日産自動車の西川廣人CEO

写真拡大

 10月に入り、国内企業の不祥事が相次いで発覚した。日産自動車では無資格の従業員が完成車の検査を行っていたことが発覚した。これに続いて、神戸製鋼所では同社が事業成長の要=戦略事業と位置付けてきたアルミ製の部材が、顧客の求める品質基準を満たしていなかったことが発覚した。

 両者に共通する問題は、長年の間企業の経営陣が不正を認識できていなかったことだ。日産のケースでは国土交通省の検査によって検査の不正が明らかになった。また、神戸製鋼の場合は現場管理職からの報告によってデータの改ざんが発覚した。

 長年にわたって安全性などの基準を満たしていなかった恐れのある製品が消費者や企業に供給されてきたことを考えると、社会的な影響は大きい。“企業の社会的責任”が求められているなかで、こうした不祥事が続いていることは軽視できない。日産、神戸製鋼をはじめ、問題が発生するたび企業統治(コーポレートガバナンス)を強化し、コンプライアンスを徹底すべきとの論調が増える。そこに異論の余地はない。加えて、経営者にどのような心構え、取り組みが必要かも議論されるべきだ。

●度重なる企業の不祥事=経営の機能不全の表れ
 
 日産と神戸製鋼の不祥事発覚には共通点がある。それは、組織ぐるみで検査やデータの改ざんが行われていたということだ。本来であればこうした不正行為は、内部統制や業務監査によって発見されるべきだった。いずれの場合も、組織内部に設置された検査機能はワークせず、問題は放置されてきた。

 これは、企業の経営が機能不全に陥ってきたことが考えられる。どのようにすれば不祥事をなくすことができるか、さまざまな論点がある。しかし、ここでは論点を広げるのではなく、焦点を絞る必要がある。

 不祥事を防ぐためには、経営者の強い“コミットメント”が必要である。それは、目標を実現するために、自ら責任者として能動的に取り組むことだ。経営者の役割は、企業全体の大きな方向性=戦略を示し、組織の進むべき方向性を示すことである。その戦略を実行するなかで、各事業部にどのようなリスクがあるかを事前に把握し、業務の確実な執行を実現しなければならない。そのために必要な取り組みを策定し、実際に指示していくことが経営者の役割だ。

 特に、安全面などの基準のクリアは製品やサービスの根幹にかかわる。それが企業の社会的な信用を左右することはいうまでもない。それが満たされていなかったことは、経営者として何をすべきか、もっとも基本的なポイントを見落としていたことの裏返しといえる。

 常に私たちは理論や規範が想定した通りに行動する、合理的な存在であるとは限らない。時として、求められているものとは異なる意思決定、行動をとることもある。徹夜の麻雀が翌日の業務に響くとわかっていても、誘われるとついつい応じてしまう。新しい業務計画をまとめるよう指示されても、どうしても昨年までの計画をもとにしてしまうこともあるだろう。私たちの心は周囲に流されやすい。それは、移ろいやすく“弱い”ものだ。だから自律しようと思ってもなかなかうまくはいかないことが多い。

●強い組織の必要性

 この弱い心を止め、正規の手続きに則って事業を進める制度の設計が経営者の役割といえる。いい換えれば、コンプライアンスを徹底したうえで利益の獲得を追い求める組織をつくらなければならない。それは、不正を発見し報告する機能の備わった“強い”組織というべきだろう。

 結論を先に述べると、組織力の強化は他人任せにはできない。「そんなの当たり前だ」と思う人は多いはずだ。ただ、日産や神戸製鋼のケースを見る限り、当たり前のことが実行されていなかった。これを繰り返してはならない。

 2013年以降、政府はアベノミクスの具体的な施策を取りまとめた“日本再興戦略”などを通してわが国のコーポレートガバナンスの強化が重要であることを訴えてきた。ESG(環境・社会・ガバナンス)の視点に基づいて、経営者に持続的な経営へのコミットメントを求める機関投資家も増えている。

 制度面の整備は進んできたものの、想定されたほどの成果は上がっていないというのが現実だ。外部からの圧力も重要だが、それ以上に経営者自らの意思決定と実行力こそがガバナンスの強化には欠かせない。

 韓国のサムスン電子の経営を見ていると、経営者が何をすべきかがよくわかるだろう。中興の祖といわれるイ・ゴンヒ氏は健康問題から事実上、経営の第一線を退いた。その後を継いだイ・ジェヨン氏(サムスン電子副会長)はパク前大統領への贈賄罪などから、一審で懲役5年の判決を言い渡されている。本年4-6月期、経営トップ不在のなかでもサムスンは過去最高益を達成した。それは、これまでの経営者が問題を克服し、収益を獲得するスピリットを組織に吹き込み、定着させたことに支えられているといえる。わが国の経営者にもこうした発想があってよいだろう。

 政府としては、制度面の拡充を求めるだけでなく、不正排除のための取り組みを支えることも必要だ。そうした取り組みが国内の企業全体で是は是、非は非として扱う“是々非々”の価値観を涵養することにもつながるのではないか。

●経営管理のためにも重要な“省人化”

 個別企業の経営者の視点に立ち返って考えると、少なくとも経営者は“性悪説”をもとにして、組織全体が望ましい方向に向かうよう取り組まなければならない。具体的には、品質検査、内部監査等が常に、一定の基準に基づいて実施されていくために、ヒトの判断や感覚に頼った部分を極力少なくしていくことが求められる。「これくらいなら、いいか」という妥協を許さない経営者の心構えと、それに向けた取り組みが必要だ。

 どのようにすればよいかといえば、人が関与する部分を減らすことだろう。少子高齢化が進むなか、人から人へ技術の伝承を進めることは容易ではなくなっていく。製造の現場だけでなく経営管理のための省人化を進め、見落としなどのムラを排除し、客観的な生産のモニタリング、安全基準の審査などを行うことの重要性は高まっていくと考えられる。

 これまで蓄積されてきた検査などのデータを分散型のネットワークで管理し、企業の各生産拠点で発見された部品や完成品の不備に関するデータを入力することで、理論的には検査態勢の向上が期待できる。それを実際の使用データと関連付けることで、検査基準が適切か否かを検証することも可能となるだろう。その上で、有資格者による検査などを行うことで、不正の可能性を低下させることはできるだろう。

 今日、ネット企業や新興国企業の成長などによって、企業間の競争は熾烈化している。そのなかで、不祥事の発覚などによって競争力を低下させてしまうと、海外の企業に買収される可能性が高まる。その結果、国内での業界再編が進み、他の企業にも無視できない影響が及びやすくなっている。

 このように考えると、日産や神戸製鋼の不祥事発覚を対岸の火事として考えるべきではない。個々の企業の内部に、同じことが発生するリスクはある。今から、経営者は不祥事の発生を防ぐ取り組みを一つひとつ進めるべきだ。そうした取り組みが組織の強化につながり、企業の持続性を高めることにもつながるだろう。
(文=石室喬)