知事の希望の党結党・代表就任宣言だった。それからわずか半月で「小池劇場」は暗転した。

「野党がバラバラでは勝てない」との選挙の掟どおり、メディア各社の議席予測は政権交代どころか「自民圧勝・与党300議席超」で足並みがそろう。有権者の「期待」を「失望」に変えた希望の党は、女帝・小池氏から「排除」された面々がやむなく結集した立憲民主党に反自民の主役の座を奪われて、野党第1党も危ぶまれる。現下の窮状に、党内にも「こんなはずでは」との悲鳴と悔恨が渦巻く。

もちろん選挙は「最後の3日間」「投票箱のふたを開けるまでわからない」のが政界の定説だが、追い風があっという間に逆風に変わった希望の党の候補者たちは、希望どころか絶望の淵で最後の訴えにのどを嗄らす。まさに「小池にはまったどんぐりたち」の悲しいあがきともみえる。

落選者はもとよりなんとか生き残った当選者たちも、選挙後に歩むのは茨の道だ。選挙後の解党・希望合流を「満場一致」で決めたはずの民進党の再結集論が日増しに現実味を帯びる中、座礁の危機に瀕する帆船「小池丸」から逃げ出すかどうかに苦悶する日々が待ち構えている。

「小池チルドレン」はおひざ元で「全敗」も

およそ半世紀ぶりの「季節外れの冷たい雨」が列島を濡らす中、イメージカラー・グリーンのレインコートを羽織って「安倍1強打倒」を絶叫する小池党首に寄り添う新人の"チルドレン候補"たち。結党当初の高揚感や笑顔は消え失せ、その表情には焦りと苛立ちがにじむ。「どうしてこんなことに……」と悔やんでも後の祭り。「落選すればただの人以下」という政界の厳しい掟に心は折れかけ、風を頼んでの出馬で夢見た「衆院議員」という"高み"は霧の彼方に消えつつある。

その一方で、希望の党に立身出世への「野望」をたぎらせて、それぞれの「古巣に後足で砂をかける」ように馳せ参じた結党メンバーの前議員たちも、各選挙区で思わぬ苦戦を強いられている。小池都知事のおひざ元・東京でも、わずか3カ月前の都議選での"小池フィーバー"は跡形もなく、小池氏最側近の若狭勝氏も含め「小選挙区では全員落選」の予測も飛び交う。

意に反する「憲法改正」「安保法賛成」という"踏み絵"を踏んでまで参集した民進党出身の中堅議員の中からは造反の動きが表面化し、「こちらでは希望の党なんて遠いお江戸の話です」(自民広島県連有力者)という中・四国や九州の希望の党公認の中には小池氏の応援を断る候補も出始めたという。そうした現地報道が希望失速に拍車をかけるという悪循環だ。

今振り返れば、9月25日夕刻の安倍首相の解散表明会見の機先を制するように、都庁での臨時緊急会見で希望の党結党と代表就任を表明した際、小池氏が発した「リセット」という言葉が「ケチの付きはじめ」(参院民進党幹部)だった。

それまで連日連夜、小池新党立ち上げで詰めの協議を進めてきた若狭氏と細野豪志元環境相(8月に民進党離党)すら「寝耳に水」の急展開。前原誠司民進党代表との数回の密談で意を通じた末の「小池独裁」宣言ともみえたからだ。結党宣言を受けて前原氏は「名を捨てて実を取る」との"迷セリフ"で「民進党解党、希望の党への合流」方針を独断で決定し、多くの民進党議員は離党しての希望合流へと雪崩を打った。

小池氏はヒールに転落、巻き起こる「枝野コール」

しかし、待っていたのは「首都の女帝」とも呼ばれた小池氏の「(全員を合流させる気は)さらさらない」「(理念の異なる人物は)排除します」という厳しい宣告。これが、希望に吹いていた追い風を逆風に変えるきっかけとなった。安倍1強政権の独裁的政治手法を攻撃する小池氏が、「希望の星」から首相と並ぶ「独裁者」へとイメージを変えてしまったからだ。プロレスで言えば「ベビーフェイス(善玉)」の役回りが試合中に「ヒール(悪玉)」に一転した格好だ。

小池発言と前後した細野氏の「三権の長を経験した方は(合流に)にご遠慮いただく」との発言もそれに拍車をかけた。野田佳彦、菅直人元首相を指すのは明らかで、野田氏は「先に 離党していった人の股をくぐる気はまったくない」と反発して無所属出馬を選び、小池氏の掲げた「原発ゼロ」を賞賛したばかりの菅氏も希望批判に手のひらを返した。

こうした合流劇のドタバタが、枝野幸男元官房長官による立憲民主党結党という、希望から排除された民進党の前議員や公認候補予定者の「駆け込み寺」につながった。前原氏は「すべて想定内の動き」と強気を装ったが、メディア各社の世論調査でそれまで急騰していた希望の党の支持率がみるみるうちに半減し、いまや、立憲民主党公認候補の街頭演説でかつての「小池コール」を想起させる「枝野コール」が巻き起こっている。

選挙戦初の週末に合わせて大手紙などが実施した終盤情勢調査では希望の失速と立憲民主の急浮上がさらに加速し、野党第1党をめぐる争いも、公認候補や前議員の数が希望の3分の1にも届かない立憲民主が「比例選の圧倒的優勢」で自民党に次ぐ第2党の地位を奪いかねない状況だ。

ゴルフに例えればコースの右側に打つ安倍自民と、左側に打つ革新勢力の対決の中で、「空いているフェアウェーど真ん中を狙う」と胸を張ったゴルフ大好きの小池氏が、結党というティーショットをど真ん中に飛ばしながら、ピンをデッドに狙うはずのセカンドショットを大ダフリして、グリーン手前の池に入れたような状況だ。思わず「お池(小池)にはまってさあ大変」という童謡・どんぐりころころの一節が頭に浮かぶ。

気の早い永田町スズメの関心は早くも投開票後の野党陣営の「離合集散」に移っている。仮に、希望の党が公示前勢力(57議席)を大きく割り込んで、立憲民主党の後塵を拝するような事態となれば、まず問われるのが小池党首と、希望合流を強引に推し進めた前原民進党代表の「責任問題」だ。併せて、小池氏が「結果をみて決める」といった希望の党の「首相指名候補」選びと、前原氏が約束した「民進党解党手続き」の実行が選挙直後の最優先課題となる。

衆院選後の特別国会召集は手続き上10月31日となる見通し。現在の安倍内閣は国会開会直前に総辞職し、議長選出など「院の構成」決定を経ての首相指名選挙とその後の組閣で、第4次安倍内閣が発足する段取りだ。各党はそれまでに、それぞれの首相指名候補を決める必要がある。そこで問題となるのが希望の党の首相指名候補だ。通常は党首が選ばれるが、希望の党首は非議員の小池氏であるため、所属国会議員の代表を決めなければならない。

民進無所属組と立憲民主の統一会派で「最大野党」も

現在の希望の党は小池代表だけが党役員で、幹事長などの役職は選挙後に決めることになっている。希望と同様に非議員の松井一郎大阪府知事を代表とする日本維新の会は、首相指名で参院議員の片山虎之助共同代表に投票する方針で、希望も当選議員や所属参院議員の中から「代表」を選んで首相指名候補とするのが順当だ。ただ、それには小池代表の続投と前原民進党代表らの希望入党が大前提となる。

しかし、選挙結果を受けて小池氏が代表辞任を余儀なくされれば希望の党は事実上崩壊するし、選挙後に予定される民進党両院議員総会で希望合流が否決された場合は、野党再編にもつながる大混乱となる。民進党は今回衆院選に候補者を出さなかったため、前原代表や野田元首相、岡田克也元代表ら30人近い有力議員が無所属で出馬している。公示前の両院議員総会で決まった選挙後の離党・希望合流にすんなり応じる議員は前原氏や希望との公認調整に当たった玄葉光一郎元外相などごく少数にとどまるとみられている。

40人を超す大所帯の参院民進党は小川敏夫議員会長が早々と「民進党再結集論」を打ち出すなど選挙後の希望合流には否定的。最終的に両院議員総会で否決されれば合流は白紙に戻り、民進党は存続することになる。まさに「元の木阿弥」だ。 

その場合、前原氏は代表を辞任したうえで離党し、希望に入党するしかなくなる。そうした手続きが終わらないと希望の党の全陣容は固められず、小池代表の進退や首相指名候補決定もその後に協議するしかないのが実情だ。その一方で、民進党存続が決まれば、両院議員総会で新代表選出の必要があり、党籍維持を前提に代表経験者の野田、岡田両氏と参院議員の蓮舫氏のいずれかが代表再登板となるとのシナリオがささやかれ始めている。

さらに、選挙後の民進党と立憲民主との連携も浮上しつつある。一躍「リベラルの星」となった立憲民主の枝野代表は民進存続の場合の統一会派結成に意欲的とされ、選挙戦でも野田、岡田、蓮舫各氏が民進系無所属や立憲民主組への応援活動を活発化させている。野田氏ら無所属組の多くが民進党を存続させて立憲民主と組めば衆院勢力(会派)は希望を圧倒し、最大野党として自公政権と対峙する構図が出来上がる。その場合、副議長や野党にも配分される特別委員長など国会役員も「立憲・民進組」から選出される可能性が高い。その時点で希望は、維新と同様にいわゆる「ゆ党」(50音での「や(野党)」と「よ(与党)」の間)という中途半端な存在となりかねない。

選挙後に「希望離党、民進復党」を狙う動きも

すでに、そうした事態を想定してか、当選有力な民進出身の希望公認候補の中には選挙後の「離党、民進党復党」を狙う動きも出始めているという。民進党が今回衆院選に候補者を出さなかったことで、ルール上は希望公認での当選者は小選挙区、比例を問わず、選挙後の離党・復党が可能だからだ。前原氏は「民進再結集は政治不信の極み」と怒るが、希望の失速が際立つにつれ「短期的には失敗だといわれるかもしれないが、私はやり続ける」と孤立感をにじませている。

年配者の誰もが口ずさめる童謡・どんぐりころころの1番の歌詞は「どんぐりころころ ドンブリコ お池にはまって さあ大変 どじょうが出て来て こんにちは 坊ちゃん一緒に 遊びましょう」だ。「存続民進党」の代表候補とささやかれる野田氏のあだ名が「ドジョウ」なのがなにやら暗示的でもある。そして、2番は「どんぐりころころ よろこんで しばらく一緒に遊んだが やっぱりお山が恋しいと 泣いてはどじょうを 困らせた」と続く。

選挙結果が判明する22日深夜まであと約90時間。小池氏はパリの空の下で、そして前原、野田両氏ら無所属組は地元選挙区で結果を見守ることになる。自民党本部での首相の笑顔が大写しになる中、小池、前原、野田各氏ら選挙戦の一方の「主役・脇役」の言動に神経をすり減らすことになりそうな「どんぐり」たちにどんな末路が待っているのだろうか。