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●脈々と受け継がれていたAIBOの技術

ソニーモバイルコミュニケーションズは10月17日、コミュニケーションロボット「Xperia Hello!」を11月18日より発売すると発表した。驚きはその価格で、ソニーストアの場合は14万9880円(税別)となる。この秋、Googleの「Google Home」やLINEの「Clova Wave」といったAIスマートスピーカーが1万4000円で登場する中で、なぜこのような製品を販売するのか。

○LINE連携でコミュニケーションを促進

Xperia Hello!は、2016年のスペイン・バルセロナで行われたMobile World Congress(MWC)でその存在が公表されており、「Xperia Agent」の開発ネームで知られていた。ソニーはこのデバイスをスマートスピーカーではなく「コミュニケーションロボット」と定義しており、その意味ではGoogle HomeやClova Waveは競合に当たらない。

ロボットという説明の通り、Xperia Hello!は頭部と胴体部が回転する仕掛けがあり、頭部には白色LEDによる「目」が、胴体部には4.6インチディスプレイが搭載されている。これらの動きを交えながらコミュニケーションを取ることが、既存のAIスマートスピーカーとは異なるというのがソニーの主張だろう。ロボットとして開発したがゆえに約15万円というのが一つの理屈だ。

同社 スマートプロダクト部門 エージェント企画開発室 室長の倉田 宜典氏によると、Xperia Hello!にはセンシング技術とインテリジェント技術、ロボティクス技術という3つのソニーのコア技術を活用しているという。

特にロボティクス技術は、犬型ロボットとして著名な「AIBO」で培った技術を一部活用しており、「新製品こそRollyなどの一部製品でしか表に出ることはなかったが、その技術はエンジニアが脈々と受け継いでいた」(倉田氏)と話す。例えば、Xperia Hello!ではモーターが駆動する軸を筐体の中心に集約することでパーツの故障率をあらかじめ引き下げる設計にしている。単に故障率のためだけでなく、ギアパーツなどの駆動部を少なくすることで素早く、静音性を高める効果が得られるという。

一方のセンシング技術とインテリジェント技術では、人感センサーを4つ、マイクを実に7個装備することで、その場にいる人とコミュニケーションを能動的に取れるようにした。頭部に設置されたカメラもソニーの1320万画素CMOSセンサーを採用しており、さまざまなシーンで高画質に写真を撮影できる。

また、このカメラでは登録した家族の顔を認識。登録ユーザーごとに発話内容を変える応答生成技術を独自開発したほか、LINEと連携することで登録した家族に個別のメッセージを送信、該当する家族が顔を見せた段階でそのメッセージを伝えることができるという。この技術は見守り機能にも活かされており、例えば家の中の様子をLINEで尋ねると「◯◯さんは3分前に見かけました」と室内の状況を伝えてくれる。写真を撮影してLINEに送信することも可能だ。

●2035年にはサービスロボットが主役に、その時代をソニーは生き残れるか

同社 スマートプロダクト部門 副部門長の伊藤 博史氏は、同社のビジョンを「コミュニケーションデバイスをより高い知能と機能を備えた人間の能力を拡張するツール」と語る。スマートフォンのXperiaに加えて、6月より販売を開始したスマートプロジェクター「Xperia Touch」、音声アシスタントを内蔵したスマートイヤホン「Xperia Ear」、そしてXperia Hello!が人間の能力を拡張するツールという位置付けだ。

Xperia Touchも、一般的なプロジェクターにAndroidを組み合わせた特殊な製品で、その独特な世界観は「大変好評をいただいている。海外からも問い合わせがある」(伊藤氏)。こちらも14万9880円(税別、ソニーストアの販売価格)であり、このデバイスの売れ行きが一つの自信として「Xperia Helloについても期待している」(伊藤氏)のだという。

ただ、Xperia Touchは既存の競合製品がほとんど存在せず、類似ジャンルも存在しなかった。言ってみればAIBOのような「ソニーらしい、おもしろ製品」としてのニーズも多分にあっただろう。一方で、Xperia Hello!は時期的にもAIスマートスピーカーと競合視される可能性が高い。前述のGoogleやLINEだけでなく、年内にはAmazonのEchoも上陸する予定で、価格は最安で6000円程度だ。

会場にいたあるITジャーナリストも「これが10万円を切る価格なら見どころはあったが……」と話していた。一例で言えば、約15万円はNTTドコモが「iPhone X 256GB」の予約価格として提示している14万3856円よりも高い。ソニーが「ロボット製品としてみれば、ある程度の価格には落ち着いている」という説明をしていても、消費者の目は厳しいのではないかというのが率直な感想だ。

○自前主義で技術力を磨けるか

ただ、筆者がGoogle Homeを利用していて至らないと感じている点、逆にXperia Hello!に期待できる点は存在する。

例えばGoogle Homeはディスプレイがなく、すべてを音声コマンドで完結させている。そのため、本来ビジュアルと組み合わせて表示して欲しい情報、例えばWikipediaの人物情報やニュースの画像などが見られない。これらはXperia Helloでは実現できているし、ディスプレイを搭載していることでビデオ通話、ビデオ伝言機能なども用意されている。

また、音声だけで「ごめんなさい。わかりません」と言われるよりも、ロボットならではの顔の表情の動きや胴体の動きが直接訴えかけてくる感情表現はAIスマートスピーカーとは一線を画すだろう。現時点でコミュニケーションロボットと呼ぶには乏しいコミュニケーション&応答量だが、ニュースや天気予報、リマインダーといった情報のやり取りだけでなく、雑談やミニゲームなどの細かなコミュニケーションが可能になれば「約15万円の納得感」は出てくるはずだ。

野村総合研究所の調査によれば、現在ロボット産業の主流は産業用ロボットであり、2020年においても産業用が1.2兆円、サービスロボットが1兆円規模だという。しかし、AIやロボティクス技術の進展によってその後は急激にサービスロボットが拡大し、2035年には産業用ロボットが2.7兆円にとどまるのに対し、サービスロボットは5兆円まで市場が拡大する見込みだという。

日本では、ソフトバンク・ロボティクスが提供する「Pepper」やSHARPが提供する手のひらサイズの「ロボホン」など、サービスロボットに向けた取り組みが世界に先駆けて進展している。Pepperについてはもともとフランスのアルデバラン・ロボティクスがコアを作り上げ、台湾の鴻海が生産しているものの、シャープのロボホンは広島で、Xperia Hello!についてもソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(SGMO)が「メイドインジャパンで生産している」(伊藤氏)。

AI技術はGoogleやAmazonのAWS、Microsoftなどクラウド大手が遠く先を行くものの、ソニーもXperia Hello!で採用する各種認識技術を内製化するなど、「自前主義」で知見を溜める方向へシフトして技術力を磨く構えだ。それは「新しいコミュニケーションを創造するという目標のもとに開発してきた。家庭内のロボット市場は発展していく領域。期待値は高い」という伊藤氏の発言からも、内製化を重要視していることが伺える。

いわゆるIoTはハードとソフトの両面でブラッシュアップが必要とされる。その代表例となりそうなパーソナルなサービスロボット分野で、いかに先行力を活かして知見を溜められるか、そしてハードの強みを持つ日本勢がどこまでソフトウェアをブラッシュアップできるかが、今後20年を左右する可能性はある。

AIBOを諦めた過去を頭の中から排して見れば、Xperia Hello!はロードマップを長期間に渡って描き、その第一弾のテスト・マーケティングの製品とも思える。もしそれが現実のものだとすれば、Xperia Hello!が持つ価値は計り知れないはずだ。