北朝鮮留学生のZ君は、「これだけは言っておきたい。それは、どんな原因があっても戦争は絶対によくないということだ。たくさんの人が死ぬ。あなたたちは同意するか?」と言った。写真は北朝鮮関連の書籍。

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前回に続いて、古い話題になってしまいます。1990年前後の話と思ってください。私が中国に留学していた時のことです。留学当初は北京語言学院(現:北京語言大学)という大学で、中国語を学ぶことになりました。この大学では外国人留学生が確か3000人ほど、中国語を学んでいました。語学教師育成などで中国人学生もいましたが、外国人が圧倒的に多い大学です。

世界中から学生が来ていました。中国語を学ぶかたわら、日本での生活では出会うことの少ない国の人と交流できたことは貴重な経験です。エジプトからの留学生、シエラレオネからの留学生、ユーゴスラビアからの留学生、モンゴルからの留学生、パキスタンからの留学生など、思い出すことは数限りないのですが、ここでは北朝鮮の留学生とのエピソードをご紹介します。

私が今なぜ、突然こんなことを書き始めたかというと、最近の北朝鮮情勢について心配しているからです。もっと正確に言えば、日本人の北朝鮮人に対する「視線」が、警戒心や敵愾心(てきがいしん)で、かなり凝り固まってしまったように思うからです。

体制や体制側の行った/行いつつある行為に対する批判は当然としても、北朝鮮の一般庶民に対して違和感だけが先行するのは、問題が大きいと考えます。彼らの考え方に、一般的な日本人と異質な点は多いでしょうが、普通の人としての気持ちの基盤には共通点がとても多いと理解せねばならないと思います。

もちろん、テレビで繰り返し放送される北朝鮮における「あまりにも人工的な政治イベント」や、一般人の米国に対する憎しみにあふれた非難に接すれば違和感を覚え、「洗脳されてしまった救いがたい人々」と思えてしまうのも無理はない。ただ、彼らの本音はどうなのか。本当のところの人柄や考え方はどうなのか。報道ではなかなか、伝わってきません。

中国には北朝鮮から大量の留学生がやってきます。中国側の負担による公費留学生で、事実上の北朝鮮支援で、両国の関係強化のためですから、今後どうなっていくかは不明ですが。とにかく私が北京にいた時には、北朝鮮からの留学生がとにかく多かった。

ということで、北朝鮮人留学生絡みのエピソードだけでもいっぱいあるのですが、今回はまず1つをご紹介しましょう。同じクラスで学んだZ君のことです。

ある日のこと、授業が終わってから教室でZ君と話していました。私ともう1人の日本人の計3人での会話です。当時すでに、日本人には「北朝鮮は特殊な国」との認識がありましたから、日ごろから政治的な話題は避けるようにしていましたが、その時はなぜか、北朝鮮と韓国の関係の話になった。Z君に「北朝鮮の経済は苦しい。韓国は発展した。どう思う?」と尋ねてみました。

Z君は「私は韓国が発展したことはよいことだと思っている」と言いました。これは意外でした。もちろん「どうして?」と聞いてみました。

Z君は「まず第一に、南朝鮮(韓国)が発展したのは米国が全力で援助し、優遇したからだ。しかし共和国(北朝鮮)は、すべてを自力でやっている。だから困難は多い」と主張。そしてZ君は続けて「米国が援助してもどうにもならない国は、世界中にいっぱいある。しかし南朝鮮は発展した。これはわが民族の能力を証明したことだ。だから、よいことなのだ」と言いました。

なるほどと思いましたね。Z君の考えが北朝鮮で一般的であるかどうかはともかく、少なくともそのように考える北朝鮮人が存在することは分かりました。

会話はさらに「危ない」方向に進みました。朝鮮戦争の話題です。Z君はさすがに、怒りをあらわにしました。そして、「南朝鮮が突然、攻めてきた。大勢の人が殺された」と主張しました。これは困った。彼らはそう教育されているのでしょうが、日本人として「その通り」とは言えない。「いや、最初に攻めてきたのは北側だ」と反論しました。