日々、騙し騙されかけひきをくり返す、東京の男と女。

彼らの恋愛ゲームには、終わりなど見えない。

これまで、浮気をする彼氏に罠を仕掛ける女、独身を貫く経営者を追いかける女、男を巡って争う2人の女、弁護士に一目惚れした女とその後輩の攻防を紹介した。

第11回は、互いに想いがありながらも友情関係をキープしていた、職場の同期の男女。

彼らのかけひきは、どちらに軍配が上がるのだろうか…?




左遷の辞令を受けた、哀れな若手銀行マン


こんにちは、優一(26)です。

大手国内銀行の丸の内本店で、投資案件を担当しています。

実は僕、来月から福岡の支店に転勤になります。もちろん栄転ではありません。

直近で担当していた案件でヨミを外し、危うく大損を出しかけてしまったことが原因です。

銀行は出世争いが非常に激しい世界。一度失敗した者は、二度と這い上がれないとさえ言われています。

もう東京の本店に戻ってくることもないかもしれない。そんな時に真っ先に浮かんだのは、同期の結衣の顔でした。

結衣は一般職で、窓口のお客様対応を担当しています。

決して美人とは言えないながらも、丸顔にぽってりした唇、見る者に安心感を与える柔らかな笑顔はとても愛嬌があり、秘かに人気が高い子です。

互いにおっとりした性格で気が合うのか、社会人4年目の今でも月に1回は2人で飲みに行く間柄。

彼女にするなら銀行内でもっといい女性がいるかも…と思いながらも、お互いフリーですし何かあったらやぶさかではない、という距離感で仲の良さをキープしていた存在です。

そんな結衣を、僕は辞令の出た夜に飲みに誘いました。


優一と結衣の、最後の晩餐は…?


互いに感傷に浸った最後の夜と、別れの朝


「最後の晩餐だから」と茶化しながら、僕はいつも一緒に行く店よりほんの少し背伸びをした『暗闇坂 宮下』に結衣を呼び出しました。

当日にいきなり誘われた結衣は、いささかシンプルすぎる白のカットソーにひざ丈の紺のフレアスカートという、お世辞にも華やかとはいえない恰好で登場しました。

アフター5のために臨戦態勢万全、という意識のないカジュアルさが好きだったことを改めて思い出し、僕は愛おしさに少しだけ涙が出そうになりました。

転勤の話を切り出すと、彼女は驚きのあまりひどく目を見開いた後、うっすらと涙を溜めながらつぶやきました。

「もう優一君と、こんな時間を持てなくなるんだね」

少しだけ震えを伴ったその声を聴いた瞬間、思わず僕は口に出しそうになりました。

待っていてくれないか、と。

しかし、左遷に等しい転勤が決まった僕に、この先の彼女の未来をどうやって保証することができるでしょう。

彼女もきっと他の同期女子と同じように、総合職の優秀な銀行マンと結婚し、寿退社をして、専業主婦として穏やかに家庭を守る立場になりたいと思っているはずです。

彼女の夢を私情で潰すことなどできない。テーブルの下で拳を握りしめた僕は、「福岡にも遊びに来てよ」と取り繕った笑顔で答えるのがやっとでした。


想い人よ、僕は旅立つ


僕が福岡に旅立つ日。

結衣は、たった一人で空港まで見送りに来てくれました。

「優一君に手紙を書いたよ」

最初で最後だからね、と照れたように手紙を僕の手に握らせた後、瞳にどんどん涙が溢れていく彼女を見て、僕は思わず目をそらしました。

元気でね、と握手を交わした後、僕は振り返りもせずにゲートをくぐりました。

「恋人よ、僕は旅立つ」。どこかで聴いた歌のフレーズが、頭の中でこだましていました。僕と結衣は、一度だって恋人だったことはないのにね。




飛行機に乗り込んだ後。僕は、彼女の手紙をようやく開封しました。

恥ずかしながら、搭乗を待っている時間は余韻で何もする気が起きず、魂が抜けたようにぼうっとしていました。

結衣からの手紙には、僕と一緒に行ったところ、たくさん話したこと、1回だけ喧嘩したこと…数えきれない思い出と、深い感謝の言葉が綴られていました。

最後に、1行空けて書かれていた言葉。

“私、優一君のこと好きだったと思う。東京に戻ってくるの、待ってるから。”

僕は、勝手にあふれてくる涙を誰にも見られないように、慌てて窓の外の景色を見るふりをしました。

彼女が言葉にしてくれて、ようやく分かりました。

「好きだったと思う」。僕も、結衣と同じ気持ちだったのです。

でも、好きなだけではどうにもならない。そんなありきたりなドラマのようなセリフを思い浮かべながら、僕はぼんやりと結衣との思い出の海に浸ってゆきました。



約2時間後。

顔に涙の跡がないことをトイレの鏡で確認してから、僕は福岡のゲートをくぐりました。

「優一!」

弾んだ声の方に目をやると、黒いポニーテールの女性がこちらに向かって大きく手を振っています。

「久しぶり!」

僕も負けないくらいの笑顔で、彼女に手を振り返しました。

彼女は、僕が大学時代につきあっていた元カノです。

福岡の大学を出た後、彼女はそのまま地元に就職し、僕は東京に出たことをきっかけに、「先がないよね」という理由で就職後ほどなくして別れたのです。

「また優一とこっちで過ごせるなんて、嬉しい」

彼女はそばに近づいてくるなり、嬉しそうに僕の腕に手を回してきました。

きっと僕はこのまま、この彼女と復縁するのでしょうね。流されやすい僕にぴったりの人生ともいえるでしょう。

でも、もし奇跡が起こり、またいつか東京に戻れたら…

その時はきっと僕はまた、結衣に会いにいくでしょう。


優一に手紙を送った、結衣の本音は?




銀行の窓口嬢、結衣。


初めまして、結衣(26)と言います。

優一君と同じ銀行で、本店のお客様窓口を担当しています。

といっても彼は総合職で、本店の投資案件担当。一般職の私から見ればエリートコースにのった将来有望な青年で、立場は全く違います。

それでも彼とは会話のトーンがとても合い、2人で飲みに行く仲でした。

でも、恋愛関係に発展したことは1度もなかった。

何度か一歩先に進みそうな雰囲気になったこともありましたが、彼、自ら決定打を打ってこなかったのです。

煮え切らない彼の態度にじりじりし、私は「自分からは絶対に行かない」と意地を張っていましたね。

でも、彼が福岡に転勤になると聞いた時、私の心は大きく揺れました。


想い人は、地方へと旅立つ


福岡に行ってしまったら、本店に戻ってこれない可能性も否定できません。

―優一君に、今あふれ出る気持ちを伝えたい。

そんな想いが湧き出る一方で、もう1つの本音も脳裏をかすめました。

―左遷された彼は二度と、出世コースにはのれないかもしれない。

私の夢は、東京の本店に勤める優秀な銀行マンと結婚し、専業主婦として家を守ることに徹すること。

福岡の片隅で彼を待つ生活は、どう努力しても想像ができません。

悩んだ末に私は一通の手紙をしたため、空港のゲートで彼に手渡しました。

“私、優一君のこと好きだったと思う。東京に戻ってくるの、待ってるから。”

最後の一行に託した私の気持ち、皆さんはお分かりでしょうか。

―好きだったのは、過去のこと。でも東京に戻ってきた時は、また連絡してね。

彼にはこの真意、伝わったかな。

正直に言うと、搭乗を待ちながら手紙を読んだ優一君からすぐに連絡が来て、物語のような遠距離恋愛が始まる、という展開を期待していなかったわけではありません。

馬鹿みたいですけど私、どきどきしながら30分ほど空港内のスタバで待っていましたから。結局、彼からの連絡は来なかったけれど。

察しのいい優一君のことだからきっと、私の夢や真意を組んで連絡をしないでくれたのかもしれませんね。

…あ、今、空港の入り口に、迎えに来てくれた彼の車が見えました。

彼、ですか?行内の先輩で、彼氏です。

今日、友人を見送りに空港まで行くっていったら、その後ドライブしようって誘ってくれたんです。

お付き合いをして半年くらいになりますね。優一君には報告していなかったけれど。

もし優一君がいつか東京に戻ってきて、私に会いに来てくれたら…その時はまた、どうなるか分かりませんね。


友達以上、恋人未満のような同期の男女…二人の恋のゆくえは?


つかず離れずの関係で同期をキープしていた優一と、手紙で期待を持たせながらも別の男性とつきあっていた結衣。

貴方が思うこの恋愛ゲームの勝者は、どちら?

▶NEXT:10月23日月曜更新予定
職場内恋愛争奪戦の末に勝利した男女は、誰?