清水エスパルスとの静岡ダービーでジュビロ磐田の3点目を決めた山田大記【写真:Getty Images】

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ファーストプレーで呼び込んだ歓喜

 10月14日、明治安田生命J1リーグ第29節が行われ、ジュビロ磐田は清水エスパルスとの静岡ダービーを3-0で制した。この試合、ダメ押しゴールとなる3点目を奪ったのは今夏サックスブルーに復帰した山田大記。この得点を機にさらに調子を上げていけるか。名波浩監督率いるチームに加わったさらなる可能性に期待は高まる。(取材・文:青木務)

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 選手の交代を告げるため、第4の審判員がレフェリーボードを掲げた。73分、役目を終えたアダイウトンが両手を差し出すと、交代選手がそれに応える。この日の先制点を挙げるなど勝利の原動力となった男と入れ替わるように、山田大記がピッチへ勢いよく駆けていった。引き締まった表情の背番号19は、それから1分もしないうちに仕事を果たすのだった。

 明治安田生命J1リーグ第29節、アウェイに乗り込んだジュビロ磐田は清水エスパルスを3-0で下している。

 前半立ち上がりはホームチームが先手を取ろうと前から来ていたため、磐田は我慢の時間を過ごすことになった。しかし、押し込まれながらこれといったピンチもなく、27分にはアダイウトンのゴールで試合を動かした。

「まず北川(航也)と金子(翔太)のところがどういった守備をしてくるか。それによって我々がシンプルに背後を狙うのか、ポゼッションしながら穴を突いていくのかを、特に(大井)健太郎、(中村)俊輔、(川辺)駿に伝えた」

 名波浩監督の言葉だが、選手たちは相手の出方に対応しながらチャンスを作っていった。

 さらにハーフタイム直前には清水が退場者を出し、数的優位の状況も手にした。後半はボールを保持し、無理せず追加点を狙うと62分に中村俊輔の蹴ったCKが直接決まった。

 出番を得た山田は、ファーストプレーで歓喜を呼び込んでいる。右サイドでパスを受けた櫻内渚が縦に運んでクロスを送る。ファーサイドからPA内に侵入してきた宮崎智彦が左足ボレーで合わせると、GKが弾いたこぼれ球に山田が反応。滑り込みながら左足でネットを揺らした。

「チャンスをもらいながら、これまでなかなかチームの勝利に貢献できていなかった。名波さんからはどんどん前に出て行ってシュートを打って、好きにやっていいと声をかけてもらっていた。点を取ることができて良かった」

 磐田復帰後初ゴールを振り返り、安堵の色を浮かべた。

全体練習後、黙々とメニューに取り組む姿

 フィニッシュ自体は難しいものではなかったが、特筆すべきはそこに至る過程だろう。

 櫻内が折り返した時にはまだ、清水の選手は山田を視界に捉えていた。しかし、ボールが横断したところで完全フリーの状態になる。そして、宮崎が利き足で丁寧に叩いた瞬間、28歳はこぼれ球に詰めようと一気に加速。ストライカーのような冷徹さを見せ、誰にも邪魔されることなく勝負を決めた。

 チームメイトの祝福を受けると、沸き立つ磐田サポーターの前でガッツポーズを繰り返した。

 ドイツのカールスルーエから約3年ぶりに復帰し、第26節・浦和レッズ戦で途中出場。続く大宮アルディージャ戦でも79分からピッチに立った。そして、普段の【3-4-2-1】ではなく【4-2-3-1】で臨んだFC東京戦ではスタメンに抜擢された。

 名波監督から「リラックスしながらゲームに入ろう」と送り出されたが、インパクトを残せぬまま57分にベンチへと退いた。指揮官は「後ろの選択が多く、ポストに入ってきてもバックパスのシーンが多い。背後に抜け出す回数は非常に少なかった。正直、出来は良くなかった」と述べている。それでも、国際Aマッチデー明けの清水戦までの約2週間で状態を上げてくることを期待した。

 磐田のキーマンの一人である川辺は、山田がチームにフィットする上で必要なのは「時間」と話している。その言葉通り、今節が近づくにつれてサックスブルーの前10番は積極的なプレーを取り戻していった。

「シュートやファーストタッチと、ボールワークの練習でアイツはコンディションを整えようとしていたけど、キレを増したり持続させるにはスプリント系をやった方がいいんじゃないか。それで今やっている」(名波監督)

 全体練習後、黙々とメニューに取り組む山田の姿があった。IAIスタジアム日本平でのゴールはその成果のひとつだろう。

 試合に出るためには這い上がらなければならない。ドイツから戻ってきたアタッカーにレギュラーは約束されていなかったが、そうした環境を望んだのは他ならぬ彼自身である。

ドイツでの経験。磐田で「競争」があることのありがたさ

 8月末、古巣に復帰した山田は報道陣の取材に応じている。当時は連勝こそ『6』で止まったものの、ガンバ大阪やヴィッセル神戸に勝利するなどチームの調子は落ちていなかった。躍進を見せるチームに何をもたらそうとしているのか。本人に問うと、胸のうちを語ってくれた。

「レギュラーが定着しているので、そのチームに自分が入るというところでは、レギュラーの選手たちをまずは脅かす存在になりたい。もちろん、自分もその座を狙っていく。競争という意味では僕も色々なポジションをドイツでもやらせてもらって、名波さんと話しても色々なポジションで考えてくれていると思うので、いい影響をもたらしたいなと」

 カールスルーエを退団した後も、ヨーロッパで新天地を探していた。それでも磐田に戻ってきたのは、クラブに恩返しをしたいという気持ちがあったからこそ。そして、愛着あるサックスブルーの一員としてさらに成長できると確信したからだ。

「海外にこだわっていた理由のひとつが、やっぱり競争。向こうはそれがすごく激しいので、そういうところでまだまだ自分を磨きたいという気持ちがあった。自分が求めた競争がジュビロでもできるというのはすごく、むしろありがたいなという思いがあって。

 海外でも感じたけど、まだまだ力不足なところがあるので、もっともっと成長したいなという想いの中では、競争というのは絶対に自分にとって身になると思う。帰ってきてポジションがある、ということがサッカー選手にもたらす良さってあまりないのかなと海外でも感じていたので。前にジュビロにいた時は試合にずっと使ってもらっていたけど、海外で競争の中でやれたのが自分としてはすごく良かった。今回こうやって日本に帰ってくることになって、競争があるというのが自分としてはすごくありがたい」

 用意された席にただ座っているのではなく、自分の力で序列を上げていく。『競争』という言葉を繰り返した彼の口ぶりから、強い気持ちを宿していることが感じられた。

山田の台頭で生まれる、名波ジュビロの幅

 今回のゴールは大きな一歩であり、今後も印象的なパフォーマンスを見せていくことで自身の価値はさらに高まるはずだ。

 試合後、名波監督は「途中交代の選手も含めてみんなが自分たちの想い描くものをやってくれたと思う。最後、4バックにもトライできたので充実した90分になった」とイレブンをたたえている。清水戦に並々ならぬ情熱を見せていた指揮官だが、的確な采配を見せた上に次節以降への布石も打った。誰よりもこの試合に懸けていた青年監督は、誰よりも冷静だった。

 完勝とともに3ポイントを上乗せし、勝ち点は50の大台に到達。得失点差は+18である。複数のポジションをこなせる山田の台頭により、戦い方に幅も生まれるだろう。J1リーグもいよいよ大詰めを迎える中、スタメンで結果を出すという“宿題”も残っている。

「自分たちは今シーズン、まだ何も成し遂げていない。名波さんがいつも言っている通り常にチャレンジャーとして残りの試合を戦って、少しでも上の順位で終われれば」

 その言葉は自身に向けられているようでもあった。ジュビロ磐田の山田大記が本領を発揮するのは、これからだ。

(取材・文:青木務)

text by 青木務