元国税調査官の大村さんが国税局の裏話や節税対策などを教えてくれる大人気メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』。今回は、ニュースでも話題となった「さいたま市税務職員の違法取り立て」と、「税金・社会保険料に無頓着すぎる日本企業の無知」という2つのテーマについて。どちらも「明日は我が身」の内容で全読者必見です。

さいたま市の税務職員による税金の違法取立て

10月3日のさいたま新聞で以下のような記事が載りました。

月収35万円で32万円を徴収 住民親子、さいたま市を提訴「税金の違法な取り立て」

さいたま市による税金の違法な取り立てで身体的・精神的な損害を受けたとして、同市桜区の男性会社員(68)と飲食店従業員の長女(38)が3日までに、市を相手取り、税金滞納差し押さえ処分の無効と慰謝料など計約1420万円を求めて、国家賠償請求訴訟をさいたま地裁に起こした。提訴は9月27日付。男性は月収35万円のうち32万円を取り立てられていたという。原告側の弁護士によると、税金の違法な取り立てを理由とする同訴訟は県内初。全国では2例目とみられる。

訴状などによると、男性は事業の失敗などにより負債を抱えて滞納税金を分納しており、2015年5月ごろから月8万円ずつ納めていた。16年1月ごろ、男性の妻(61)が市に月32万円の給与を差し押さえる承諾書を提出するように指示され、男性の署名と押印で提出。市は承諾書に基づいて、同年5月から14カ月分、毎月32万円の計448万円を差し押さえた。

また、同じく滞納税金があった長女は15年12月15日、給料日に口座が差し押さえられて残金が0円になっていた。

男性らは承諾書を利用した差し押さえ処分が無効で撤回されるべきであり、長女に対しては差し押さえが違法であると主張。男性はタクシー運転手の仕事で月約35万円の収入を得ているが、本人の意思が反映されていない承諾書を書かされて、給料の大半を差し押さえられたとしている。

男性は妻、長女、長男の4人暮らし。妻はパート、長男は職に就いていない。男性は返済のため、毎日深夜勤務をした結果、血を吐いて倒れて救急搬送された。医師には「5分発見が遅かったら命がなかった」と言われたという。(さいたま新聞 2017.10.3より)

元国税調査官・大村大次郎さんの解説

この事件は、さいたま市の違法な取り立てを報じているわけですが、なぜこのようなことが起きたか、その背景をまずご説明しますね。

税務職員というのは、ノルマ的なものがあります。徴収業務の場合、自分が割り当てられた案件については、限りなく全額徴収することが求められるのです。つまり職員たちは、全額徴収することを半ば義務付けられているのです。もし、全額徴収できなければ、業務成績が減点になるのです。

だから、税務職員たちは、必死に徴収しようとするのです。この制度は、民間の借金取よりもひどいかもしれません。民間の借金取りの場合、取立人は歩合制のようになっており、自分の判断で取り立てを諦めるということもできます(自分が損をすることになりますが)。

しかし、税務職員の場合は、上が取り立てろ、と言えば、絶対に取り立てなければならないのです。だから、どうしても出来ない場合は、税務職員が自分でお金を払って徴収してきたように見せかける、というケースも稀にあるのです。

記事にあるように国税徴収法では、いくら滞納があったとしても、最低限度の相手の収入は残さなければならない、と定められています。しかし、承諾書さえあれば、その収入も取り立てていいということになっています。この例外規定がそもそもおかしいのです。

「承諾書さえあれば収入全部を取り立てることが可能」ということであれば、税務職員が無理やり承諾書を書かせようとするのは、目に見えています。そういう抜け穴をつくること自体、税務職員にそういうことをやらせようという意図が見え見えなのです。そして、「承諾書」は、相手が同意したという書類なので、相手も文句を言ってこないだろう、と踏んでいたのでしょう。

税務当局は、こういう手をよく使うのです。

脅したり、すかしたりして、相手に念書を書かせ、後で文句を言わせないのです。

しかし、もうこの考え方は、完全に時代遅れだといえます。

承諾書があったとしても、それが無理やり書かされたものであれば、納税者の方も後で訴えたり、世間に公表したりすることになるはずです。

「法律に疎い市民を適当に丸め込める」

という時代ではないのです。

ところで、市の職員というのは、はじめから税務担当が決まっているわけでなく、部署の異動などで、誰もが税務職員になる可能性があるそうです。当然のことながら、税務担当というのは、あらゆる部署の中でもっとも一、二を争うほどの不人気だそうです。そして、一、二を争っている相手は、生活保護担当部署だそうです。

税務職員も生活保護担当職員も嫌な人が多いというイメージがありますが、それは、仕事の内容がそうさせるんです。システムを改善してあげなければ、市の職員も市民も辛い思いをしなければならないのです。

会社も社員も得をする給料のもらい方とは?

さて今号から数回にわけて「経営者にも社員にも役立つ給料の払い方」について、ご紹介したいと思います。

実は、給料って、払い方を少し変えるだけで、会社も社員も大きく得をしたり、損をしたりするのです。

というのは、サラリーマンの方々の給料には、莫大な税金、社会保険料がかかっています。

平均的なサラリーマンの方で、所得税がだいたい10%、住民税が10%です。つまり、税金だけで20%も取られているのです。

そして、それに社会保険料がかかってきます。社会保険料は、健康保険と厚生年金を合わせて約30%です。

この30%は、会社側と折半して負担するという建前になっています。が、会社としては人件費の中でこれを支払うので、社員にとっては、本来、自分がもらえるべきお金から支払われているのであり、自分が負担しているのと同様のことになります。

つまり、税金、社会保険料を合計すると約50%なのです。

ざっくり言えば、会社が20万円の給料の人を一人雇う時には、30万円を用意しなくてはならないのです。

この50%の税金、社会保険料を安くし、浮いた分を会社と社員で分ければ、すごく得をするのです。

「住宅手当」「家族手当」を出すのはダメ会社〜

ところで会社の中では、給料の中に「住宅手当」「家族手当」などを出すところもけっこうあります。

「住宅手当」というのは、たとえば典型的な例として全社員に対して「住居費として一律5万円支給する」というようなものです。

この「住宅手当」や「家族手当」を出す会社は、「ダメ会社〜」なのです。

実は、給料には、二つの種類があります。

課税給与と非課税給与です。

簡単に言えば、課税給与とは、税金や社会保険料の「対象となるもの」であり、非課税給与というのは「対象とならないもの」です。

またサラリーマンは、給与の他にも、福利厚生など様々な形で会社から経済的利益を受けています。この給料以外の経済的利益に関しては、税金、社会保険料はほとんどかかりません。

この「非課税給料」というのが、けっこう広い範囲で認められているのです。

たとえば、賃貸アパートに住んでいる人が、会社から家賃補助を受けた場合、家賃のほとんどは非課税給料になります。

もし、給料の代わりに会社から家賃を払ってもらうと、どうでしょう?

社員としては、自分の給料から払っても、会社が家賃を払いその分の給料を減額しても、負担額は変わりませんよね?

しかし、自分の給料で家賃を払った場合は、その給料には約5割の税金、社会保険料がかかっています。10万円の家賃であれば、5万円分の税金、社会保険料がかかっているのです。

会社からこれを払ってもらえば、5万円分の税金、社会保険料は支払う必要がありません。この5万円を会社と社員で山分けすれば、お互い2万5千円も得をするのです。

そして、非課税給与は、家賃だけではありません。

食事代、交際費、パソコン代、書籍代、スポーツジムの会費、はては旅行代まで、実生活の多くの経費を、非課税給与としてもらうことができるのです。

つまり、生活費の大半を非課税給与として受け取るようにすれば、課税給与を大幅に削減することができ、税金、社会保険料が、ほとんどかからなくなるのです。

で、「住宅手当」の話に戻りましょう。

なぜ住宅手当がだめかというと、住宅手当を全社員に対して一律に5万円を支給すれば、それは税金、社会保険の上では、まったく給料として扱われます。つまり、その5万円は、税金、社会保険料の対象となるわけです。年間にすれば60万円です。この住宅手当をもらうことによって、税金、社会保険料は、平均的なサラリーマンでだいたい30万円くらい徴収されることになります。

しかし、この住宅手当を、全社員に一律支給などにせず、賃貸住宅に住む人は、その住宅を会社が借り上げるなどをすれば、会社が家賃5万円分を負担してやったとしても、その5万円のほとんどを、税金、社会保険料の対象からはずすことができるのです。つまり、30万円分の税金、社会保険料の徴収を免れることができるのです。

そして、賃貸住宅に住んでいない社員に対しては、住居手当の代わりに、他の福利厚生関係の恩恵を与えるのです。そうすれば、彼らの税金、社会保険料30万円分も免れることができます。

この30万円を会社と社員で山分けにするのです。全社員分となれば、かなり大きな金額になるはずです。

また「家族手当」も同様です。

家族手当というのは、扶養している家族一人あたり何万円かをもらえるという制度です。多くの会社で採用している制度だと思われます。この家族手当も、普通に支払えば、税金、社会保険料が課せられるのです。

たとえば、扶養している家族一人につき、月3万円の家族手当がつく会社があったとします。Aさんは家族3人を扶養しているので、月9万円もらっています。年間108万円です。が、この108万円には、税金、社会保険料がかかります。本人と会社の負担額を合わせれば、だいたい54万円程度かかっています。

もし、この家族手当を、普通に現金でもらうのではなく、福利厚生サービスとして受け取ればどうでしょう?

たとえば、子供には保育料の補助として月3万円をもらう、配偶者には旅行やレジャー費、健康増進などの補助として月3万円分、何かの負担をしてもらう。この年108万円分の「家族手当の現物支給」に対しては、税金、社会保険料はかかってきません。54万円程度の税金、社会保険料の削減ができるのです。

この54万円を会社と社員で山分けすれば、相当な得をするはずです。

なのに、日本の大半の会社では、そういう配慮は一切せずに、ただただ機械的に「住宅手当」や「家族手当」を払い続けているのです。(つづく)

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出典元:まぐまぐニュース!