"上司の質"で組織の生産性に倍の差がつく

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日本企業の生産性は、海外に比べて約2割低い。なぜか。それは日本の「上司の質」に問題があるからだ。今回、ベイン・アンド・カンパニーとプレジデント社が共同で調査した結果、日本企業はもともと組織の持っている生産力をマネジメントの拙さで棄損させている実態がわかった。全4回にわたって、これらの調査結果を考察していく。第1回は日本企業の実態と課題について取り上げる――。

■組織マネジメントで生産性が激変する

企業にとって最も希少な経営資源とは何だろうか?

そう問われて真っ先に思い浮かべるのは「ヒト」「モノ」「カネ」だろう。

なかでも「カネ」すなわち資本・資金の確保とその最適な戦略配分が長きにわたって企業業績を左右していた。しかし今は「カネ余り」の時代であり、ゼロ金利下、資金の調達はもはや大きな差別化を生む要素ではなくなってきている。

翻って「ヒト」はどうか。日本では2010年から人口減少が始まり、労働力不足が深刻な課題となってきている。また、物事の変化のスピードがかつてないほどの速さになるなか、「イノベーション」を通じて「違いを生み出す」ことが企業の価値創出・成長には欠かせない。企業組織を構成する人材の「質」と「量」がいまや最も希少な資源であり「組織マネジメント」を通じた人材最適配置が企業業績に違いをもたらすのだ。

そんなことは当たり前だ、と思われるだろうか。しかし、その当たり前に気がついていない企業があまりにも多い。グローバル企業と日本企業を比較した場合、日本企業は組織マネジメントの拙さによる生産性の棄損がとくに顕著である。ベイン・アンド・カンパニーが開発した、組織生産力マネジメントの巧拙を指数化して測定する手法を通じてその実態を見てみよう。日本の調査対象は1000人以上の規模の企業とした。

■平均的な日本企業では100のうち32を喪失

企業組織の初期状態、つまり、生産的な労働に所定の時間の100%を振り向けられる社員が平均的な割合で存在する場合の生産力を100とする。この基準となる100から不必要な会議や複雑な組織構造などに象徴される、いわゆる大企業病によって「時間(Time)」を浪費したことによる生産力損失分を差し引く。社員が本来発揮できたはずの生産性を押し下げるあらゆる要素がこの損失分だ。平均的な日本企業では大企業病のために生産力を32ポイントも失っている。この結果、指数は68に減少する。

次に、「人材(Talent)」の寄与、すなわち、人材構成、協業の仕方、チームづくり・人材配置の工夫によって組織が得られる利益(もしくは損失)を計算する。平均的な日本企業は、人材能力マネジメントで8ポイントを取り返し、指数は76になる。

最後に、「意欲(Energy)」のインパクトである。満足感のある社員、当事者意識のある社員、やる気溢れる社員の比率の大小が生産性に与える効果を計算する。平均的な日本企業は社員の意欲により16ポイントを獲得する。

■5年間でグローバルは184、日本企業は66

さて、最終的な結果を見てもらいたい。日本の平均的な企業の組織生産力は92にとどまり、もともと組織の持っている生産力をマネジメントの拙さによって8ポイントも棄損させているのだ。

同様に調査・分析したグローバル企業の平均の組織生産力を見てみると、トータルで113と、日本企業の92と比べると、約20ポイント増しの生産力である。「時間(Time)」「人材(Talent)」「意欲(Energy)」(以後、TTEとする)の各要素で見てみると、日本企業はすべての要素でグローバル企業に惨敗の状況である。「時間」はグローバル平均に比べてマイナス11ポイント。「人材」のマネジメントによる回復分もグローバル平均より2ポイント低い。「意欲」による回復分はさらに8ポイント低くなっている。

仮に組織生産力を複利で計算した場合、5年間でグローバルは184、日本企業は66となり、その差は2.8倍へと増幅する。これではグローバルの企業競争では取り返しのつかない差を生むことになってしまう。きわめて深刻な事態であるといわざるをえない。

では、どうすればよいのか。もうすこし細かく数字を見ていくと、そのヒントが見えてくる。図2と図3は、優良企業(調査標本の上位4分の1)とそれ以外の企業(下位4分の3)の違いを考察したものだ。

■日本では優良企業は世界レベル、それ以外は……

日本企業の優良企業群の組織生産力は137と、もともとの生産力を3分の1強上回る力を発揮している。優良企業群同士の日本とグローバルとの比較では、差は7ポイント(全体平均の差は20ポイント)にとどまっている。これは日本企業でも組織マネジメントがうまくできているところはグローバルな競合にもひけをとらない力を発揮しているということである。特筆すべき点は人材と意欲のマネジメントにより、優良企業では生産力のロスをそれぞれ30ポイント回復させている。これはグローバルのベスト企業をわずかながらも上回る数字である。

一方、調査対象の下位4分の3の企業群同士の比較は深刻だ。グローバルが組織生産力は102であり、ほぼキャパシティ通りの生産力を発揮しているが、日本の下位4分の3の企業は77と、そのキャパシティを23ポイントもマネジメントの拙さで棄損している。つまり、日本では「普通」の企業が世界では完全に落第点なのだ。この部分が日本企業全体の平均組織生産力のグローバルとの差の元凶なのだ。

内訳を見ていくと、大企業病による時間(Time)の浪費が生産力によるインパクトがマイナス34、人材(Talent)のインパクトはプラスマイナス0、社員の意欲(Energy)によっても生産力の毀損分は11ポイントしか挽回できていない。グローバルな比較対象群とは時間(Time)で10ポイント、人材(Talent)で4ポイント、意欲(Energy)で 11ポイントとすべてにわたって大きく差をつけられている。

▼失われた生産力はTTEのマネジメントで取り戻せる

「時間(Time)」の損出の最小化、「人材(Talent)」の最適配置と「意欲(Energy)」の発奮によるアップサイド効果により、組織の生産力を高めることができるのである。

われわれの調査から見えてきた日本企業の課題をあげれば、以下のようになる。

◆時間(TIME) グローバル企業と比べて日本企業は「大企業病による複雑な組織構造による非効率と、意思決定のプロセス、ツールの欠如」からくる時間のロスが顕著である。「働き方改革」で見かけの労働時間を減らすだけでは根本的な解決はできない。

◆人材(TALENT)グローバル企業とくらべてAクラス人材を特定して活かすための戦略が弱く、最適な人材配置ができていない。チーム編成などは能力に関係なく適当に行われていて、企業の中長期戦略と連動して考えられていない。

◆意欲 (ENERGY)日本企業はやる気のある社員、当事者意識のある社員の割合はグローバル企業より「やや劣る」程度だが、不満層が多いために会社全体の志気が下がっている。

組織のマネジメントによって失われた生産力を回復し、生産性を底上げするためには何に取り組めばよいのか。本連載では、そのための知見をまとめた『TIME TALENT ENERGY 組織の生産性を最大化するマネジメント』(プレジデント社、10月17日刊行予定)に沿って、とくに日本企業向けの提案を行っていく。第2回では時間を、第3回は人材、最終回は「意欲」について取り上げる。

(ベイン・アンド・カンパニー パートナー 石川 順也)