自覚症状が乏しいのが味覚障害の恐いところ(イメージ)

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 60すぎた頃から、醤油をかけすぎていませんか──味に鈍感になる“症状”が気付かないうちに進行すると、重篤な病気につながるリスクがある。本誌・週刊ポスト前号で取り上げた「味覚障害」特集には、驚きの声とともに、“自分もそうかもしれない”という反響が多く寄せられた。

「たかが味覚の変化」と侮れない“身近で危険な病”の正体を、さらにレポートする。

「ずっと妻から食事中に“あなたがおかしい”と言われていた理由がようやくわかりましたよ。確かに、ここ最近、いくら味を濃くしてくれと妻に頼んで調整してもらっても美味しくならないなと思っていたんです」(73歳・男性)

 味覚障害特集に対して、読者からは様々な声が寄せられた。

「思い返せば亡くなった父親も70代の頃に醤油ドバドバをやっていた。それを見ておかしいと思っていたのに、気が付いたら私も60をすぎてから同じようなことをやっていた。それがまさか命に関わる症状だったとは……」

 そう語る都内在住の男性(65)のように、記事を読んでハッとした人が多かったようだ。味覚障害の恐怖は何より、自覚症状が乏しいところにある。

 人間は舌にある味蕾(みらい)という器官を通じて食べ物の味を感じる。しかし舌で受けた刺激が信号として脳に伝達される際、ストレスや体調不良、あるいは服用している薬の副作用などによって、伝達に乱れが生じ、味の感じ方がおかしくなることがある。それが味覚障害である。

 日本口腔・咽頭科学会の調査によると、1990年に約13万8600人だった味覚障害の推計患者数は2003年には約24万5000人と、ほぼ倍増している。味覚障害に詳しい東北大学大学院歯学研究科の笹野高嗣教授(口腔診断学)が解説する。

「その数字も全国の医療機関を“受診した患者”の数であり、氷山の一角です。本人が気付いていないだけで、もっと多くの患者が潜んでいると考えられます」

 この味覚障害は高齢者に多くみられる。10年以上にわたり、延べ10万人以上の高齢者を診察してきた彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長で医学博士の平松類氏は、著書『老人の取扱説明書』で1997年に米国医師会雑誌『JAMA』に掲載された研究論文を紹介した。

 それによると、高齢者の塩味を感知する能力は、健康な若い人に比べ約12分の1だという。つまり、高齢者は、若い頃の12倍の塩を使わないと同じ味に感じられないというのだ。

 そのため高齢者は塩分の強い食事をとりがちになると考えられているが、たかが味の問題だと侮るべきではない。「メシが不味くなる」で済む話ではないのだ。前出・笹野教授が続ける。

「濃い味付けの食事ばかりになると、塩分の摂り過ぎによって、高血圧や動脈硬化のリスクが生じます。また、『食べ物の味がしないから食事がつまらない』と感じて食がどんどん細くなってしまうと、栄養失調のような状態になり、体重や免疫力の低下を招き、重篤な病気にもつながります」

 味覚障害は、さまざまな疾病の“入り口”なのである。

※週刊ポスト2017年10月27日号