堀監督は、前任のペトロヴィッチ監督が愛用した3-4-2-1から4-1-4-1に変更。コンパクト性を保つことで、攻撃から守備への切り替えをスムーズにした。山崎 賢人(サッカーダイジェスト写真部)

写真拡大 (全2枚)

 成績不振を理由に監督が解任されれば、チームに変化が起きるのは当然だ。不振に陥った原因を分析し、反省からスタートするため、少なくともひとつ、ふたつの要素は見直しの対象となる。場合によってはツギハギだらけの戦術修正を施すより、一から作り直したほうが早いのかもしれない。
 
 浦和レッズにも、そんなことが言えそうだ。前任のミハイロ・ペトロヴィッチ監督(7月30日に解任)のサッカーは、中盤を空洞化し、前線を5トップ(3枚のFW+2枚のドリブラー)とする戦術に特徴があった。ピッチの横幅を活かし、意図的に猜个〞を作ることで、相手の守備を混乱させる。そして、噛み合わせがズレたところを起点にポゼッションサッカーを展開する。3-4-2-1システムは、この攻撃の幅を生み出すための手段であった。
 
 しかし、そうした猜个〞には弱点もある。ピッチ上には11人しかいない。攻撃の局面で数的優位を作ったということは、ピッチ上のどこかに数的不利な状況が生まれているわ けだ。仮にミスからボールを失えば、コインの表裏をひっくり返されるように、一気にピンチに陥ってしまう。
 
 特にペトロヴィッチのやり方では、振り幅の大きい5トップから5バックへのネガティブトランジション(攻→守)を強いられ、さらにビルドアップ時にはボランチを最終ラインまで下げてシステムを変形させるなど、攻守の切り替えに時間を要した。そのため、数的な猜个蝓蹐魑佞僕用された時のダメージは大きい。空洞化した中盤はフィルターが利かず、相手アタッカーに対して数的優位で守れないからだ。
 
 堀孝史新体制となって改善されたのは、まさにこの点だった。基本システムを4-1-4-1に変更。DF、中盤、前線の3ラインが、ギュッとコンパクトに圧縮されている。
 
 中盤の枚数も変わった。ペトロヴィッチ時代は、阿部勇樹と柏木陽介の2枚、あるいは攻撃時は柏木1枚か、試合によっては0枚になることもあった。堀体制では逆三角形の3枚。ボールを失ってもすぐに奪い返せる距離感を全体が保っており、不測の事態にも混乱しなくなった。コンパクト性と、それによって得られる利益は、ペトロヴィッチと堀、両体制のもっとも大きな違いだろう。
 
 引いてブロックを築いて守る時も、堀レッズではコンパクト性が保たれているから、高い位置で相手のパスを引っ掛けてカウンターに行ける。一度自陣に引くと、5バックでお尻が下がるペトロヴィッチ時代には出しづらい特長だった。
 
 半面、失った特長もある。5トップからFWとドリブラーを1枚ずつ削り、それをインサイドハーフに回したことで、敵ディフェンスラインに与えるプレッシャーは弱まった。ペ トロヴィッチ時代は中央からKLM(興梠慎三、李忠成、武藤雄樹)が仕掛け、相手DFが内に絞ったところで、空いたサイドから関根貴大(現インゴルシュタット)や駒井善成が飛び出して行ったが、堀体制では彼らのようなドリブラーがサイドから仕掛けるシーンが減っている。
 
 どちらが良い戦術か、それは一概には言えない。事実、堀体制となって失点が減ったわけでもないし、クリーンシートは相変わらず少ない。とはいえ、ペトロヴィッチの戦術がJリーグで研究し尽くされ、さらに戦術の要だったドリブラーの関根が移籍したことを踏まえれば、堀監督の改革は妥当と言っていいはずだ。
 
 また、ペトロヴィッチはDFにビルドアップ能力を求めたため、純粋なCBが慢性的に駒不足だったが、マウリシオの加入でこの点に目処が立ったのも、4-1-4-1導入の妥当性を裏付ける。ただし、遠藤航は4バックのCBとしては人を追い過ぎる嫌いがあり、4バックならSBかボランチのほうが良いだろう。阿部もCBとしてはデュエルがさほど強くなく、堀レッズに足りないピースはまだある。
 
 戦術が変われば、必要な人材も変わる。中盤ではこれまでポジションを見つけづらかった長澤和輝や矢島慎也といった若手MFが、インサイドハーフで出番を掴んだ。新体制の戦術はチームの高齢化という問題を解決するポテンシャルもある。
 
 今後の注目は、上海上港との敵地での準決勝第1レグを1-1で乗り切ったACL。これまで中国勢を惑わせてきたペトロヴィッチの独特な攻撃スタイルが失われた一方で、現チームはコンパクトかつ組織的な守備で、フッキやオスカールといった強烈な個に対抗してみせた。ホームの第2レグ(10月18日)が楽しみだ。
 
文:清水英斗(サッカーライター)
 
※『サッカーダイジェスト』2017年10月26日号(同10月12日発売)「サムライ・タクティクス」より抜粋