高額医療・無保険大国、アメリカでの患者支援の動き

写真拡大

医療イノベーション大国アメリカは一方で、高額医療・無保険の問題を抱える。患者を「エンパワメント」する動きは、加速している。

夫デイブが肺がんと診断され高額な治療費が必要になった時、1歳の娘を抱えて生活に行き詰まったエミリーが頼ったのは闘病資金の寄付を募るクラウド・ファンディング・サイトYou Caringだった。

目標額10万ドルを掲げ、エミリーはYou Caringのポータルに”Save Dave”と題するページをオープン。闘病の実情を訴える家族ビデオをアップした。結果、1357人から目標額を上回る金額が集まり、デイブは無事に闘病を継続できることになった。

がんの個別化治療、多臓器同時移植、HIV、掌サイズの未熟児の救命など、米国は高度先進医療で常に世界をリードする。高度先進医療は高い。そしてそのサバイバーは、予後、高額療養費を必要とする、しかも既往症のある(すなわち医療保険に加入しにくい)慢性療養患者となる。だから米国の医療費は高い。しかも日本のような高額医療費への公的補助制度がないから、重篤な病気と診断された患者はまず治療費を心配しなければならない。

You Caringは2011年4月の創業以来29万組の募金を支援。750万人から総額5.5億ドル(約600億円)の募金を集めた。草の根シェア・エコノミーともいうべき患者支援ポータルは15年に全米で総額150億ドルの募金を集めており、35年には3350億ドルを超える規模に成長すると予測されている。

医療に日本のような公定価格が存在しない米国では、医薬品の価格は薬局ごとに異なり、季節や市場の需要でも変動し、不透明でわかりにくい。

そんな患者の不満に対応し、処方薬のオンライン価格比較サービスをリアルタイムで提供しているのがGoodRxだ。無料アプリをダウンロードし、医薬品名を入力すると、携帯電話の位置情報から近隣の薬局の在庫と現在価格が表示される。無駄足も無駄金も使わずに済むと患者に好評だ。

米国の患者が正しく処方薬を服用しない最大の原因は経済的事情、つまり薬を買うお金がないことだと言われている。だが、正しい服薬こそは疾病管理の基本。深刻な経済的事情を抱える患者への医薬品購入支援事業を展開しているのがNeedyMedsだ。

ウェブサイトを通じ、医薬品をいかにより安く購入するか、行政への補助金申請から、製薬企業や保険会社や薬局のディスカウントまで、考えうる限りの方策と個別具体的なアドバイスを徹底教示する。全国の薬局で使えて最大80%まで値引きが期待できる独自のディスカウント・カードも発行。サイトには毎日16000〜17000人のユニークユーザーが訪れ、PV/日は平均70000である。

NeedyMedsは医師・看護師・ソーシャルワーカー等フィラデルフィアの地域医療の担い手が始めた草の根の活動からスタートし、マサチューセッツ州に拠点を移して全米をカバーするNPOに育った。活動資金は行政からの補助金、寄付、ウェブの広告収入。医薬品購入補助事業を切り口に「誰にも手がとどく」医療供給体制の実現をめざす。

世界最大の患者ポータルの誕生

患者相互、患者と医療者のネットワーキングを提供するポータルも伸びている。代表はPatients Like Meだ。

希少難病のALS患者のための情報をさがして家族が始めた個人サイトが、科学的な情報提供と真摯な相互サポート体制で定評を得て、世界最初で最大のALS患者ポータルとなり、さらにMS、パーキンソン病、HIV、臓器移植などの希少難病患者向けにサービスを拡大。希少ゆえリアルな生活圏では出会えない同病の患者ともポータル上では情報交換でき、また数少ない専門家のアドバイスも得られる。

逆に、患者同士が生の情報を集積しあって研究者や医師に提供して研究や臨床に貢献している。バーチャルおよびクラウドならではの、物理的な隔たりを乗り越えた事業をダイナミックに構築。11年にはあらゆる疾患の患者にサービスを開放し、世界最大の患者ポータルとなった。14年に組織を再編して株式会社に転じ、17年1月に1億ドルの投資を得た。現在は膨大な自社データをAIを活用して解析しつつ、新たなサービスの構築をめざしている。

米国では65歳以上の高齢者には公的医療保険Medicareがあるが、病院保険、医師保険、処方箋薬保険等の各保険に分かれており、それぞれに掛け金が必要な複雑な仕組みでわかりにくい。また州ごとに格差がある全米をカバーしているため制度改革がむずかしく、日進月歩の医療関連業界のイノベーションに遅れがちだ。

こうした状況を改善すべく、連邦政府自ら実施している実験的な事業がある。全米の医師・病院・保険会社等で構成される有志団体The Accountable Care Organization(ACO)が事業の母体だ。慢性疾患のある高齢者を中心に、地域の医療関係者全員が協力・連携し、リスクの高い重複受診をなくし、ケアの質を高める地域医療連携体制の構築や、HMO(健康維持機構)型の人頭定額前払い制の支払い償還制度で加入者のプライマリーケアを包括的に請け負う仕組みなどを試行している。

西村由美子◎在米医療ジャーナリスト。お茶ノ水女子大学大学院修了。1991〜2004年スタンフォード大学アジア太平洋研究所で医療問題の国際比較研究プロジェクト研究員およびプロジェクトマネジャーを歴任。