伊勢神宮では年間一千超の神事が行われています。驚きですね。10月17日を恒例とする伊勢神宮の大祭、神嘗祭(かんなめさい)は、その年に収穫された新穀を最初に天照大御神(あまてらすおおかみ)に捧げるお祭りです。さらに附属して春から続く様々な諸祭があり、神宮の年間の祭典は神嘗祭を中心に行われているといっても過言ではありません。そんな伊勢神宮の神嘗祭の流れを、垣間見てみましょう。


春の神宮神田の種蒔きと田植え、そして秋の抜穂祭

神宮神田(じんぐうしんでん)は二千年前、倭姫命(やまとひめのみこと)が御料のお米を作るように定めたという伝承のある場所。五十鈴川の水をひき、うるち米ともち米が育てられています。神田では天候不順や台風などの被害を最小限にとどめるために、多くの品種を育てて、時期をずらして植えるそうです。
神宮神田では4月上旬に種蒔きの神田下種祭(しんでんげしゅさい)、5月には神田御田植初(しんでんおたうえはじめ)が行われます。笛や太鼓に合わせ、早乙女たちが田植えを行います。早乙女とは、稲の苗を水田に植えつける女性のことで、本来は、田植に際して田の神を祭る特定の女性を指したとも推察されます。稲の豊作を女性の霊力や生殖力に介して祈る意味もあり、田植えが終わると近くの摂社大土御祖(せっしゃおおつちおみや)神社で、豊穣を祈る踊りを捧げます。
暑い夏を経てたわわに実る稲穂が頭を垂れると、9月の抜穂祭(ぬいぼさい)を迎えます。抜穂祭は、神田下種祭と合わせて大切な祭りで、収穫された新米は神嘗祭で大御神に奉られます。

神宮神田


一年の豊穣に感謝する神嘗祭

9月末には神嘗祭を迎えるための準備の祭りが始まります。神職と楽師をお祓いする儀式の大祓に続き、10月1日には新穀で新酒を造る御酒殿祭(みさかどのさい)、5日には御塩を焼き固める御塩殿祭(みしおどのさい)などが行われます。
そして10月15日午後5時、内宮での興玉神祭(おきのたまのかみさい)から大祭は始まります。同15日宵と16日暁には豊受大神宮(とようけだいじんぐう)(外宮)で執り行われるのが、由貴大御饌(ゆきのおおみけ)。由貴大御饌とは、尊い食事をお供えするという儀式で、神嘗祭の中でも、メインの儀式の一つとなります。静寂の中、大宮司以下四十名の神職が純白の装束で、神田で収穫された新穀から調製した御飯、御餅、御神酒を中心に、アワビや鯛、伊勢海老、野菜、果物など三十種の神饌を神前に供えます。続いて祝詞を奏上し、皇室をはじめ世界の人々の平安が祈られます。
16日正午には天皇陛下の勅使が参向し、絹織物を供える奉幣の儀が執り行われたのち、午後6時には御神楽が捧げられます。そして皇大(こうたい)神宮(内宮)では1日遅れて、それぞれの儀が執り行われます。この両正宮に続き、25日まで十四の別宮をはじめ、驚くべきことに百九社の摂社末社所管社全てにおいて、神嘗祭が行われるのです。一般的には10月17日を恒例とする神嘗祭は、実際には10月15日から25日まで行われています。まさに伊勢神宮における最大のお祭りといえます。

伊勢神宮 内宮


馬で来る神嘗祭の勅使かな

神嘗祭は私たちからみれば、神宮で二千年も継続されてきた、畏れ多い祭祀でもあります。そのせいか、晩秋の季語・神嘗祭に関する俳句は、一般的な季節の風物詩に比べて目にすることが少ないようです。そんな中で、厳粛ながらも五穀豊穣への感謝を漂わせた句を最後にご紹介して、改めて古代からのお祭りに思いを馳せたいと思います。

・神嘗の供進使仕ふ祭なり     斎藤俳小星
・神嘗や豊秋津洲の民となり    出口叱牛
・馬で来る神嘗祭の勅使かな    野田別天楼

俳句の引用と参考文献:
『角川俳句大歳時記「秋」』(角川書店)
『ザ・俳句十万人歳時記 秋』(第三書館)
Kankan(著・写真)『伊勢神宮 日本人のこころのふるさと』 (JTBパブリッシング)
瀧音 能之 (著)『図説 日本人の源流をたどる!伊勢神宮と出雲大社』(青春出版社)