小笠原 淳『見えない不祥事 北海道の警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート)

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しばしば報じられる各地の警察の不祥事。それは氷山の一角でしかありません。現場の記者たちは、隠された情報を報じようと取材活動を続けていますが、警察は「出入り禁止」で対抗。上層部との「手打ち」で幕引きを狙います。自分たちの活躍だけを報じさせ、不祥事は隠そうとする。そんな警察の隠蔽体質に対し、北海道で食い下がりつづけている一人のライターの取材記録を紹介します――(全4回)。

※以下は小笠原淳『見えない不祥事 北海道警察官は、ひき逃げしてもクビにならない』(リーダーズノート)の第三章「警察特権『発表の指針』」からの抜粋です。

■「書いていいとも書くなともいえない」

2016年の9月上旬、「道警がNHKを出入り禁止にしたらしい」との情報が届いた。記者クラブの加盟記者から伝えられたその情報を別の社の記者に確認すると、激しい警察批判の声が聞こえてきた。

「横暴もいい加減にして欲しい。NHKさんは事実を報じただけなんですから。ほんとに最近の監察官室はやってることがアホ過ぎる。近く、クラブとして連名で抗議しようと考えているところです」

さらに何人かに確認すると、NHK札幌局は独自取材で道警の未発表不祥事を掴み、朝のニュースでそれを報道したらしいことがわかった。道警はその報道を受けて同局に「出入り禁止」を通告した、というのだ。報道自体を知らなかった私はリ・スタジオのパソコンでニュース検索を続け、すぐにウェブ上に残る記事を発見した。9月8日の午前8時6分に配信されたものだ。

帯広警察署に勤務する34歳の男性巡査が先月、夜間の勤務中に仮眠していた同僚の女性警察官をのぞいたとして道警本部がこの巡査の処分を検討していることがわかりました。

現職警察官による覗き事件。その男性巡査は、勤務していた交番の2階にある女性用の仮眠室のドアを開け、同僚女性を覗き見たのだという。覗かれた女性警察官が気配に気づいたことで、行為が発覚。巡査はすぐに覗きを認め、同僚に謝罪した。

記事に添えられていた画像には、現場となった交番の外観が映し出されている。これが道警の“逆ギレ”を招いたようだ。事情を知る記者に詳しい話を聞くと、出禁の理由は2つ。1つは「被害者感情」で、1つは「誤報」だという。前者は、現場の交番があきらかになったことで被害者が特定され、二次被害を招くという理屈。後者は、加害者への制裁が懲戒処分ではなく監督上の措置なので「処分」という言いまわしは誤っているという理屈だった。

■「出入り禁止」は事実なのか

NHKは、情報を掴んでから放映に至るまでに何度も裏づけ取材を試みたらしい。それに対し、道警は「何も言えない」の一点張りで、しまいには「打つな」と言ってきたという。聞いた私は、その年の春に監察官が口にした「書いていいとも書くなとも言えない」のセリフを思い出した。やはり警察は、記者に対して「書くな」ということがあるのだ。あまつさえ、出入り禁止という措置をとることもできるのだ。

民放局関係者の1人からは、こういう証言を得た。

「何カ月か前にも地元民放が出禁になりましたよ。暴力団が市内の倉庫に大量の銃器を隠してるっていう話を、当局の意に沿わないタイミングで出したんですね。そういう個別のケースだけでなく、情報を統制したがる体質は道警全体に及んでます」

道外の複数の県で警察取材を経験してきたという30歳代の新聞記者は、割り勘で誘った焼鳥屋さんでビールジョッキを握り締めながらこう吐き捨てた。

警察にとって都合悪いことを書いたら睨まれる、ぐらいのことは多かれ少なかれどこの県でもありますよ。しかし北海道警はあまりに露骨。度が過ぎてます。不祥事に限らず、普通の夜回りにもマトモに応じなかったり、会見開いておきながら何も答えなかったり。道警でサツ回り経験したらどこの県警でもやっていける、って言われてるほどですよ」

当初「無期限」とされていた出入り禁止騒動は、結果として9日間で収束した。道警幹部がNHKに対して上層部同士の「話し合い」を打診し、その席が持たれた夜に出禁が解除されたのだという。現場不在の「手打ち」と言ってもよい結末だった。

■両者からの回答は、いずれも実質無回答

この話題を記事にしようと考えた私は、道警とNHKの双方に取材を申し込んだ。報じられた不祥事は事実か、出入り禁止は事実か、「話し合い」は事実か――。両者から届いた回答は、いずれも実質無回答といえるものだった。

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本件は、報道発表を行なっていない事案であり、取材への対応もしておりませんので、お答えは差し控えさせていただきます。
NHKと道警察との関係について、第三者に申し上げることは控えさせていただきます。
北海道警)

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ご指摘の記事については、9月8日朝のニュースなどで放送しましたが、個別の取材先とのやりとりについてはお答えしておりません。
NHK札幌)

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出禁や「話し合い」が事実としてあったという前提で書いた記事は、『北方ジャーナル』2016年11月号に掲載された。私は道警とNHKの両者に掲載誌を寄贈したが、記事の内容に対する抗議や反論などはどちらからも届いていない。

本書がまとまる2017年8月現在、北海道では引き続き警察職員のみが不祥事の全件公表を免れている。同年1月から6月までの「上半期」6カ月間では、懲戒処分が4件、監督上の措置が37件と、計41件の不祥事が記録されたが、道警は「警察庁の『指針』を参考に」全体の9割を超える38件を公表していなかった――。

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小笠原 淳(おがさわら・じゅん)
ライター。1968年生まれ、札幌市在住。旧『北海タイムス』の復刊運動で1999年に創刊され2009年に休刊した日刊『札幌タイムス』記者を経て、現在、月刊『北方ジャーナル』を中心に執筆。同誌連載の「記者クラブ問題検証」記事で2013年、自由報道協会ローカルメディア賞受賞。ツイッターアカウントは @ogasawarajun

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(ライター 小笠原 淳)