ほのかな色合いの菊の花々が、書店の一角を華やかに飾る。

1本の菊で立体的な形をつくる園芸作品「多輪咲(たりんざき)」が東京都渋谷区の商業施設・渋谷MODIで16日から作品が展示されている。

制作した企業と福島県二本松市に、展示の狙いを取材した。

渋谷MODI「菊の惑星」

若者の街渋谷で菊を飾る

題名は「菊の惑星」。半球体状に咲く菊のかさの下を鏡で囲むことで、天体を表現している。

それぞれ別個の花を生けているわけではなく、同じ茎から枝分かれした「1本の菊」。

取材時は開花していなかったが、171輪の花が整列し、さらに上下2色に分かれて来店者の目を楽しませる。見頃は19〜20日ごろに迎えるという。

多輪咲の内部。菊の花はすべて1本の茎から成長している

 

開きかけたつぼみ

多輪咲は苗の段階から接ぎ木や、摘芯(てきしん、枝先の芽を摘むこと)によって伸びる方向を調整する地道な作業で生み出される。

大型の「千輪咲」になると、菊花約1000輪、直径約3メートルにもなり、制作は2年がかりとなるという。

江戸時代に菊の栽培で栄えた二本松市。「千輪咲」は、1955(昭和30)年に始まったイベント「二本松の菊人形」の目玉作品としていくつも出展され、日本一、多くの多輪咲を同時に鑑賞できるイベントだ。

第63回を迎えた今年は10月14日〜11月23日に、市内の霞ヶ城公園で開催している。

二本松市の多輪咲 提供:二本松市

制作者の前職は精密鈑金

今回の渋谷MODIでの展示は、明治時代の菊人形興行を起源とするディスプレイ企画最大手の乃村工藝社(東京都港区)が、二本松市に提案して実現。

今年2月から制作に取り掛かり、多輪咲の技術力と現代的な感性の融合を目指した。

市産業部の鈴木克裕部長は「多輪咲の職人さんや見てくれる方はシルバー世代の方が多い。ぜひ若い人にも関心を持ってほしかった」と狙いを語る。

鈴木部長

制作を主に担ったのは、二本松菊栄会の鴫原(しぎはら)俊夫さん(65)と鈴木眞一さん(66)。同市で多輪咲を制作できるのは、2人を含めて5人だけという。

鈴木さんの前職は、精密鈑金の加工だった。園芸関係の仕事はまったく経験なかったが、「身近に作っている人がいたから」と定年後の趣味として多輪咲をつくるようになった。

始めは「ボケ防止」のためだったんだけどね(笑)今は本当に大好きです。千輪咲は手を掛ければ掛けた分だけ、魅力的になりますから。

肥料や水やりの量など日頃の手入れは大変ですが、形になった時は「やっていて良かった」と思います。

手入れを面倒くさがらずに、気長にやる根気が重要です。(鈴木さん)

千輪咲の職人である鴫原さん(左)と鈴木さん

菊はラグジュアリーな花

「菊の惑星」をデザインした乃村工藝社の下國由貴さんが狙いを明かす。

日本の菊は、皇室の紋章にも使われるラグジュアリーな花です。菊をおしゃれなものとして発信していきたいと考えています。

渋谷MODIの展示は10月22日(日)まで。港区北青山の欧風レストラン「AQUAVIT(アクアビット)」でも19日(木)まで別作品を展示している。