容姿、学歴、収入。男のスペックは高ければ高いほど良い。

が、同じだけのスペックを女が持ち合わせたとき、果たしてそれは本当に幸せなのだろうか。

東京にはある一定数、女ながらも男並みの「ハイスペック」に恵まれた層が存在する。

傍から見れば完璧な彼女達には、ハイスペックであるが故の葛藤があった。

外銀で働く楓は、元カレ・敦に偶然遭遇するも、敦の隣に居たのは自分とは真逆のタイプ。職場でも指摘されてしまった通り、「女子力」も世渡りには必須。そう覚悟を固めた楓はお食事会への参戦を決めるが・・・




「楓がお食事会に来てくれるとは思わなかった!一人急に来られなくなっちゃって、本当に困ってたの。ありがとう!」

楓の同期でバックオフィスに勤める瑞希が、驚き半分、ほっとした安堵感半分といった笑顔で楓に笑いかけた。

「ううん、これからどんどん誘ってくれると嬉しいな。」

そう答える楓の表情は、硬い。

「でも本当に今回のお食事会は、すごく良い人達揃えてもらってるから。楓も絶対楽しいと思う!」

瑞希は大学時代からの付き合いで、交際5年目に入るステディな彼氏が居る。

彼女にとってお食事会は、自分の市場価値を定期的に測定する健康診断のようなもので、至って気楽だ。

楓はたまに瑞希の屈託のなさが羨ましくなる。

部門が違うとはいえ、同じ外銀に勤めていながら周囲からのプレッシャーなどどこ吹く風、瑞希は常にマイペースだ。

外銀で、メンタルをやられること無くキャリアを続けられる人種は、大きく2つに分けられる。

自分にかかるプレッシャーを、千本ノックの如く努力と根性で打ち返し続ける楓のようなタイプと、持って生まれた前向きで楽観的な性格を生かし、自分のペースでゆるりとプレッシャーを交わす瑞希のようなタイプだ。

「今回は女の子はもう一人、大学同期で広告会社の子呼んでるの。男性陣は、大学のサークルの先輩だよ。商社にいるんだけど、同期二人に声かけてくれてるって。」

楓はお食事会が以前から苦手で、ほとんど参加したことはない。

以前参加したことがあるお食事会では、男性陣は皆、外銀か外資コンサルだけだったため、全員商社というのは新鮮な気がした。


久しぶりのお食事会は上手く行っているように思えたが・・・?


男性エリートとの、年収格差


お食事会の開催場所は、銀座の『マイハンブルハウス トウキョウ』。

さすが商社、ということなのだろうか、男性陣は皆とても気が利いたし、場を盛り上げるのもとても上手だった。

3人のキャラ分けも良いバランスで、元アメフト部だという二人がボケとツッコミをテンポよく繰り出し、瑞希の先輩が楓達に、適度に話題を振る。

久しぶりに全く違う業界の人と話すこと自体も新鮮で、程よくお酒も入り始めると、楓は最初より随分リラックスした気分になっていた。

「そういえば、最近イタリアワインに目覚めたんだよね。おすすめのところって無いかな?」

話題が趣味の話に移り、瑞希の先輩が楓達に問いかけた。

「それなら、広尾の『クリオーゾ』ってところ、お料理もとっても美味しいし、グラスでも色々飲めてすごく良いですよ!すごく近所なのでほぼ週1で行っちゃいます。」

大好きなワインの話題に、楓が勢いよく答える。

「週1ってすごいね。ていうか広尾に住んでるの?」

少し場の空気が変わった気がした。

「はい、会社近いので。。。」

どう答えるのが正解なのか分からないまま、とりあえず遠慮がちに肯定する。

「そういえば楓ちゃんって、あの超有名な証券会社のフロントオフィスなんでしょ?実際お給料ってどれくらいもらってるの?」

あまりに直接的な問いかけに今度こそ言葉に詰まった。

「・・・いや、お給料とかについては、社内でも人に言っちゃいけないことになってるんで・・・」

なんとか角が立たないように逃げる。が、元アメフト部のボケ担当が更に追及してくる。

「じゃあ家賃ってどれくらい?」

「・・・いや、やめましょうよ、そういう話は!」

瑞希が横から助け舟を出してくれるが、男性陣は最早そちらにしか興味が無いようだった。




3大商社で順調にキャリアを歩んでいる彼らは、間違いなくエリートだ。

だが、20代の商社マンの給料は、年下である24歳の楓のそれを遥かに下回る。

楓は、高給取りが偉いなどと思ったことはこれっぽっちも無い。

確かに外銀でのハードワークは高給によって報われているとも言えるが、必ずしも人の仕事ぶりや努力と給料は比例しない。

金融という業界が高いマージンで回っているだけだし、その会社の構造だって関係してくる。

ー私の方がお給料高くたって、自分のしてる仕事に熱意と自信があったら、そんなこと気にする・・・?

もやもやした気持ちを抱えたまま、その日は1次会で早々に切り上げることにした。

「最寄りが広尾なら、銀座まで送っていこうか?」

「いえ、大丈夫です。ここからならタクシーで帰りますね。」

瑞希の先輩が一応気を使って聞いてくれたが、取り繕うのも面倒になってしまい、楓はさっさとタクシーを捕まえた。


消化不良の想いを抱えて、楓が向かった先は?


「仕事は男女平等」が意味すること


「ゴリラの群れと同じよ。常に自分の優位性をハッキリさせておかなきゃ、ボスはボスで居続けられない。」

楓が美里に、今日のお食事会の話をすると、面白い例えで返してくれた。

「ボスの敵になるのは他のオスだけだから、メスとして従順に生きてれば守ってもらえるけど、同じオスとして認識された瞬間、どっちが優れているかをハッキリさせなきゃいけなくなるの。

男にとって仕事は、自分のバトルフィールドみたいなものだから、女だろうがそこに踏み込めば、どっちが『上』か比べなきゃ気が済まないのよ。」

商社マンを「ゴリラの群れ」とバッサリ切って捨てた美里は、興味なさそうにピクルスをカリカリと齧る。




楓は『ブレッドアンドタパス サワムラ』に美里を呼び出していた。

盛り上がらないお食事会を1次会でさっさと切り上げたは良いものの、せっかく仕事も残していない金曜なのに、22時前に真っすぐ帰る気にもなれなかった。

駄目もとで美里に連絡したところ、丁度彼女も盛り上がらない同期会の後だったらしく、二つ返事で来てくれた。

半径500m圏内に親友が住んでいるのは、こういう時に嬉しい。

社会人経験は楓の方が長いものの、美里にはどこか世の中を達観しているところがあった。

育ちの良い人特有と言うのだろうか、眼中にない「一般庶民」に対しては驚くほどの無関心さだ。

美里の両親は共に医者で、父親が祖父から継いだ耳鼻科を夫婦で経営している。

ひたすら努力でゴリゴリ人生を切り拓いてきた楓とは違い、彼女は持って生まれた才能と知的好奇心を生かし、のびのびとそのスペックを磨き上げてきた、いわゆる天才肌だ。

東大医学部を卒業、そのまま両親から医院を継ぐであろう彼女にとっては、一介の商社マンなど、確かに「一般庶民」なのだろう。

「そんなしょうもない基準でしか自分の価値を測れない男なんか、そもそも楓に合わないよ。大体、女子力のリハビリしたいんだったら、女としてときめける相手を探すのが先でしょ。」

「ときめける相手・・・ねぇ。」

ーそういえば、私は何にときめくんだったっけ。

元彼・敦と別れて以来、誰かに恋愛感情を抱いたことすら無いことに思い当たる。

ーまさか、本当に女子力が消えかけてる・・・!?

女のハイスペックは難しい。

男はハイスペックであれば自動的にモテるのに、女はハイスペックであればあるほど目の敵にされ、全く逆の「女子力」までもが求められる。

その不公平な事実に憤りながらも、そもそもが負けず嫌いな楓はここで諦めるわけにはいかないのだった。

「美里、ときめけそうな人、どんな人でもいいから紹介して!!」

ーああ、頭が痛い、こんなことに時間も労力も使いたくないのに。

言葉とは裏腹に、そんなことを考える。楓の苦悩は、まだまだ続きそうだ。

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「女子力」を諦めきれない楓。果たして仕事以外で彼女の心は動くのか?