「終身建物賃貸借制度」――老人ホーム以外の新たな選択肢となるか?

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内閣府の『高齢社会白書』によれば、平成26年の時点で、高齢者しかいない世帯(夫婦か独居)は1300万世帯以上だとされている。高齢者のみの世帯には、介護や死後の諸々の処分など、様々な不安が多い。「教えて!goo」にも、熟年再婚を考える男性から、「使用貸借契約と遺言公正証書で妻を死ぬまで安心して居住させたい」という質問が寄せられている。

■遺産分割で住居が失われる危険

質問者が危惧しているのは、自分の死後、お相手の女性と前妻の子供との間で争いが起こった際に、彼女の住む場所がなくなるかもしれないことだ。これに対して、様々な対策が回答として挙げられた。

「生前贈与なり、売却なりで3人のお子さんの名義にして、『女性とお子さん3名の賃貸借契約』を締結されてはどうですか。住居用の賃貸借契約だと、簡単に契約解除出来ませんから」(zipang_styleさん)

「条件付き遺贈、負担付遺贈というものはご存知でしょうか?公正証書による遺言にて、その女性を妻とするのかは別に、その女性が存命中である限り無償でその家に住まわせることを条件にしたお子さんへの遺贈とするのです。そして、守られなかった場合には、その女性に遺贈することとすればよいでしょう」(ben0514さん)

「土地を子どもたちへ生前贈与するのはどう?その上で、土地(子ども名義)を質問者が定期借地契約で子どもたちから借りて、二世帯住宅を建てる。借地契約書に特約で『当該借地契約は借主○○(質問者)が死亡した場合には△△(後妻)が単独相続できるものとする。ただし、△△以外の者は借地権の譲渡・相続など一切できないこととする』『△△の死亡の場合、建物を取り壊し借地権』と明記」(suzuki0013さん)

問題の根幹には、人間は死んだら法的な権利主体となれないルールが横たわっている。したがって、生前に残した遺言がきちんと認められない限りは、相続人らの遺産相続に任せるしかなくなってしまう。この不安が今回の質問の種である。

■看取りまで行う「終身建物賃貸借制度」

では、独居や夫婦世帯は死ぬまでの安心を手に入れるためにどうすればよいのだろうか。一つは住まいや食事、介護までサポートしてくれる老人ホームという手段もあるが、分譲マンションを買う以上の費用がかかることもある。自分たちの老後資金だけでなんとか完結できるサービスはないだろうか。このことについて、心に残る家族葬という葬儀サービスを全国で展開している葬儀アドバイザーに解説していただいた。

「実は、終身賃貸事業という制度があります。これは『高齢者の居住の安定確保に関する法律』に基づいて制定されたもので、最近問題になっている空き家対策とも絡み、各地方自治体が積極的に進めています。

内容は、まず、地方自治体がバリアフリー化された賃貸住宅を対象物件として認可します。その物件に入居した高齢者(満年齢60歳以上の人)は亡くなるまで安心して居住できるというものです。この借家契約は賃借人が生存している限り存続し、賃借人が亡くなった時点で終了する仕組みになっています。」

老人ホーム以外にこんな選択肢があったとは。続けて、この終身賃貸事業制度のメリットとデメリットを聞いてみた。

「メリットとしては、終の住処としての選択肢が増えたこと。そして、賃貸人の都合による立ち退き等の心配が無く、亡くなるまで安心して住み続けることができることです。当然、高齢者向けにバリアフリー化されているので、住居内部において転倒により負傷するといったリスクも少なくなっています。デメリットとしては、対象物件が非常に少ないことと、物件によっては賃料が高額になることでしょう。しかし、老人ホームよりは安価であることが多いです。さらに、有料ですが物件によっては食事や介護サービスも受けられるので、老人ホーム等の施設と比較検討すれば良い結果が得られる可能性が高いでしょう」

なるほど、老人ホームに入らずとも賃貸住宅でサービスが受けられるのが費用を抑えられる特徴だろう。では、この終身賃貸事業制度の利用を検討する場合どうすればいいのだろうか。

「最初に各地方自治体の担当窓口で相談し、事業者と物件を紹介して貰うと良いですね。さらに、インターネットや書籍といった媒体で調べたり、直接事業者に問い合わせてみるのも良いでしょう」

しかし、指摘のとおりまだ広く普及してない制度のため、対象物件が限られているのが現状だ。東京都全体でも平成29年6月の時点でまだ2100戸ほどの対象物件しかない。競争率も高く、安心して住める終の住処を手に入れるには、それなりの幸運も必要なようだ。高齢者世帯の増加が進む昨今、一刻も早い制度の普及と拡充を望むばかりである。

専門家プロフィール:心に残る家族葬 葬儀アドバイザー

故人の家族と生前に親しかった方だけで行う家族葬こそが、故人との最後の時間を大切に過ごしたいという方に向いていると考え、従来の葬儀とは一線を画した、追加費用のかからない格安な家族葬を全国で執り行っている。

ライター 樹木悠

教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)