主婦の中村真以子さんは育児をしながら、自宅で仕事を受注。「自分の生活に合っている」という

9月上旬、公正取引委員会がフリーランスとして働く人たちの実態調査に乗り出した。その目的の一つは、近年急激に存在感を増すクラウドソーシングで優越的地位の濫用がないか、労働実態を調べることだ。

クラウドソーシングとは、不特定多数の労働者に対してインターネット上で仕事を依頼したり請け負ったりする新しい働き方。仕事内容はIT開発やデザイン、データ入力、原稿の執筆、コンサルティングなどさまざまだ。

企業の人手不足や、時間や場所を選ばない働き方への意識の高まりを背景に、市場規模が急拡大している。

副業者の受注が急拡大


都内に住む中村真以子さん(30、上写真)は2人の子どもを育てながら、毎日自宅でグルメ記事を執筆する。

主婦を対象としたサービス「シュフティ」で仕事を見つけ、3日に1本のペースで原稿を仕上げる。月収は1万〜3万円ほどだ。

中村さんは第1子の出産を機に退職。産後、再就職を考えたが保育所の空きがなく、クラウドソーシングで仕事を始めた。「子どもを抱っこしながら、スマホで仕事が探せる。自分のペースで働けるメリットは大きい」と話す。

クラウドソーシングを活用するフリーランスは大きく4種類に分類される。その中でも近年増えているのは副業だ。個人事業主などと比べ収入は低いが、国の副業推進が追い風となっている。業界大手ランサーズの調べでは、フリーランスの約1割がクラウドソーシングで仕事を獲得しているという。これまで労働市場への参加が難しかった人々が、働く機会を得られるようになったという意義は大きい。

ただ、市場の拡大に伴って、悪質案件が掲載されるケースも出てきている。業界大手のクラウドワークスでは今年初め、規約で禁止しているはずのマルチ商法に似た案件が掲載されていたことが発覚。同社は5月に悪質案件を検出するAIを導入。違反の可能性が高い単語を含む案件を数時間おきに検知し、さらに目視で確認する体制を整えるなど対応に追われる。

誰がやっても同じだから低単価なのか

報酬が低くなりがちであることも課題だ。発注側は誰がやっても同じ仕事の場合、報酬は低単価に抑えたいという意向が働く。

2016年12月、不適切な医療記事が問題となったディー・エヌ・エーのメディア「WELQ」(ウェルク)でも、低コストで記事を量産するためクラウドソーシングが用いられた。


以降は「極端に単価が低い案件は減った」(クラウドワークス)ものの、低単価の案件は今でも少なくない。本来成立しないような案件であっても、駆け出しで実績を積みたいフリーランスや、単に収入の足しになればよいと考え受注する人がいるからだ。

前出の中村さんも仕事を始めた約2年前は、1500文字の原稿を300円で受けた。かかった時間は1時間ほど。手数料(通常、成約価格の5〜20%)を差し引くと手元にほとんど残らない。「当時は相場がわからず、紹介料だと思って納得した」(中村さん)。

低単価でも受注する人がいる以上、サービスの運営側は報酬を規制することが難しい。そのことが「高収入を求めるプロ人材は不特定多数への発注を前提としたサービスを使わなくなっている」(湯田健一郎・クラウドソーシング協会事務局長)という事態を招いている。


当記事は「週刊東洋経済」10月21日号 <10月16日発売>からの転載記事です

報酬の底上げに動く企業も出てきた。ランサーズは10月2日、高い技能を持つエンジニア向けに審査を経て実名で登録するサービスを開始。月額報酬50万円以上の仕事のみを紹介する。パソナテックが運営する「JobーHub」も、同社が専門性の高い人材の情報を管理し、ウェブ上で企業とのマッチングを行うサービスを強化する。

法的な整備も必要だ。クラウドソーシングの契約は業務委託が一般的。最低賃金や労働時間など労働法の規制対象外だ。

健全な労働市場にするために必要なこと

労働問題に詳しい東京法律事務所の今泉義竜弁護士は「多種多様な企業が参入しているが法律が整備されておらず、労働者の救済は難しい。法改正や新法での規制を考える必要がある」と話す。

もう一つは、独占禁止法で不当な低価格取引を規制すること。冒頭のように公正取引委員会が調査を始めているが、独禁法を根拠にした個人の救済は例がない。

より健全な労働の場にするため、乗り越えるべきハードルは多い。