『発達障がいの「子どもの気持ち」に寄り添う育て方』(西脇俊二著・日本実業出版社刊)

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「『どうしてできないの?』と、子どもをしかっても問題行動は解決しません」。発達障がいの専門家で、精神科医の西脇俊二氏はそう言います。「ちゃんとしなさい」ではダメ。それでは具体的にどう伝えればいいのか。子どもとのコミュニケーションをとるうえで、親が意識するべきポイントを解説します――。

※以下は、西脇俊二『発達障がいの「子どもの気持ち」に寄り添う育て方』(日本実業出版社)より一部を再編集したものです。

■怒る、しかる教育は、まるで意味がない

厳しいことをいうようですが、親や先生が子どもの言動に対して、怒ったり、しかったりすることは、まるで意味がありません。

なぜなら、怒る教育というのは「大人が強い」という力関係によって成り立っているからです。また、子どもに力関係でものごとを教えると、力関係でものごとを考えて、解決しようとする人になります。

たとえば、「叩かれて育った子は叩くようになる」などは典型的なケースです。基本的に、親が子どもを「怒る・しかる」のは、子どもが困った行動を取るときです。つまり、子どもの困った行動は、「親が正しい行動を教えていなかったから」ともいえます。

一般的に、日本の親は子どもを「怒る・しかる」という方法で育てる傾向にあります。その場しのぎで子どもをしかっても、子どもは理解できていないので、同じ問題が起きるたびに、何度も同じ行動を繰り返し、結局、問題は解決されません。

特に、発達障がいの子どもは、ガミガミと親にいわれることで、「対人緊張」を起こしやすいです。対人緊張は、常に不安と緊張にさらされている状態なので、子どもに何かの刺激が加わると、とたんにパニックを起こします。

■子どもがわかる基準で教える

そもそも、発達障がいの子どもは「やらない」のではなく、「できない」のです。子どもの困った行動を減らすには、怒る・しかるではなく、子どものレベルでも理解できる方法で教えていきましょう。

その際、一番大事なのは、親のレベルにあわせて教えるのではなく、子どものレベルにあわせて教えていくことです。そして、子どもが「やりたい」と思えるように、子どもの興味をひく工夫をして、教えることが大切です。

また、声かけも「ちゃんとしなさい」ではなく、「◯◯を△△に置こうね」などと、親は子どもがわかる具体的な表現で手順を伝えるように心掛けていきましょう。

■困った行動は冷静に対処

一方、子どもが困った行動を取ったときにはしかるのではなく、冷静に何がいけなかったのかを説明し、子どもに理解させます。

なぜなら、発達障がいの子どもは言葉で「○○しちゃダメでしょ!」としかられても、何が具体的にダメなのかを想像できないからです。なので、また同じ間違いを繰り返します。

たとえば、子どもが友達の髪の毛を突然引っ張ったり、腕を噛んだりしたときには、次のような対応をとりましょう。

(1)親はとっさに「そんなことしちゃダメでしょっ!!」としからず、まずは冷静になって、別室に子どもを連れて行き、興奮している状態を落ち着かせる
(2)その後、子どもが落ち着いてきたら、どうして友達に乱暴な行動を取ったのかを聞く。もし、子どもがうまく話しにくそうだったら、喜怒哀楽が書いてあるイラストや写真のカードを使って、子どもの感情を引き出す
(3)話を聞いた上で、子どもの気持ちに共感する
(4)また喜怒哀楽カードを使って、「友達の髪の毛を引っ張ったり、腕を噛んだら、相手は痛いよね。わかるよね?」と子どもの意志を確認する
(5)「悪いことしたと思ったら、謝ろうね」と教える

このように、子どもが困った行動を取ったときには、しかるのではなく、順を追って具体的に説明していくと、伝わりやすいです。また、子どもが言葉だけでは理解しにくいようだったら、先ほどの例のように、喜怒哀楽が書いてあるイラストなどを使うと、子どもに伝わりやすいです。

一方、子どもが理解して、正しい行動を取ったときには、すぐにほめてあげましょう。

■伝え方の9割は「声」と「表情」で決まる

アメリカの心理学者、アルバート・メラビアンは、著書『Silent messages』(1972年、Wadsworth Publishing Company)の中で、コミュニケーションには次の3つの要素があるといっています。

・言葉(意味)
・声の大きさ、強さ
・表情、動作

メラビアンの調査によると、コミュニケーションを取る上で、3つの要素が話し手から聞き手に与える影響の割合は、次のような結果になっています。

・言葉(意味):7%
・声の大きさ、強さ:38%
・表情、動作:55%

この結果からもわかるように、コミュニケーションの9割は「声」と「表情」で伝わります。

たとえば、お母さんが一生懸命、子どもにわかりやすいように教えているつもりでも、「こうでしょ、こうでしょ、こうでしょ」という声が強く大きくなって、眉間にしわを寄せていれば、子どもはしかられている気分になります。

これをコミュニケーションギャップといいます。この状態のとき、子どもは対人緊張を起こしているため、認知力はさらに下がり、何をいわれているのかがまったく理解できません。

子どもとコミュニケーションを取るとき、親は自分が相手からどのように見られているのかも意識してみましょう。穏やかな声や表情で伝えれば、親の言葉も子どもにより伝わりやすくなります。

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西脇俊二(にしわき・しゅんじ)
精神科医。ハタイクリニック院長。精神保健指定医。金沢大学薬学部非常勤講師。弘前大学医学部卒業。国立国際医療センター精神科勤務、国立秩父学園医務課医長などを経て、2009年から東京都目黒区のハタイクリニック院長に就任。テレビドラマの医事監修を担当。専門分野は、精神医学、発達障がい全般のほか、がん、代替医療。著書に『アスペルガー症候群の「そうだったんだ!」が分かる本』『アスペルガー症候群 家族の上手な暮らし方入門』(宝島社)などがある。

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(精神科医/ハタイクリニック院長/精神保健指定医/金沢大学薬学部非常勤講師 西脇 俊二)