「Thinkstock」より

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 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、全国的に禁煙ムードが高まっている。

 そんななかで、都民ファーストの会から「東京都子どもを受動喫煙から守る条例案」が9月の都議会定例会に提出され、10月5日に賛成多数で可決された。この条例では、子どもがいる自宅や自家用車の中、通学路などを禁煙とする。当初は努力義務だが、いずれ罰則付きとする可能性を示唆している。さらに、将来的には飲食店などの屋内が罰則付きで全面禁煙になるという。

 これに対しては、支持する声もあるが、非喫煙者や法律の専門家からも「やりすぎではないか」という声も上がっている。当然、愛煙家たちは歓迎したくないだろう。

 喫煙擁護派は、この条例をどのようにみているのだろうか。そこで今回、『たばこはそんなに悪いのか』(ワック刊)という書籍も上梓している「喫煙文化研究会」に話を聞いた。同研究会は、作曲家のすぎやまこういち氏が代表で、東京大学名誉教授の養老孟司氏、作家の筒井康隆氏、脚本家の倉本聡氏、漫画家のさいとうたかを氏などが会員に名を連ねている。

●都民ファーストの会の条例案は人権侵害問題

「タバコの煙を子どもに吸わせてはいけないという部分に関しては、もちろん賛成です。ただ、家の中に政治や行政が介入するというのは大きな問題だと考えています。現在の提案は努力義務で済んでいますが、これが今後、罰則が付くようになると、近隣住民の喫煙を監視し合うような通報社会になりかねません。これがもっとも危惧するところです。

 また、これは条例であり、法律でもなければ憲法でもありません。そんなものがプライバシーに介入していいのでしょうか。タバコをはじめとする嗜好品というものは、その根本に憲法で規定されている幸福追求権があるわけですから、これは喫煙者どうこうの話ではなく、人権に関わるレベルの話だと考えています」(喫煙文化研究会事務局長・山森貴司氏)

 そもそも、都の条例をはじめとする世の禁煙ムードは、オリンピック招致に際し、日本は受動喫煙対策が遅れているという批判から高まったように思える。しかし、実際にはそれは誤った認識だという。

「日本の受動喫煙対策が遅れているというのはとんでもない誤解で、実際は屋内も屋外も分煙がされていて、世界的に見てもかなり規制が進んでいます。それでは、なぜ遅れていると言われるかというと、WHO(世界保健機関)の『タバコ規制枠組条約』の基準が、屋外ではなく、屋内をどれだけ禁煙にするかという部分に重きを置いているからです。それに照らして考えると、確かに日本は諸外国と比べて屋内全面禁煙をしていないために、規制が進んでないといわれるのです。しかし、ヨーロッパなどは屋外の喫煙に関しては規制が非常に緩いですから、屋外の状況も踏まえて客観的に考えれば、日本が遅れているというのは誤りといえるでしょう」(同)

●タバコは決して「百害あって一利なし」ではない

 このように、世の禁煙ムードを助長させている「日本の受動喫煙対策は、世界の中でも最低レベル」という風潮が、そもそも間違っているという。そして、もとを正せばタバコが「百害あって一利なし」という認識自体、疑問を呈するところだと山森氏は語る。

「もちろん、タバコは体にいいものではないでしょう。実際、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺気腫に悪いというのは確実だと証明されています。ただ、一般的にいわれている肺がんへの影響については非常に不確かです。日本の喫煙率は1966年の成人男性83.7%をピークに下がり続け、現在は男女合わせて18.2%という調査結果が出ていますが、その一方で肺がんによる死亡率は上がり続けているわけで、実際には理由付けができないはずです。そもそも、今や2人に1人ががんになる時代ですから、それを全部喫煙のせいにするのはおかしな話です。

 喫煙の影響は20〜30年後に表れるという反論もありますが、すでに喫煙率のピークから30年以上たっているのに、平均寿命はまだ伸び続けています。したがって、一般的にいわれているほどタバコは体に悪くないのではないかというのが私の見解です」(同)

 また、山森氏によれば、タバコバッシングは、タバコに対する過剰なまでの健康被害意識によるところだけではないという。

「厚生労働省は2002年に健康増進法をつくったがゆえに、健康を増進させなければならないのです。そのうえでターゲットになるものは3つあります。排気ガス、お酒、タバコです。

 実は、この中でもっとも健康被害が大きいのは排気ガスで、タバコから出る有害物質が年間約1万トンに対して、排気ガスによる有害物質は何百万トンともいわれています。それでは、なぜ排気ガスに批判の矛先が向かないかというと、そういった健康被害などを報じるべき多くのメディアが広告料の利益を重視しており、一番広告出稿量が多い自動車業界を敵に回すわけにはいかないからです。

 そして、もうひとつの嗜好品であるお酒、これもまたマーケットが巨大で、税収もかなり大きいため、パワーバランスで負けているタバコが狙われるのです。

 タバコがもっとも体に悪そうにみえ、しかも一番攻撃しやすいから標的にされる。これが、タバコがここまで責められている要因だと思います」(同)

●タバコを100円値上げして完全密閉の喫煙所設置

 タバコはどうしても悪い面ばかりが取り上げられ、叩かれる運命にあるのかもしれない。それでは、タバコを吸うことによるメリットはあるのか。

「ひとつ目は、やはりリラックスできるという点です。これは、タバコを吸う行為自体はもちろん、タバコを吸うことができる余裕が、時間的にも精神的にもあるということですから、それに起因するところもあると思います。

 もうひとつは、頭がしゃっきりして気分転換になるという点です。これは、ニコチンの覚醒効果によるものです。喫煙者にとっては、仕事の合間に吸うとことで、頭のスイッチの切り替えにもなっていると思います。

 タバコを通じたコミュニケーションもメリットのひとつです。喫煙所での交流というのは、身分の垣根を越えたものですから、タバコをきっかけに仲よくなったり、仕事が円滑に進むようになることもあるでしょう。

 また、昔でいうとパイプやキセルに葉巻、こだわりのブランドやラベルなど、喫煙というのは趣味嗜好の世界でした。タバコには、そういった文化的な側面もあると思います」(同)

 このように、喫煙が「百害あって一利なし」という意見を否定する。さらに、「医学的な見地から、ニコチンが統合失調症の症状を緩和させる効果がある」(医学博士の葦原祐樹氏)との主張もある。

ただ、こういったタバコのプラス面は、実際に吸ってみないとわからない部分が多く、なかなか目を向けてもらいにくい。そのため、今後も喫煙者の肩身は狭くなっていくだろう。そんななかで、喫煙者ができることは何かあるだろうか。

「今は、非喫煙者が約8割と大多数を占めていますから、そのなかでいかに迷惑をかけないように吸うかというのが重要になってくると思います。ポイ捨てしない、吸ってはいけないところでは吸わないといったマナーを守り、なんとか落としどころを探っていきたいですね。迷惑さえかけなければ、非喫煙者の人も受け入れてくれるでしょう。

 ただ、マナーを守ろうにも、吸う場所があまりになさすぎるという問題があります。そこで、これは提言なのですが、屋内を全面禁煙にするのではなく、完全密閉で副流煙が外に出ないような喫煙室をつくっていただきたい。ただ、それには財源が要りますよね。本来であれば、年間2兆1000億円もあるタバコ税を使っていただきたいところです。しかし、こんな状況ですから、それに関しては譲歩して、完全密閉の喫煙所設置のための使途目的税としてタバコを100円値上げする。こうすれば、空気が汚されないわけですから、非喫煙者も納得してくれるのではないでしょうか」(同)

 タバコが法律で禁止されていない嗜好品である以上、本来、喫煙することは問題がないはずだ。それにもかかわらず、東京都の条例のように、喫煙者をシャットアウトするような政策がとられていることは、議論を呼びそうだ。
(文=中西俊晶/A4studio)