「特別な財産なんてないから」「うちは家族円満だから」と相続をめぐる争いを他人事だと思っていませんか。“普通の家”を巻き込んだトラブルが、じつは増えています。ESSE編集部でもアンケートをとったところ、わずか現金100万円程度の遺産分割のために、きょうだいが大いにもめて、事実上縁をきることにまで発展! 原因は父親が遺言を残さなかったこと、そして、きょうだい間の不仲に目をつぶり続けてきたことにありました。

終活という言葉が一般的になり、自分らしい人生を最後まで送るためには準備が大切との認識は広まってはいるものの、お金にまつわる準備は“まだまだ”と言えそうです。専門家に詳しく伺ってみました。


もめるケースの3割は1000万円以下。わずかな金額でもトラブルのもとに

「最近増えているのは、財産が少なくてもめるケース」と教えてくれたのは、弁護士の比留田薫さん。家庭裁判所にもち込まれた遺産分割で、相続財産か1000万円以下のケースは3割以上と、じつはいわゆる“普通の人”にとって、相続は身近な問題なのです。
「うちには財産なんかない」と思っている人もいるかもしれませんが、たとえは首都圏にもち家があれば、それだけで数千万円の価値。税理士の福田真弓さんによると、「不動産は現金と違って分けることが難しいもの。金融資産がたくさんある人よりも、自宅プラス預貯金が少しだけというケースの方が、争いに発展する危険か大きいのです」とのこと。

さらに、平成27年からの相続税の大増税で、課税対象となる人が増えています。そこで落とし穴になりやすいのが、「死亡した日の翌日から10か月以内」という相続税の申告期限です。「この期間内に相続人が集まって、遺産分割についてとり決めないとなりません。間に合わなければ、配偶者の税額軽減など、相続税を大幅に減額できる特例がこの場合は使えません」(福田さん)。

昨今は結婚形態が多様化し、複雑な人間関係の調整が必要になるケースが増えているうえ、ネット証券やネットバンクに故人しか知らない財産か散在するなど、相続財産の確定が難しいことも。「『うちは理解し合っているから大丈夫』と思っても、将来はわかりません。元気なうちから、万が一に備えましょう」(比留田さん)。●裁判所で遺産分割をした人の数


この30年間で2倍以上の数に! 家庭裁判所へ申し立てられた遺産分割の件数は年々増加。実際には申し立てがなく、数字には表れないトラブルも。●財産は少ないほどもめる!


相続税がほとんどかからない、財産額5000万円以下のケースでの申し立てが、全体の約4分の3を占めている。●よく言われる「遺言」とは?

介護してくれた相続人に多めに財産を渡したいときや、相続人ではない人に財産を渡したいときなどは、必ず遺言書を書く必要があります。なにを書いてもかまいませんが、法的効力があるのは、民法に規定された内容についてだけ。大きく分けると次の3つがあります。

1.身分に関すること…婚外子の認知をする、親権者のいない未成年者の後見人を指定する。
2.財産の処分に関すること…財産を相続人以外の人に贈与する。財産を寄付する。
3.相続に関すること…法定相続分とは異なる各相続人の相続分を指定したり、第三者に相続分の指定を委託したりする。また、法的効力のあることだけでなく、残された家族への思いを書き添えることも大切です。●遺言書でやりがちなNG事項

・スマホなどでの録画・録音は無効。必ず文書で残すこと
・夫婦2人でひとつの遺言書など、連名は認められない
・エンディングノートに遺産の分け方について書いても、遺言書としての法的な効力はない
・遺言書は、遺族でも勝手に開封すると罰金が!
・偽造や破棄をした場合は相続権を失う●教えてくれた人
【比留田薫さん】
弁護士。慶應義塾大学法学部卒業。相続、遺言書作成、任意整理などの民事全般を扱う。著書に『他人に話したくなる相続の話―誰も教えてくれない相続のオモテとウラ』『遺言の書き方と相続・贈与』(ともに主婦の友社刊)

【福田真弓さん】
税理士。青山学院大学卒業。相続税対策、法人の事業承継に詳しい。著書や講演活動も多い。共著に『身近な人が亡くなった後の手続のすべて』(自由国民社刊)がある

<取材・文/ESSE編集部>