「辛いツライ! でも最っ高だっ」
 街のあちこちで芽吹き、土の匂いが風に乗って運ばれてくる。窓の外からは子どもたちのはしゃぎ声が聞こえてくる。ことしも春がやってきた。
 こうなると、海山へチャリで駆け回りたくなる。きょうは、山だ。
 トレーニングウエアに着替え、大好きなBMXに油をさして、手づくりの輪行バッグを背負ってペダルを踏む。
 行き先は、千葉外房有料道路。
 この道、高速道路に近い規格の道だけど、「この道路は高速道路ではありません」(同公社)という「なんちゃって」で、インターチェンジやパーキングエリアもあるのに、自転車も走れる! 
 違和感とか優越感とか恐怖感とか、いろいろ体感できそう…。ってワケで、地元の駅からチャリを輪行バッグに包んで、京成電車にいっしょに乗る。
 京成千原線の大森台駅で下車。外房道の起点である鎌取ICからいよいよ「なんちゃって高速道」に入る。
 房総半島の内房側から外房側へ。起伏に富んだ坂道の多いハイウェイをチャリで走る。上り坂の辛さが、なぜか愉しくて、ハイテンション。
 高速道路は、厳重な柵で「下界」と隔たりをつくっているけど、こちらの「なんちゃって〜」は、ユルユル。
 なんと路肩のガードレールにちょっとしたスキマがあり、柵の向こうの農道へと、いつでも「離脱」できる。

 白やピンクのツツジが満開の路肩で、いったん自転車から降りて、寝転がってひと休み…もできる。
 驚きは、大木戸インターの手前にある、料金所。料金表の一番下に、「軽車両等30円」と記されている!
 普通車310円のところ、チャリは30円。
 しかも、料金所のおじちゃんに払うんじゃなくて、小さな箱に自分で30円を投げ込むというスタイルだ!
 「そうねえ、土日は40台、50台ぐらいは見るかな。平日は、プロの競輪選手が練習でよく使ってるよ」
 料金所のおじちゃんが教えてくれた。
 競輪選手は見なかったが、めちゃめちゃ速そうなロードタイプのチャリで飛ばす人たちと何度かすれ違った。
 なかにはBMXという酔狂なチャリのペダルを必死に踏むこちらに、Good Luck!!ってな感じで親指を出して、ニヤリ顔の人もいて、なんかうれしい。
 ウグイスの長〜い歌、牛や蛙の会話、花の香り、田植えの輝き…。クルマでは気づかない「春」を全身で感じる。
 「うっっっフォオオオオオ!」

 ツレエ辛えと独り吐きながら上り坂を駆け上がったあとの下り坂。最っ高。
 大野PAでは竹岡式ラーメンと遭遇。まさか、内房ローカルフードを、こんな山奥の小さなPAで喰えるなんて。
 「終点」と記された小さな看板を見て、「なんちゃって高速道路」のランはあっけなく終了。信号機がある交差点を久々に見て、九十九里海岸方面へさらにペダルを踏む。
 ダートも走れるBMX。県道を外れ、わざとあぜ道を走ったりして、外房線を走る特急に手を振ったり、アイスをなめたり…。行動が完全に子どもだ。
 京成の大森台駅から、JRの大網駅まで、約30km、3時間かけて走った。
 大網から蘇我へ。BMXを連れた中年男を乗せた電車は、わずか20分で出発エリアに連れ戻した。次の電車に乗り換えようと、チャリを抱えてホームを歩くと、日焼けした輪行男子が声をかけてきた。
 「きょうはどこ走ったんですか?」

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2014年6月号に掲載された第23回の内容です。

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