東京大学にて公開講義を行った松尾豊、山極壽一、川村元気の3氏(左から)

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10月15日、東京大学本郷キャンパスにて工学者の松尾豊氏(東京大学大学院工学系研究科特任准教授)、霊長類学者の山極壽一氏(京都大学総長)、映画プロデューサーの川村元気氏が、現役大学生約200人に向けて公開講義を実施した。

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これは、“知のフロントランナー”と現役大学生が徹底討論する公開型授業「未来授業〜明日の日本人たちへ」の一環として行われたもの。今回の3人は、「AIは産業・社会の何を変えるのか? シンギュラリティ後の世界で私たちはどのように生きていくのか?」をテーマに大学生たちと熱い議論を交わしている。

なお授業の模様は、脳科学者・茂木健一郎の総合司会によるラジオ特別番組「NISSAN presents FM Festival2017 未来授業〜明日の日本人たちへ」として、TOKYO FM をはじめとするJFN38局で11月3日に放送される。

■ 松尾豊(東京大学大学院工学系研究科特任准教授)

まず1時限目は“人工知能研究の第一人者”である松尾豊氏が担当した。

現在の人工知能研究では機械学習(ディープラーニング)の分野が発展していることなどを説明した後、今後は「カンブリア爆発で生物が眼を持つことで生物の生存率が上がったように、AIが“眼”が誕生することで同じようなことが起こりうる」と予言。

「AIが人間の仕事を奪うか?」という大学生からの問いに対しては、「レジ打ちや会計など、“眼”による画像認識でカバーできる仕事は、人工知能による自動化が進む可能性がある」と示唆しながらも、「生産に直結していないシーンの仕事など、人間らしさが必要な仕事は残る。人間の仕事がなくなることは絶対にない」と力強く語っていた。

■ 山極壽一(京都大学総長)

2時限目は、“ゴリラ研究の第一人者”である山極壽一氏が登壇した。

ゴリラと人間のコミュニケーションの取り方の違いなどを語ったほか、「AIはデータを集積したデータベースであるのに対して、人間の頭の中はひらめきに満ちている。これが人間の知能の特徴」と指摘。

また、AIの発達によって一番恐れるべきことは“脳の外部化”だとして、「例えば、Amazonで本を買うと別の本をレコメンドされるように、多様であるべき人間の好みでさえもAIに指定され、自分の考えもAIのよって“外部化”されてしまっては、人間は選ぶだけの存在になってしまう」との危惧を語った。

続けて、その“外部化”を防ぐためにも、人間同士のコミュニケーションが重要だとして「コミュニケーションによる友情や愛など本能的なものは、データ化ができない。それら、いわゆる“直感力”を大切にしてほしい」と、大学生に向けて語りかけていた。

■ 川村元気(映画プロデューサー・小説家)

3時限目は、「君の名は」などを手掛けた映画プロデューサーの川村元気氏が登壇。

川村氏はクリエイティブの場面において、「普遍性×時代性」、「発見×発明」の掛け合わせを大切にしていると明かした。「普遍性×時代性」については、作品を作り上げるにあたって普遍的な“笑える”“泣ける”“怖い”といった要素に加え、「その作品が、なぜこの時代に?」といった理由が必要であると解説。また「発見×発明」については、世の中の面白いものを“発見”しながら、面白いものを構成する要素を組み合わせて“発明”することで作品を生み出している、と続けた。

その「発見×発明」の例として挙げられたのが、映画「バクマン」。マンガ制作の仕事場に見学に行った際、身体をボロボロにしながら作業している様子を「マンガと戦っているようだ」と“発見”。そこから、「マンガ制作をアクションとして表現できないか?」と考え、劇中ではプロジェクションマッピングと音楽を使うことを“発明”するに至ったと話していた。

また質疑応答で、大学生から「日常のささいな疑問をすくいあげる感性は、どのように育てているのか?」と問われると、「泣いている女性を見ていても、号泣していたり、泣くのをこらえていたり、“泣く”にもいろいろなレイヤー、側面がある。だから、泣くという言葉を使うときにも、最も適切な言葉を選び出すことを意識している」と返答。その深い言葉には、会場の大学生たちも大いに刺激を受けた様子だった。