学生時代の3〜4年間を過ごした、小田急線町田駅周辺。大学は中退してしまったが、この街でマンガ家人生もはじまった。

 なつかしく思いながらぶらぶら歩いていると、乾物屋が多いことに気づいた。

 昔から多かったのだろうが、気づかなかった。30数年前はまだ、様々な「昭和な店」が健在であり、その中に埋没していたような感じだっただろうか。

 ネットで調べてみると、幕末の横浜開港後、八王子方面から横浜まで、おもに絹を運ぶ街道が発展し、「絹の道」と呼ばれていたらしい。シルクロードだ。

 絹とは逆に、海産物を内陸部に運ぶルートにもなり、宿場町として栄えた町田駅周辺に次々と乾物屋が開業したということだった。

 一軒の乾物屋さんに入ってみる。乾物は日常的によく使うので、買い置きはある。今ここで買わないと、と思うものは見あたらないが、何か買いたい。これらは日本中の漁村から、横浜港を通ってこの地にやってきた乾物なのだから。

 と思えば心が浮き立つ。

 羅臼昆布を買った。1075円。そのあと、明治17年創業の、絹の道の今昔を見つづけてきた馬肉専門店「柿島屋」に入り、ロマンスカー好きの神奈川県民Mさんを呼びだした。

 維新前後のこのへんの歴史や、「カール」の東日本での販売終了という、妙に明治つながりな話題で飲んでいたのだが、そろそろ帰るか、ということになった。

 私は帰りも小田急ロマンスカーで新宿に出るつもりである。途中の登戸で降りなければならないMさんはうらやましそうだ。

 券売機を操作していると、Mさんの目が光った。

「ちょっと待て、今<展望席>って出たんだけど、なに? 展望席が空いてるの?」

 前画面に戻ってみると、最前列4席のうち、まん中2席が空いている。

 別に窓際ならどこの席でもいいやと思っていた私に、
「とりなさい! 普通とるだろう。展望席なんてまずとれないんだよ!」

 その剣幕に押されて、最前列をとった。初めてである。ふと横の券売機を見ると、Mさんが特急券を買おうとしている。

「ちょ……、あんたの家は川崎市だろうが!」

 無言で新宿までの指定席をゲットするMさん。それは、歴戦のロマンスカー乗りとして当然の行為であるらしかった。

 展望席最前列、通路側の2席という最高の席に座ったおやじ二人、缶ハイボールで乾杯。

 両側の客は、これまた鉄成分の濃そうな若者だった。うしろの席は中国系らしい子連れ家族。はしゃいでうるさくてごめんなさいね。

 雨なのが残念だったが、通りすぎる夜の各駅舎にすべりこんでゆくロマンスカー展望ビューはすばらしいものだった。

 新宿到着。Mさんは駅近くで軽くもう一杯やってから、激混みの小田急線急行で帰るという。
 オレのせいじゃないけど本当にお疲れさんです、と思った。

よしだせんしゃ
マンガ家 1963年生まれ 岩手県出身 『伝染るんです。』『ぷりぷり県』『まんが親』『おかゆネコ』など著作多数。「ビッグコミックオリジナル」で『出かけ親』、「ビッグコミックスピリッツ」にて『忍風! 肉とめし』を連載中。妻はマンガ家・伊藤理佐さん

※本誌連載では、毎週Smart FLASH未公開のイラストも掲載
(週刊FLASH 2017年10月17・24日合併号)