昨シーズン、1年生ハーフ団として「臙脂(えんじ)のジャージー」を背負い、先発で出場を続けたふたりが確かな成長の跡を見せた。


早稲田大のアタックを率いる2年生のSH齋藤直人

 9月に開幕した関東大学ラグビー対抗戦。7連覇を狙う王者・帝京大、春から好調をキープする慶應義塾大、ヘッドコーチが代わり進化を遂げつつある明治大……。各大学が好調ぶりを見せるなか、昨年対抗戦2位で今季こそ「日本一奪還」を目標に掲げる早稲田大も強豪・筑波大に勝利し、開幕3連勝となった。

 ただ、春の早稲田大はお世辞にも調子がいいとは言えなかった。春季大会は1勝4敗で、流通経済大に勝つのがやっとの出来。8月の夏合宿でも帝京大(0-82)、東海大(5-52)に大敗してファンを心配させた。それでも、昨年就任した山下大悟監督は「予定どおり。結果がすべて」と前を向いた。

 そんな状況のなか、ついにシーズンが開幕する。早稲田大はアタックの戦術を落とし込むため、直前に異例となる2度目の菅平合宿を敢行。それが功を奏し、開幕後は日体大(54-20)、青山学院大(94―24)に勝利して3戦目に筑波大戦を迎えた。一方、筑波大はすでに慶應義塾大と明治大に連敗しており、この試合で負けると大学選手権出場が厳しくなる。

 10月14日、東京・秩父宮ラグビー場で行なわれた早稲田大vs.筑波大は、雨の影響でピッチが濡れたコンディションでのキックオフとなった。前半、早稲田大は相手FWのスクラムやラインアウトのセットプレーで後手を踏み、なかなかペースを掴むことができない。そして18分、モールを起点にトライを喫して0-5と先制を許してしまう。

 ただ、劣勢となった状況で早稲田大は、2年生のふたりが格の違いを見せた。桐蔭学園高出身のSH(スクラムハーフ)齋藤直人と、東海大仰星高出身のSO(スタンドオフ)岸岡智樹だ。ふたりは2シーズン前の「花園」こと全国高校ラグビーの決勝で顔を合わせ、早くから将来を嘱望された逸材。昨年、山下監督が早稲田大の指揮官に就任するやいなや、「度胸がある」とその能力を高く評価し、チームの中心に据えて先発で起用し続けてきた。

 失点した直後の後半20分、岸岡の背中を通すパスを受け取ったCTB(センター)中野将伍(2年)がゲインすると、すかさず齋藤がそれをフォロー。齋藤はステップを切りながら斜めに走って時間を稼ぎ、WTB(ウイング)佐々木尚(3年)のトライをお膳立てした。その後、齋藤がゴールを決めて7-5と逆転に成功すると、前半終了間際、今度は岸岡が相手を引きつけてからパスを通し、FB(フルバック)古賀由教(1年)のトライを演出した。

 前半を折り返しても、ふたりの勢いは止まらない。後半開始早々に早稲田大は連続攻撃を仕掛け、齋藤からパスを受けた岸岡がラインブレイクしてチャンスを作る。右コーナーに向けて攻撃を展開し、最後はキャプテンのLO(ロック)加藤広人(4年)がグラウンディングしてトライを奪った。

 ボールを左右に振ったアタックはその後も続き、終わってみればトライを重ねた早稲田大が33-10で筑波大に快勝。齋藤と岸岡の2年生ハーフ団の活躍が際立った内容だった。

 そのなかでもこの試合、もっとも質の高いプレーで観客を沸かせたのは齋藤だろう。長短のパスでFWとBKのつなぎ役としてアタックをリードし、守っては判断よく裏のスペースを埋めてピンチを防いだ。また、同志社大やNTTコミュニケーションズで活躍した君島良夫キッキングコーチの指導を受けているというプレースキックも、5本中4本を決めて存在感を大いに示した。

 そんな齋藤のプレーぶりに対し、山下監督は「少しは選択ミスもありましたけど、チームの危ないところを救って非常によかった」と高評価。この日のMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)にも選ばれた齋藤は「敢闘賞はもらったことがありますが、初めて(MOMに)選ばれてうれしい」と破顔した。

 2年目のシーズンを迎えて、小柄な身長165cmの齋藤は自信を深めているようだ。

「あまり緊張しなくなった。(早稲田大の)戦術にも慣れてきて、去年より落ち着いてプレーできている。接点の強い相手に対し、テンポを出せてトライを獲れた」

 ただ、これから待ち受ける帝京大、慶應大、明治大ら強豪チームとの試合に向けて、齋藤に気の緩みはない。MOMに選ばれながらも「ゲームコントロールはまだまだ。きつい状況でも、いい判断できないと意味がない」との反省を口にしていた。

 一方、司令塔の岸岡は判断のいいアタックや鋭いランを見せたものの、本来のプレーを発揮できない時間も多かった。ミスをした直後の後半25分、この試合最初の選手交替に岸岡は呼ばれている。

「(岸岡は)1本だけ走ったが、後はプレーの選択も遅い。もう少しプレッシャーのなかでしっかりしたプレーができないようだと(10月28日に対戦する)帝京大相手には厳しい」

 山下監督は大きな期待をかける岸岡に、さらなる厳しい注文をつけた。

 8月に南米ウルグアイで行なわれたU20世代の国際大会で、岸岡は4試合すべてに先発。中心選手としてSOやCTBの役割をこなし、日本代表を2部大会から1部大会に上げる立役者となった。その多忙なスケジュールによってチームと合わせる時間が取れなかったことや、身体的・メンタル的な疲れもあったことは否めない。

 試合後、岸岡は筑波大戦を振り返り、こう語っていた。

「(U20日本代表から戻ってきてからの対抗戦)1試合目は出ませんでしたが、ぼちぼち馴染んできました。前半はテンポを上げたかったのですが、前にのめり込んだり、僕のミスやペナルティがあったりして厳しかった。アタックラインの深さ、パスの長さなど改善すべきところがある。これからです。自分たちのやりたいことをやれば、トライも獲れると実感できたので、それを継続していきたい」

 たしかに、早稲田大は強みであるはずのスクラムを相手にコントロールされ、ラインアウトも研究されて12本中6本しか取れなかった。勝利を収めたものの、課題も多く出た試合だったと言えるだろう。それでも危なげなく難敵に勝てたのは、9月から取り組んできたアタック戦術の浸透と、それを牽引する齋藤・岸岡の存在が大きかった。

 山下監督がかねてから「どれだけFWが縁(えん)の下の力になれるか」と言っているとおり、セットプレーを安定させて能力の高いハーフ団にいい形でボールを供給することが、これから続く強豪との対戦には欠かせない。

 最後に、齋藤と岸岡はお互いのことをどう思っているのか聞いてみた。

 齋藤は岸岡のことを「迷ったら、だいたい何でもやってくれるので助かっています」と言い、岸岡は齋藤のことを「彼の持ち味を活かしたラグビーが(早稲田大の)強み。コミュニケーションが足らない部分もありますが、他のSHと比べてやりやすい」と語る。

 春の不調からようやく脱し、徐々に調子を上げてきた早稲田大。ライバル校に勝利して2010年以来の対抗戦優勝、そして2008年以来となる大学日本一という栄冠を掴むためには、2年生ハーフ団の躍動がカギを握っている。

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