【書評】『グローバル・ジハードのパラダイム パリを襲ったテロの起源』/ジル・ケペル&アントワーヌ・ジャルダン・著/義江真木子・訳/新評論/3600円+税

【評者】山内昌之(明治大学特任教授)

 2015年はパリの「シャルリー・エブド」誌編集部が襲われ、サン・ドニのサッカー場で自爆事件が起きるなど、フランスにジハーディズムが根を下ろした年でもある。著者たちは、現代イスラムと投票行動の専門家として、大都市郊外の低所得者団地で移民系住民が増え続けるシテと呼ばれる地区に注目する。IS(イスラム国)は、このシテを中東のジハード(聖戦)と結びつけて、欧州でのテロを誘発させたというのだ。

 ISは、フランスの住民を出自に関わらず無差別に標的とする「祝福された襲撃」を繰り返した。ISは、移民系の住民を犠牲にしようともお構いなしであり、欧州の「柔らかい脇腹」の西欧で「万人の万人に対する戦争」を引き起こして、内戦を誘発して「カリフ制国家」を樹立しようとしている。

 ただし、この若いテロリストらは教育を受けておらず、知的水準はあまりにも低い。彼らは、欧米のイスラム嫌いから生まれた犠牲者のムスリムをジハーディストとして獲得できるという幻想に浸っている。

 こうした若者が生まれたのは、ポストコロニアル時代の移民子弟としてフランスで生まれた世代が、社会や制度との暴力的な衝突を辞さなかったからだ。その挙句に、移民子弟の若者といえば暴力の常習者と見なされる悪循環が始まった。

 彼らが選挙権をもった当初は、二〇一二年のオランド大統領当選のように、サルコジへの反発が強かった。いまでは、同性愛禁止やスカーフ着用などを目指すムスリムは、世俗主義のオランドたちにも寛容でなくなった。

 このムスリムの若者は、社会的帰属意識からすれば左派に近いが、民族・宗教上の主張に従えば右派に接近するという屈折した構図をもち、フランス政治ではジレンマの状態にある。そのギャップを暴力的に埋めようという動機こそフランスにグローバル・ジハードを生み出したともいえよう。現代のジハーディズムにおける宗教とイデオロギーと暴力それに戦争との接点をさぐる好著である。

※週刊ポスト2017年10月27日号