King Krule、Wolf Alice、Superfood……マーキュリー・プライズから占う、UKシーンの新潮流

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 近年のイギリスでは、“独自路線”が新たな実りを結びつつある――『T2 トレインスポッティング』をテーマにした連載第2回(参考:【『T2 トレインスポッティング』鑑賞後に聴きたい、“イギリスの今”を伝えるバンド5選】)でもそう書きましたが、今年9月にサンファの『Process』がマーキュリー・プライズを受賞したと聞いたときに、改めて地殻変動が進んでいることを実感しました。ホーリーな歌声とエクレクティックな資質を開花させた同作は、2017年の顔に相応しい一枚だと思います。授賞式のパフォーマンスも感動的でした。

参考:『T2 トレインスポッティング』鑑賞後に聴きたい、“イギリスの今”を伝えるバンド5選

 ところで、マーキュリー・プライズがどんな賞かご存知でしょうか。イギリス/アイルランドのアーティストによる、年間の最高傑作を選出することを目的に1992年創設。ジャンルやセールスではなく、あくまで内容重視という批評的なポリシーで知られ、かの地で最も権威のある音楽賞に位置付けられています。その受賞歴を辿ると、90年代にはPrimal ScreamやPortishead、Pulp、2000年代以降だとディジー・ラスカルやFranz Ferdinand、Arctic Monkeys、近年ではThe xxやalt-J、ジェイムズ・ブレイク、PJハーヴェイ(2回受賞したのは彼女だけ)などが栄冠に輝いており、その顔ぶれからもUKシーンの変遷が窺えるでしょう。

 現在はヒュンダイがスポンサーを務めており、賞金は2万5000英ポンド(約373万円)。授賞式がTV中継されることもあって、ノミネートをきっかけにセールスを伸ばす場合も多く、まだ無名のミュージシャンをフックアップする役割も果たしています。さらに、今年の審査員は、英国レコード産業協会(BPI)の会長、『Mojo』『Q』といった音楽誌の編集長、ラジオDJや新聞の音楽記者などに加え、ジェイミー・カラムにマーカス・マムフォード(Mumford & Sons)、リアン・ラ・ハヴァスといったミュージシャンも担当。批評家とメディア、作家が討論し合い、オルタナティヴな音楽をサポートする――日本にも単なる人気投票ではない、こんな感じの賞があったらいいなと思いませんか。

 実際に、毎年12枚選出されるマーキュリー・プライズのノミネート作は、日本には情報が入りづらくなった、UKシーンの豊穣ぶりを的確に汲み取っているように思います。今年でいえば、人気者となったエド・シーランやThe xx、ロックの復権をメジャー/インディー双方で促すBlossomsとThe Big Moon、グライムで初の全英1位に輝いたストームジー、詩人/小説家にしてスポークン・ワード系の音楽家でもあるケイト・テンペスト、J・ハスやロイル・カーナーといった20代前半のヒップホップ新鋭に、現代ジャズのDinosaurまで。バラエティーに富んだ充実ぶりは目を見張るものがあるでしょう(一覧はこちら)。

 なかでも、自分が強く惹かれたのはGlass Animalsというバンドで、エレクトロニカ(ゲーム音楽)とインディーR&Bをファニーに昇華させた『Season 2 Episode 3』は、昨年に一番衝撃を受けたシングルでした。「続きを観るのが億劫になるタイミング=倦怠期」を示す曲名のセンスや、ユルくて遊び心に富んだ曲調も、UKアートポップの新展開を感じたものです。

 ということで今回は、マーキュリー・プライズが伝えるUKの多様性とリンクした、注目すべき最新リリースを取り上げます。まずは、早くも2018年度での受賞が噂される2組から。

 早熟のリリシスト、King Kruleの2作目『The Ooz』は期待を上回る傑作となりました。トム・ウェイツ譲りの渋いハスキーヴォイスは健在で、The Lounge LizardsとJ・ディラを繋ぐ退廃的でパンキッシュな世界観もますます深化。Mount Kimbieとの交流もあってアナログシンセを多用し、ナイトクラブを彷彿させるジャズのいかがわしいムードが濃厚となったことで、ハードな現実と真夜中のファンタジーが交錯する「Lonely Blue」な一枚に。ヒップホップ〜ダブステップを通過したソングライターのなかでも、リリシストとしての評価は群を抜いており、歌詞対訳の付く日本盤はもちろんマスト……と言いたいところですが、不穏に揺れ動くサウンドには、聴き手を限定しない色気があるようにも思います。セルジュ・ゲンズブール×ジェーン・バーキン的なデュエットに、悲哀のスクリューを施した「Slush Puppy」が個人的ハイライト。

 2015年のデビュー作がマーキュリー・プライズにノミネートされ、最近では『T2 トレインスポッティング』での楽曲使用も話題となったWolf Alice。2作連続で全英2位を獲得したセカンド『Visions of a Life』は、これまた度肝を抜かれる完成度でした。シューゲイザー〜ドリームポップ直系の淡いトーンを基調としつつ、ハードコアパンクからエレクトロポップ、ブリティッシュフォークまで横断するレンジの広さ、それを器用貧乏に感じさせない高尚な美意識、どの曲もアンニュイに歌い上げる女性フロントの存在感など、どこを取ってもセンスの塊。「心臓が止まりそうになった」という感想も耳にしましたが、こんなにときめく要素を併せ持つ若手バンドは久々だと思います。来日ツアーは10月23日に東京・渋谷WWW X、10月24日に大阪・梅田Shangri-laで開催。本国ではすでにアリーナクラスだし、この規模で観ることができるのはたぶん最後ではないかと。

 そんなWolf Aliceや、The 1975が所属するDirty Hitからもう1組。Superfoodはもともとマッドチェスターやブリットポップの影響下にあったバンドで、2014年のデビュー作でもBlurやHappy Mondaysの影響をとことんアウトプットしていました。このバンドの出身地であるバーミンガムでは、2010年代前半に“B-town”と呼ばれるシーンが形成され、稼ぎ頭のPeaceを筆頭に、Swim DeepやJAWSといったバンドが90’sサウンドを奏でていたのです。しかし、レーベル移籍を経て届いた新作『Bambino』は、Blurがいろいろすっ飛ばしてGorillaz(というかN.E.R.D.)に生まれ変わったような豹変ぶり。プリンス・バスターによるルーツ・レゲエをサンプリングした「Unstoppable」を筆頭に、晴れやかなポップネスがファンキーに弾け飛ぶ2017年の隠れ名作でしょう。これもまた、UKの多様性を反映した動きだと思います。

 続いては、2015年にマーキュリー・プライズを受賞したベンジャミン・クレメンタイン。デビュー作『At Least for Now』は、規格外のシンガーソングライターが登場したことを伝える一枚でした。エレガントなピアノに乗せたボーカルは、ジャズとシャンソン、スポークンワードが溶け合ったもの。それもそのはず、彼は若い頃にパリでバスキングしながら路上生活を送っていたそうで、異常にライヴ感が研ぎ澄まされているのも当時の経験に基づくものでしょう。そして、Gorillaz新作のゲスト参加を経て発表された2作目『I Tell a Fly』は、「前作ほど売れないと思う」と本人も語るアヴァンギャルドな一枚。クラシカルな楽器とエレクトロニクスを駆使した、変幻自在のソングサイクルは難解かもしれませんが、オンリーワンの世界観に魅せられたら手放せなくなるはず。ぜひ来日してほしいので、最高のライヴ動画を紹介しておきます。

 近年のマーキュリー・プライズは、ジャズの最新モードも積極的にプッシュしてきました。日本でも人気のGOGO PENGUINに、2度もノミネートされたPolar Bear、新作も素晴らしかったPortico Quartet、昨年のThe Comet Is Coming、今年のDinosaurなど、いずれのバンドもクラブミュージックの影響が垣間見られ、そこが実にUK的。“グラスパー以降”のUSジャズと同様に、もっと幅広く聴かれるべきサウンドだと思うので、最後に取り上げておきましょう。まずは、Dinosaurが授賞式で披露したパフォーマンス動画を。超カッコイイです。

 このDinosaurも在籍する、エディションという優良レーベルが近年プッシュしているのがGirls In Airports。彼らはデンマークの5人組で、インディーロックとワールドミュージック、エレクトロニカが混ざり合った、新しい北欧ジャズを奏でています。日本盤化も実現した『Live』はその名の通りライヴ盤で、想像力を刺激するシネマティックな音像を、2本のサックスと鍵盤、パーカッションで表現。近未来的なリズムとアンビエンスが、立体的に迫ってきます。The Cinematic Orchestra及びNinja Tuneや、ポストロック好きにもストライクの内容でしょう。