<動画配信とオリジナルコンテンツ製作の偏重で映画史に残る傑作を見るチャンスが失われている>

ネットフリックスの共同設立者でCEOのリード・ヘイスティングスが生まれた1960年、映画界は「豊作」だった。

サスペンス系ホラー映画の原点になったアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』。ビリー・ワイルダー監督のコメディーの傑作『アパートの鍵貸します』。スタンリー・キューブリック監督の史劇『スパルタカス』。いずれも60年の作品だ。

ところが、ネットフリックスの世界にこの年は存在しない。61年と59年の映画なら1作ずつ配信しているが、60年の映画はゼロ。おまけに名監督のヒッチコック、セルジオ・レオーネ、フランソワ・トリュフォーの作品も全く見られない。

ネットフリックスの旧作映画のセレクションは実にひどい。9月の時点で視聴可能な70年以前の映画はわずか43作。50年以前にさかのぼると、25作に満たない。これが、世界で契約者1億人超を擁する一大エンターテインメントプラットフォームか? 90年代のしょぼい貸しビデオ屋のような品ぞろえではないか。

確かに、ネットフリックスのDVDレンタルサービス加入者なら(この時代にそんな人がまだ400万人いる)、ずっと幅広い選択肢がある。とはいえ同社が動画配信やオリジナル作品の制作に軸足を移すなか、映画好きは古典的名作が置き去りにされる未来を案じている。

映画好きを嘆かせた決断

前からこうだったわけではない。今年、創業20年を迎えたネットフリックスがストリーミング配信サービスに進出したのは07年。当時の利用者はこの新手のサービスで、さまざまなジャンルの映画を楽しめた。

しかしDVDがフロッピーディスクと同じ道をたどりかけている近年、ネットフリックスは映画オタクではなく、暇つぶしに映画を見る平均的視聴者に照準を合わせ始めた。「各国の映画を幅広く取りそろえるのでなく、現代の主流作品を重視している」と、バージニア工科大学のスティーブン・プリンス教授(映画研究)は指摘する。

それにしてもクラシック映画が、なぜこうも少ないのか。「彼らの市場動向の読みに加え、映画会社から旧作を買い付けるのが困難なことが主な要因だ」と、スウェーデンの映画研究者ヤン・オルソンはみる。

言い換えれば、ストリーミング配信は権利取得が高額になるということ。そしておそらくネットフリックスは、過去の名画には高額の配信権に見合うだけの需要がないと判断しているということだ(取材申し込みに対して、同社の代表者はコメントを拒否した)。

そんななか、ネットフリックスは今年に入って新たな機能を導入した。一部の映画のタイトルシークエンス(作品冒頭の題名や出演者などのクレジットが出る場面)を飛ばして見られるようにしたのだ。

[2017.10.10号掲載]

ザック・ションフェルド(カルチャー担当)