比嘉慂氏の「ウーマク」が掲載された「ビッグコミックオリジナル増刊」11月増刊号

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 今月11日、沖縄県東村高江で米軍の大型輸送ヘリコプター「CH53」が牧草地で炎上・大破した事件は大きな衝撃を与えた。事故現場は住宅地からわずか300メートルしか離れていない場所であり、死傷者も出しかねない大惨事になっていた可能性もあったからだ。

 沖縄では、昨年12月にも名護市安部でオスプレイ墜落事故が起こったばかり。このような状況を改善することが喫緊な課題であることは誰の目にも明らかなはずだが、10月11日放送『報道ステーション』(テレビ朝日)の党首討論に参加した安倍首相は、今回の事故について「米側に原因の徹底究明と再発の防止を申し入れるように指示した」と述べるだけだった。

 何度聞かされたかわからない「再発防止」という空疎な言葉。この期に及んでまだそんな言葉が飛び出すあたりから、いかに安倍首相が沖縄市民のことなどどうでもいいと思っているかが透けて見えるわけだが、偶然にもそんな状況に呼応するかのような漫画作品が「ビッグコミックオリジナル増刊」(小学館)2017年11月増刊号に掲載され、話題となっている。

 それは、『美童物語』(講談社)や『砂の剣』(小学館)など、デビュー以来、沖縄戦や基地問題を扱った作品を多く描いてきた比嘉慂氏による52ページの読み切り作品「ウーマク」。

 この「ウーマク」という作品は、終戦から5年後の沖縄を舞台に、遺骨収集の活動を続けている元兵士を主人公とした漫画だが、映画監督の是枝裕和氏もツイッターでこのように紹介している。

〈ずっと沖縄の戦中戦後を描き続けている比嘉慂さんの新作『ウーマク』がビックコミックオリジナルの増刊号に。米軍基地内で遺骨収集する元兵士の話。このタイミングでの掲載は偶然だろうが、米軍ヘリのあの機体の残骸を目にしてなお、「不時着」と報じる新聞やテレビのニュースと是非読み比べて欲しい。〉

 前述した通り、「ウーマク」の舞台は太平洋戦争から5年が経過した沖縄。戦争の傷跡もまったく癒えていないが、同時に朝鮮戦争が始まる時期でもあり、沖縄のアメリカ軍基地から人殺しのために軍が派兵されようとしている状況が背景として描かれている。

 そんななか、鉄血勤皇隊の生き残りで、休みの日は戦死した仲間たちの骨を集める活動をしている主人公・天願忍は、ある日、3人の米兵から強姦されそうになっている少女を助けることになる(彼は空手の使い手で、屈強な兵隊たちも簡単に倒してしまう)。

 天願の勇気あるその行為は新たな面倒ごとを運んでくる。MP(米軍憲兵)の本部から「本当に天願ひとりで米兵3人を倒したのか確かめたい」という連絡が来たのだ。強姦事件の捜査の一環というのは名目だけの、いわば果たし合いの挑戦状であり、琉球警察局の運天賢勇は「面白半分だ。断ってもいい」と助言するが、天願は条件付きでその申し出を受ける。その条件とは、自分が勝ったら基地内で遺骨収集の作業をさせてほしい、というものだ。

⚫️比嘉慂が「ウーマク」で炙り出す、沖縄市民の米軍基地に対する忸怩たる思い

 ある日突然金網で囲われ、それ以降沖縄の住民は入ることができなくなった基地内の原野にはたくさんの遺骨が埋もれている。朝鮮戦争で基地が増強されて調査不能になってしまう前になんとか仲間たちの骨を拾い上げたいというのが天願の思いだった。

 果たし合いに際し、強姦の犯人以上に腕っ節の強い男たちを用意した米軍側だが、天願はまたしても全員を返り討ちにする。そうして米軍敷地内での遺骨収集作業が実現するが、親善を図るために協力参加した米兵の一人が遺骨を拾い集めるうち、戦争で亡くなった沖縄の人たちの幽霊を見て錯乱。その結果、MPから作業中止の命令がくだされてしまう。

 またとない遺骨収集の機会を奪われた天願と運天は帰り道、肩を落としながらこのように会話する。そこで語られる「この後味の悪さ、悔しさは米軍基地がある限り繰り返すのだろうな」という言葉は、2017年のいまをも想起せずにはいられない示唆的な言葉である。

運天「遺骨を見て錯乱したようだ。朝鮮へ派遣される兵士の一人らしい。」
天願「やはり、(引用者注:幽霊を)見たのですね。」
運天「そう叫んでいたね。私も見たが。」
天願「はい、ぼくも。もう無理でしょうね。ここでの作業は。」
運天「見せたくないだろう。戦争の傷は。特に戦場に行く兵士にはね。それに、本格的な基礎整備の工事が入るらしい。シャットアウトだ。この後味の悪さ、悔しさは米軍基地がある限り繰り返すのだろうな。」

「ウーマク」という漫画は、戦争によって奪われた沖縄市民の命に対する思いや、駐留し続けて沖縄に暮らす人々をさらに苦しめ続ける沖縄米軍基地問題に対し真正面から向き合った作品である。

 この「ウーマク」が掲載された「ビッグコミックオリジナル増刊」17年11月増刊号が発売されたのは今月12日であり、本稿冒頭にあげたヘリコプター事故とタイミングがかぶったのは完全に偶然だが、しかし、編集部側にはもしかしたら衆議院選挙に際して沖縄が直面する基地問題を改めて読者に投げかけたいという思いはあったのかもしれない。

⚫️漫画を通じて戦争の恐怖と平和の尊さを訴える「ビッグコミックオリジナル」

 というのも、系列誌である「ビッグコミックオリジナル」や「ビッグコミックスピリッツ」を含め、「ビッグコミック」は、「戦争」や「憲法」といった問題を読者に問い直す特集を何度も組んできたからだ。

 15年には、安部晋三首相による「戦後70年談話」発表を前にして、「ビッグコミックオリジナル 戦後70周年増刊号」を出版。水木しげる、松本零士、花輪和一、滝田ゆう、山上たつひこといった錚々たる大御所に加え、浅野いにお、さそうあきら、三島衛里子といった最近の漫画業界を牽引する注目作家まで、新旧取り揃えた作家たちによる描きおろしと再掲をあわせた16作品を掲載した。それらの作品は、「戦後70周年増刊号」の名の通り、どれも「戦争」を題材にしたものである。

 そのなかでもとくに注目を集めたのは、その年の11月に亡くなってしまった水木しげるによる描きおろし作品「人間玉」。

 本作は水木自身の戦争体験を題材としたもので、舞台はラバウル島に向かう輸送船。水木二等兵をふくむ兵隊たちは「ドレイ船以下」の状態で船底に押し込まれている。ここで敵襲の号令が鳴る。甲板へ出るには、一本の縄ばしごで上がるしかない。死に物狂いで縄につかまろうとする幾百人もの若い兵。人間に人間がしがみつき、結局身動きがとれなくなって、まるで巨大な玉となってしまう。その中ほどにいる水木は応戦の前に危うく窒息死しそうに......。

 本作について水木は、次のようなコメントを寄せている。

〈この船に乗っている時は「死」とか「無」に向かっていくような気持ちだった。だから、誰も先のことは考えないようにしていたネ。まもなくこの演習のような、そういう「死」を迎える状態がくるんだな、と思っていた。「ストップ人間玉!」だ。〉

 編集後記によると、戦後70年談話に軽くぶちあてるくらいの気持ちで始まったこの企画は、安保法制をめぐる問題などの事態の進展を受けて、どんどん「緊張感をはらんだ物」になっていったそうだ。

〈漫画家はやはり自由の民です。本能的にお上の胡散臭さを嗅ぎ分けてますし、自分の生死は自分の戦場で決めたいと考えています。だからこの増刊は時代のカナリアかもしれません。〉

⚫️「ビッグコミックスピリッツ」は参院選のタイミングに日本国憲法特集を企画

「ビッグコミック」はその翌年も〈時代のカナリア〉としての役目を果たそうとする企画を立てる。それは、「週刊ビッグコミックスピリッツ」16年7月18日号でのこと。ちょうど参院選の時期で、どう考えても「憲法改正」が争点のひとつであるのにも関わらず、安倍自民党は争点隠しに必死になっているところだった。

 その号では、浅野いにお、吉田戦車、高橋のぼる、若杉公徳など連載陣のイラストとともに日本国憲法の全文が掲載された小冊子を付録としてつけたうえ、グラビアページには、加藤夕夏(NMB48)、菊原結里亜(ひめキュンフルーツ缶)、小林れい(夢みるアドレセンス)、新井ひとみ(東京女子流)、新木こころ(LinQ・当時)、山木梨沙(カントリー・ガールズ)と、その年に18歳になり選挙権をもつようになったアイドル6人が登場。そのインタビューでは、日本国憲法を実際に全文読み通してみて何を思ったかを聞いているのだ。

 たとえば、愛媛県出身のローカルアイドル・ひめキュンフルーツ缶の菊原結里亜は、「法の下の平等」の理念に感じ入るものがあったと語る。そこには、女性として思うところがあったようだ。

「私が印象に残った憲法の条文は、第十四条です。法の下の平等。当たり前だと思っていることが憲法に書かれていることで守られているんだと驚きました。いじめや女性差別など、今も問題になっていることがたくさんあって、平等ってなんなのか改めて考えさせられました。普段から意識していないといけないことだなって」

 また、12年、13年と二度も日本武道館単独公演を成功させているグループ、東京女子流の新井ひとみは、より踏み込んだ感想を述べている。

「日本国憲法を初めて読んでみて、いいこと書いてあるなぁと思いました。
「第三章 国民の権利及び義務 第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」が特に気に入りました。表現することは自由で、憲法に守られているんだって。私も表現者のひとりなので、心強く感じました。後はやっぱり、第九条 戦争の放棄ですね。私は絶対戦争は嫌なんです。日本国憲法を守っていってもらいたい。だって、いいこと書いてあるんですから!」

 昨年の参院選に続き、街頭演説で安倍首相は改憲について一切言及していないが、選挙後は希望の党や日本維新の会などともに憲法改正に乗り出すことは明白だ。その際は、特定秘密保護法、安保法制、共謀罪で繰り返されてきた通り、異論をもつ者とはまともに議論をしようともしない、「数の暴力」を振りかざした強権的な国会運営がなされるのは確実だろう。

 漫画評論家の南信長氏は、前掲「ビッグコミックオリジナル 戦後70周年増刊号」のなかでこのように述べている。

「今や日本が世界に誇る文化となったマンガ。その発展は、戦後70年間、まがりなりにも続いた平和のおかげにほかならない」

 信念を貫いて〈時代のカナリア〉であろうとし続ける「ビッグコミック」系列漫画誌に拍手を送るとともに、彼らに続くメディアが続々と増えてくれればと願う。
(編集部)