ブデロビブリオ・バクテリオヴォルスが病原菌を死滅させるサイクル(沖縄科学技術大学院大学提供)

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世界中で抗生物質(抗菌剤)がほとんど効かない耐性菌による死者が急増しているが、「毒は毒をもって制す」とばかりに「細菌を食べる細菌」で退治するという画期的な研究が発表された。

沖縄科学技術大学院大学の研究チームが米国化学会機関誌「ACS Synthetic Biology」(電子版)の2017年10月号に発表した。人間には無害だが、病原菌を好んで捕食する細菌を利用するという。

獲物の病原菌の体内で生きたまま食べる怖いヤツ

耐性菌については、放っておくと2050年には最大で毎年1000万人の死者が出るという報告が2016年5月に英政府研究機関から出されている。同月に日本で開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でも「人類が直面する最重要課題」として首脳宣言に対策強化が明記された。

沖縄科学技術大学院大学の発表資料によると、研究チームが着目したのは病気の原因となる細菌をエサにする捕食性細菌の仲間だ。いわば「生きた抗生物質」と呼ばれる肉食細菌の中でも「ブデロビブリオ・バクテリオヴォルス」に注目した。B・バクテリオヴォルスは、人間にとっては無害な細菌だが、大腸菌やサルモネラ菌、レジオネラ菌、コレラ菌、淋菌など毒性が強いことが特徴の「グラム陰性菌」と呼ばれる細菌類を捕食の対象にしている。

B・バクテリオヴォルス自身は、エサになる病原菌よりはるかに小さい。捕食活動は図のように(1)獲物を探し、獲物の中に侵入する(2)獲物を内側から食べて成長する(3)獲物の中で3〜6つに分裂、死んだ獲物から抜け出し、それぞれが新しい獲物を探し始める、という周期を繰り返す。

この捕食活動をうまくコントロールすると、多くの感染病を治療できる可能性がある。ただ、その独特な捕食特性のため、これまで行われてきたB・バクテリオヴォルスの遺伝子操作は限定的なものだった。研究チームは、「リボスイッチ」という遺伝子の働きをコントロールする仕組みを利用。リボスイッチをB・バクテリオヴォルスの捕食活動に重要な鞭毛の遺伝子の1つに挿入し、特殊な化学成分でリボスイッチを活性化した。

そして、活性化したリボスイッチを挿入したB・バクテリオヴォルスを、エサになる大腸菌とともにシャーレに入れると、数倍も早く増殖し大腸菌を死滅させることが観察できた。これは、リボスイッチと化学成分で、B・バクテリオヴォルスの捕食活動を活発化させ、コントロールできることを示している。

食中毒予防に「肉食細菌」を食品にスプレーする時代が

このB・バクテリオヴォルスは病気の治療だけでなく、農薬の代わりにも期待できるという。研究チームのモハメド・ドゥイダール博士は発表資料の中で「有機栽培の植物病害に対し、抗菌剤に代わる安全な『農薬』となり得る可能性があります。さらに、水処理施設などにも活用することができるかもしれません」と語る。研究を主導した横林洋平准教授も「将来は、食中毒を防ぐために、これらの捕食性細菌を新鮮な食品にスプレーして使えるようになるかもしれません」とコメントしている。