『監獄のお姫さま』は集大成ーーTBS・金子文紀Dが語る、宮藤官九郎とのドラマ作り

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 スペースシャワーTVの高根順次プロデューサーによるインタビュー連載「PRODUCERS’ THINKING」第四回では、10月17日よりスタートするTBSの火曜ドラマ『監獄のお姫さま』のチーフディレクター兼プロデューサーを務める金子文紀氏にインタビュー。

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 金子氏は、脚本家の宮藤官九郎と『木更津キャッツアイ』を世に送り出したほか、数多くの傑作ドラマに携わり、最近では『逃げるは恥だが役に立つ』『カルテット』『あなたのことはそれほど』などの話題作も手がけている。

 この度スタートする『監獄のお姫さま』では、再び宮藤官九郎をタッグを組み、小泉今日子、満島ひかり、夏帆、坂井真紀、森下愛子、菅野美穂といった一流の女優陣を迎え、かつてない“おばさん犯罪エンターテインメント”を繰り広げる。

 同作の見どころはもちろんのこと、宮藤官九郎との出会いや自身のドラマ論、そして話題性抜群のドラマが続く火曜ドラマ枠についてまで、じっくりと話を聞いた。

■「僕にとっては集大成とも言える作品」

ーー宮藤さんと金子さんが一緒にお仕事をすることになったきっかけは?

金子:99年に深夜枠で『コワイ童話』というシリーズもののサスペンス・ホラーをやることになって、そのときにはじめて一緒に仕事をしました。『コワイ童話』は1話が30分で4話完結の短いドラマを計6本やるというもので、キャストはもちろん、脚本家やスタッフからも新人を発掘しようという、いわば若手を育てるための番組でもありました。僕はディレクターになって2年目くらいの頃で、磯山プロデューサーが宮藤さんと引き合わせてくれました。そこでやった「親ゆび姫」というドラマは、主役を栗山千明が、相手役を高橋一生が務めました。宮藤さんは2000年に『池袋ウエストゲートパーク』で連続ドラマデビューを果たして、僕も3番手のディレクターとして参加させてもらいました。そして2002年に『木更津キャッツアイ』でチーフディレクターを務めさせていただいて、以降、『タイガー&ドラゴン』(2005年)や『流星の絆』などを共に手がけてきました。

ーー金子さんはもともとドラマのディレクター志望だったのでしょうか?

金子:いえ、もともと僕は理系の人間で、自分にはドラマみたいな繊細なものは作れないと思っていました。本当はバラエティ番組が作りたかったのが、たまたまドラマ部に配属されただけです。だけど、仕事を続けていくうちに面白くなっていって、宮藤さんの『木更津キャッツアイ』を手がけた頃には、自分はドラマディレクターとしてやっていこうと腹が決まりました。だから、宮藤さんの作品には特別な思い入れがあるんです。今回の『監獄のお姫さま』は、一番やってみたいジャンルの作品で、出演する女優さんたちも最高のメンバーが集まっています。僕にとっては集大成とも言える作品なので、期待してほしいですね。

ーー『木更津キャッツアイ』はカメラアングルや構成が斬新で、とても刺激的な作品でした。あのような演出手法は、どのように生まれたのでしょう?

金子:完全に“ノリ”ですね。僕は映画少年でもないし、そういう勉強・研究をしていた訳でもないので、「こんな風にしたら良いんじゃないかな?」と、感覚だけで撮ってきました。カット割りを決めて、カメラマンに「もっとワイドに撮ったらどうか」とか相談しながら、自分なりに工夫を重ねていった結果、ああいう作品になったんです。たとえば、普通は長玉(望遠レンズ)で撮った方が綺麗な画になるところを、あえてワイドで撮ってみたり。特に宮藤さんの脚本は、ワイドで撮った方が本の面白さがよりにじみ出るような気がするんですよ。今回の『監獄のお姫さま』も、ワイドを多用していますね。

ーーチーフディレクターは、ドラマの全話に携わるのですか?

金子:少なくともTBSでは、初回と最終回を撮るのがチーフディレクターの役割です。初回を撮れば基本的な方向性は定まりますからね。普通、連続ドラマは、一週間で一本のペースで撮らなければいけないから、ちゃんと分業をしないと回っていきません。だから、チーフディレクターも自分の担当回のみを撮ます。基本的にほかのディレクターの回に口を出したりはしません。各ポジションも、脚本家と一緒に本を作っていくのはプロデューサー、衣装は衣装、セットはデザイナーと、すべて分業です。もちろん、その中でディレクターがジャッジして、「こっちの方が良いんじゃない?」と言うこともあるけれど、ディレクターが1から10まですべてを決めるということはないです。

ーー映画と比較すると、かなりシステマティックに感じますが、そこにこそテレビ局という会社組織ならではの強みもありそうです。

金子:良いシステムだと思いますよ。大体、40年間ヒット作を出し続けられる人なんていないし、だからこそみんなで協力してやっていくわけで。うまくいっている人がいたらその人に乗っていって、もしその人の調子が悪くなったら、ほかのうまくいっている人に乗っていく。常に誰かがうまくいって回っているのであれば、それで良いじゃないですか。これはテレビ局に限った話ではなく、そういう風にお互い様で助け合ってやっていけるのが、会社制度の良いところだと思います。僕自身、才能があるなんて思っていないし、フリーになりたいと思ったこともありません。

■「おばさんたちにだって譲れないことはある」

ーー最近だと金子さんは、『逃げるは恥だが役に立つ』や『カルテット』、『あなたのことはそれほど』など、火曜ドラマの話題作を手がけています。その中での自信作は?

金子:自分が手がけたドラマは全部好きだけれど、最近では『逃げ恥』の第6話ですね。ふたりが温泉旅行に行って、最後に電車で帰ってくる話。あれは僕の中で傑作なんですよ。でも、何より今回の『監獄のお姫さま』こそが、一番の自信作ですね。第1話と第2話はすでに撮り終えているのですが、手応えはあります。

ーーここ数年のテレビドラマを観ていると、SNSで話題になることがヒットの一因になっているように感じます。反響は気にしますか?

金子:良い話は気にするけれど、悪い話は気にしないようにしています(笑)。あまり考えすぎると病んでしまいますからね。昔、『ケイゾク』をやっていたときに、2ちゃんねるで話題になっていたのでよく読んでいたんですけれど、そこの意見に振り回されそうになって、これは良くないなと。ただ、ツイッターの時代になってからはそれが宣伝効果になって、視聴率だけではなく、話題性にもつながるから、ありがたいとは思っています。どのシーンにどんな反響があるのかは参考になるから、オンエアー中はチェックもしますね。ただ、最近は行間が読まない人が増えているのかなという懸念もあって。

ーーそうかもしれません。

金子:ドラマの醍醐味って、登場人物が気持ちとは異なる行動を取ったり、正直に言うのが照れ臭いから捻くれた言い方をしたりして、それに対して見た人が「本当はこう思っているんでしょう?」って想像するところにあると思うんです。そして、実生活での会話や人間関係の中では確認できないような感情を、彼らの姿を通して再確認する。「この人の気持ちはわかるな」とか、「あの人ももしかしたら同じように思っているのかな」って。こういう表現は、バラエティー番組やニュース番組では表現しづらいことで、そこにドラマの良さがあると思うのですが、最近は話されている言葉や見えている姿が面白ければそれでOKというか、行間のない、考えなくても良いドラマが求められているようにも思います。だからこそ、せめて僕らの作るドラマではいろいろと考えて、想像を巡らせて観てもらえるようにしたいですね。

ーー『監獄のお姫さま』の登場人物は罪を犯した女性たちで、たしかにいろいろと考えさせられそうです。

金子:基本的に、彼女たちのやっていることはくだらないことばかりで、良い大人なのにふざけてばかりいるように見えるんですけれど、刑務所という過酷な環境にあって、彼女たちはそうしなければやっていられないんだと思うんです。そして、刑務所に入るまでには、みんなそれぞれ口に出したくないほどの深い傷があって、それを抱えながら生きている。刑務所に入ったからといって、何もかもをあきらめたり、捨てているわけではなくて、譲れないことだってちゃんとある。大人になれば誰もが少なからず抱えているそういう感情を、彼女たちの姿から感じてもらって、楽しんでもらえたら嬉しいですね。

ーー火曜ドラマには毎回、いろんな人生を抱えた登場人物たちがいますが、それぞれの生き方を否定しない物語になっているのが特徴なのかなと。

金子:否定も肯定もしないですね。なにかを決めつけるのではなくて、多様性を受け入れるというテーマの作品が多いと思います。人はこうあるべきと決めつけるのは、なにも良いことを生み出さないと思うし、こういうテーマの作品が求められるのはすごく良いことだと、僕は思っていますね。もちろん、社会の中でやっていく上で、規律は必要だし、それがなければ回っていかないこともたくさんあります。そういうストレスを解消していくのも、ドラマの役割なのかなと。

ーー『監獄のお姫さま』も、そういう作品になっていくと?

金子:もちろん犯罪を犯すのは悪いことだし、それを肯定はしないのですが、だからといって彼女たちを人でなしとして描くのは違いますよね。犯罪を犯した側の人間にだって辛い事情があるだろうし、逆に彼女たちをどうしても許せない人間もいるはず。だから、答えは出せないと思います。連続ドラマは毎回、最終回をどう締めていくのかが難しいんですけれど、答えはなくともなにかを感じてもらえるドラマにはなっているはずなので、ぜひ観てください。(取材=高根順次/構成=松田広宣)