事業の発案者である朝日新聞社メディアラボの井原成美氏

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 10月2日、朝日新聞の朝刊にこんな全面広告が載った。〈愛情も、友情も、ここから。〉──朝日新聞が始める新規事業「Meeting Terrace」(以下、ミーティングテラス)の案内広告である。その事業内容は、〈40才以上のシングルの方々に出会いの場を提供するサービス〉。つまり「出会いビジネス」である。広告には、以下のような謳い文句が並ぶ。

〈朝日新聞社主催の安心・安全なサービス〉
〈結婚だけではない自由なかたちのパートナー探し〉
〈いそがず、自由に、思い思いに、出会ってください。幸せは、いくつから始めてもいいのですから〉
〈世の中の空気が少しずつ変わりはじめています。そんな時代だからこそ、自分らしく生きる人同士が、もっと気軽に出会い、交流できる場所があったなら。私たち朝日新聞社はそう考えました〉

 字面をたどれば、独身の男女をマッチングする結婚相談所のサービスそのもの。大メディアの中でもお堅いイメージのある朝日新聞が「男女の出会い」をビジネスにするとは、何とも妙な感覚になる。

 同サービスのホームページには料金設定も記されている。ウェブからの申し込みなら入会金は3万9800円、紙の申込書なら5 万円。11月1 日のサービス開始前までは、それぞれ2万4800円、3万5000円の「割引価格」となっている。また、会員となると9800円の月会費がかかる。

 全国に広がる取材網・情報網を異性探しに生かすのか? 働いているのは新聞記者なのか? 興味は尽きない。

◆出会い“系”ではない?

 ミーティングテラスに入会できるのは40歳以上の独身男女のみ(上限は設定なし)。結婚相談所などのマッチングサービスでは年収、職業などの条件をもとに事業者が「このお相手はどうですか?」と異性を紹介するのが一般的だが、朝日のサービスは、個人の会員同士を1対1で仲介するのではなく、会員同士が集まる「出会いの場」を提供するスタイルなのだという。事業の発案者である朝日新聞社メディアラボの井原成美氏が語る。

「ミーティングテラスでは、グループ会社の朝日カルチャーセンターなどの実績を活かして、ワインセミナー、著名人による講演会などを開催。その後に参加者同士の交流会を開きます。まずは首都圏の1都3県で月15〜20回のペースで行ないます。共通の趣味を持つ人々が自然に出会えるようなセミナーやイベントを企画する予定で、将来は全国展開していきたい」

 本誌記者が「なぜ出会い系を?」と聞くと、井原氏は出会い“系”という言葉に敏感に反応した。

「ネット上の出会い系サイトとはまったく別物です。私たちはあくまでも未婚率増加という社会問題に取り組むためにこの新規事業を行なっています。

 もちろん参加者は出会いの場を求めていらっしゃるわけですが、単に“出会い目的だけ”では中高年にはためらいが出て、参加のハードルが高くなってしまいます。だからこそ『知的好奇心を満たすセミナーで自分が成長することが第一の目的であり、その後の交流会で素敵な出会いがあればなおよい』というかたちで利用していただきたいと考えています。そのために朝日新聞だから提供できるクオリティの高いセミナーやイベントを用意しています」(井原氏)

 すでに英会話教室、ホテルブッフェや味覚狩り、酒造見物などが「交流会場」に予定されているという。戦略上、大きな武器となるのはやはり「朝日新聞」というブランドだ。

「従来の出会いサービスに抵抗がある方でも、朝日新聞社の運営ならば安心感があり、周囲の理解も得やすくなる。実際、試験的に行なった交流会でも『ほかの交流会は行きづらいけど、朝日新聞だから来た』という方がおられました。独身の息子や娘のために資料請求をする方もいる」(井原氏)

「朝日なのにやる」ではなく、「朝日だからやる」ということらしい。そうはいっても、「朝日だから安心・安全」といえるものなのだろうか。

「監視の行き届かないネット上でのマッチングサービスのなかには様々な危険があるのも事実。そのためリアルな出会いの場所を提供することにこだわりました。学歴や年収は一切問いませんが、信用できる人に参加してもらうため独自の審査を設け、独身でも特定のパートナーがある人は入会できません。参加者には各種会員規約に同意をしてもらい、個人情報の管理にも細心の注意を払う」(井原氏)

 事業を立ち上げた井原氏は入社4年目の25歳。2015年夏に応募した社内の新規事業コンペで優秀提案に選ばれ、約2年の準備期間を経てサービス開始となった。

 井原氏のアイデアの原点となったのは、大学時代にアルバイトをしていたファミリーレストランだった。井原氏は当時、毎日のように同じ時間に来店していた60代の男性と親しく話すようになった。その男性は、妻を亡くし、子供が独立して孤独な日々を送っていたという。

 ある日、「再婚は考えないのですか?」とその男性に聞くと、「この年齢になって再婚相手を見つけようなんて恥ずかしいし、気後れするよ」と答えたという。

「その言葉がずっと心に残っていたんです。新聞社の硬派で文化的なイメージを活用すれば、奥手な男性もパートナーを探す第一歩を踏み出せるかもしれない。その思いで準備をしてきました」(井原氏)

 これまで集まった会員数は非公表だが、井原氏は手応えを感じているという。

※週刊ポスト2017年10月27日号