がん治療で心配なのはやはり治療費!(depositphotos.com)

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 2017年8月30日、ノバルティス ファーマ(スイス・バーゼル)は、難治性または2回以上の再発が認められるB細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)の小児および若年成人(25歳以下)患者の治療薬「キムリア」(CAR-T細胞医療CTL019)がFDA(食品医薬品局)の承認を初めて取得したと発表した。

 この新薬が大きな注目を集めているのは、治療後1カ月終了までに「キムリア」の有効性が認められた場合に限り、患者に治療費の支払いを求める「成功報酬型」システムを導入する見込みだ。つまり「効果が無ければ払わなくてもいい」という、健康食品通販のうたい文句並みのシステムが抗がん剤で開始されるということだ。

5年生存率10%未満だった患者の完全寛解率83%の高い有効性!

 もちろん新薬としての効果も期待される。

 発表によれば、「キムリア」は、ノバルティスがペンシルベニア大学と協働して開発したキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)医療の新薬(静脈注入用懸濁液)だ。

 患者自身のT細胞の単回投与を行うだけで、化学療法、放射線療法、標的療法、幹細胞移植などの治療を受けても、5年生存率が10%未満のため、予後不良だった患者の完全寛解率83%(52/63)を達成している。

 ノバルティスのジョセフ・ジメネスCEOは「ノバルティスは、革新的ながん治療の最前線に長年携わってきた。5年前、ペンシルベニア大学と提携し、治療ニーズが特に高いがん患者にとって、パラダイム・シフトとなる免疫細胞医療の開発をさらに推進するために投資した。「キムリア」の承認によって、がん治療の変革にさらに力を注ぎたい」と語る。

 ノバルティス・オンコロジー事業部門のブルーノ・ストリジニCEOは「がん治療の歴史的な瞬間に立ち会えて誇りを感じる。開発プログラムに参加した研究者、協力者、患者とその家族に感謝したい。「キムリア」は、小児と若年成人の患者にとって、新たな治療法の発見につながる」と話す。

 ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院の細胞免疫療法センターのRichard W. Vague免疫療法教授で、この治療法のパイオニアであるカール・ジューン博士は、こう述べる。

 「「キムリア」は、患者の生活に多大な影響を与える可能性がある。ノバルティスとの協働を通じて、免疫細胞によるがん治療に新たな価値を生み出し、さまざまな血液腫瘍や他のがんに対するCAR-T細胞医療の進歩に貢献したい」

 ペンシルべニア大学ペレルマン医学大学院のYetta Deitch Novotny小児科教授で、フィラデルフィア小児病院(CHOP)のがん免疫フロンティアプログラムの治験統括医師を務めるスティーブン・グルップ博士は、こう説明する。
 
 「「キムリア」は、ALLの小児および若年成人患者に対して 早期に持続的な寛解をもたらす最初のCAR-T細胞医療だ。これらの患者にとっては、まったく新しい標準治療になる」

 ノバルティスは、今年後半、再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の成人患者を対象に、FDAと欧州医薬品庁(EMA)への申請を含め、米国とEUで「キムリア」の追加申請を行う計画だ。日本など、米国とEU以外への申請は、2018年を予定している。

「キムリア」は、治れば支払う「成功報酬型」の治療薬!

 さて本題である。「成功報酬型」の治療薬とはどんなものか?

 ノバルティスは、価値に基づく医療(value-based care)を効率的に提供し、患者の治療へのアクセスを確保するために、達成されたアウトカム(臨床成果)に基づいて、医薬品の薬価を設定する(indication-based pricing)システムの導入によって医療制度の非効率性を排除することをめざしている。

 つまり、効かなければ薬剤費を払わなくてもいいといいことだ。
 
 FDAが承認した「キムリア」は、米国、EU、カナダ、オーストラリアおよび日本の25の医療機関で、小児患者を対象に行われた初めてのCAR-T細胞医療のグローバル試験(非盲検多施設単群第II相ELIANA試験)の大成果だ。

 この試験では、68人の被験者に「キムリア」を輸注し、63人の有効性を評価した結果、患者の83%(63人中52人)が、輸注から3カ月以内に完全寛解(CR)または血球数回復が不完全な完全寛解(CRi)を達成した。

 だが、有害事象や副作用の懸念もある。

 最も高頻度に見られた有害事象は、サイトカイン放出症候群(CRS)、低ガンマグロブリン血症の他、原因不明の感染症、発熱、食欲低下、頭痛、脳症、低血圧、出血、頻脈、悪心、下痢、嘔吐、ウイルス感染症、低酸素症、疲労、急性腎障害、せん妄など。
 
 また、神経事象では、脳症(34%)、頭痛(37%)、せん妄(21%)、不安(13%)、振戦(9%)もある。

 さらに、副作用には、呼吸困難、発熱(38°C以上)、悪寒による震えをはじめ、混乱、重症の悪心、嘔吐、下痢、重症の筋肉痛、関節痛、重度の低血圧、めまいなどがある。

「キムリア」の薬価は、約5300万円と超高額!


 「キムリア」の最大の課題は、薬価だ。

 「キムリア」の薬価は、遺伝子操作技術が高コストのため、治療1回あたり47万5000ドル(約5300万円)と超高額。したがって、一部の高所得層の患者に限定した成功報酬制度が導入されたのだ。

 厚生労働省は導入可能かを検討するが、医療の高度化の追い風のさなか、日本の薬価制度の改革や医療経済の変革に一石を投じるかどうかが問われる。

 「キムリア」の薬価に懸念を深める根拠がある――。

 2014年9月に、悪性黒色腫という皮膚がんの治療薬オボジーボ(ニボルマブ)が100mgあたり72万9849円で収載され、1年間使用すれば、およそ3500万円に上る事実が判明したからだ。

 高額になった理由は二つ。オポジーボが日本で初めて承認されたため、他国の事例を参考に薬価を決定できなかった点。さらには、オポジーボが悪性黒色腫という珍しい皮膚がんの治療薬として初めて承認された点だ。

 つまり、患者が少なくても医薬品メーカーが開発費を容易に回収できるように、高い薬価が予め設定された。

 したがって、成功報酬型の新薬「キムリア」も例外ではない。日本の薬価は、費用対効果や需要と供給の市場バランスだけでは、決して決まらない現実を知るべきだ。

 ちなみに、100mg当たりのオポジーボの薬価は、イギリスでは約14万円、ドイツ連邦約では20万円、アメリカでは約30万円とかなり低い。

 今回のような成功報酬型の新薬の導入は、大いに問題視すべきなのは明らかだ。新薬「キムリア」は、オポジーボの二の轍を踏むのだろうか? 

※参考
ノバルティス ファーマのプレスリリース(2017年 9月13日)https://www.novartis.co.jp/news/media-releases/prkk20170913)
(文=編集部)