ルガーノのアルゲリッチ・プロジェクトが迎えた大団円(Album Review)

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 マルタ・アルゲリッチは2002年以来、風光明媚なスイスのルガーノにて毎年音楽祭を開いていたが、2016年をもって惜しまれつつその幕を閉じた。その音楽祭から1年後の秋に3枚組アルバムがリリースされるのも恒例で、それもこのアルバムで最後となる

 アルゲリッチの演奏曲では、なんといってもラヴェル2つが目玉だ。両曲には歴史的なセッション録音があるが、ここでライヴ録音が聴けるのはうれしい。

 『夜のガスパール』では、水の滴り落ちる「オンディーヌ」のなまめかしさ、「絞首台」のおどろおどろしい音楽づくりは堂に入ったもので「スカルボ」では切れ味鋭い演奏を聞かせてくれる。近年もライヴでたびたび披露しているアルゲリッチの十八番、ピアノ協奏曲はアルゲリッチの面目躍如で、第3楽章は速めのテンポで疾駆して爽快だ。若き日の神懸かった録音と較べてしまえば技巧的衰えが見られるのはは致し方ないことで、また一味違った演奏を楽しむべきところだろう。

 交響曲第9番「合唱つき」に近い大編制を要するものの、演奏機会では比べ物にならないベートーヴェンの「合唱幻想曲」のソリストをアルゲリッチが務めているのは、本当に貴重なことだ。即興性溢れる第1部、ピアノと管弦楽による協奏曲風の変奏が続く第2部を弾き切るダイナミックな表現力、管弦楽と声楽が前に出て最高潮に達する第3部でも、単なるオブリガートピアノに徹さないアルゲリッチらしさが窺えるのが面白い。

 2台ピアノのためのソナタはババヤンと組んで、モーツァルトらしいコケットリーとインティメートな雰囲気が魅力的だし、パパヴラミとのバッハのヴァイオリンソナタは、とりわけアレグロ楽章ふたつのきびきびとした挙動が印象的だ。
ドビュッシーの『牧神の午後への変奏曲』はプリモをコヴァセヴィッチが務めている。共演歴長い、この元夫婦デュオの演奏が悪いことなど考えられようか?

 ここからは、アルゲリッチ以外の奏者による、主だった演奏を見ていこう。

 最も珍しい曲目のひとつは、ブゾーニのヴァイオリン協奏曲だ。バッハのコラール編曲などでおなじみのブゾーニは、作曲家としても多くの作品を書いている。協奏曲は二十歳そこそこの作品で、曲調は後期ロマン派そのもの。それだけに初めて聴く人にも耳当たりよい音楽だろう。カプソンの演奏には、ロマンティックな筆致にふさわしい馥郁たる薫りが漂っている。なお来年3月、カプソンはナナシ指揮の読響と、この協奏曲を演奏予定である。

 ブラームスのホルン三重奏曲には、フランスの誇る名手3人、ホルンのダヴィッド・ゲリエ、カプソンにアンゲリッシュが結集。アンサンブルの間合いは絶妙で、それぞれの音色も申し分なく、このアルバム屈指の名演だ。

 ベルクの『ピアノ、ヴァイオリンと13の管楽器のための合奏協奏曲』はヴァイオリンとピアノの二重協奏曲で、カプソンにアンゲリッシュが中核を担う。シュワルツがタクトを握るアンサンブルは緊密で、この曲の醍醐味を十二分に味わわせてくれる。

 以上駆け足で主な収録曲を見て来たが、さすが選りすぐられただけある演奏がズラリと並ぶ3枚組である。Text:川田朔也

◎リリース情報『ルガーノ・フェスティヴァル・ライヴ2016』
WPCS-13674/6 
3,500円(tax out.)