<記者コラム:オトゴト>
 日系イギリス人の小説家カズオ・イシグロ氏が、今年ノーベル文学賞を受賞した。長崎出身で、父親である海洋学者の石黒鎮雄氏の仕事の都合で幼少期からイギリスで育ち、イギリス人に帰化している。

 彼は1989年に、『日の名残り』(中央公論社)で英語圏最高の文学賞と言われる「ブッカー賞」を受賞。イギリスを代表する作家となった。今では名実ともに世界最高峰の小説家である彼だが、文学を志す前は、デモテープを制作しレコード会社に送るなどしてミュージシャンを目指していたという。

 2009年に、彼は初の短編集『夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』(早川書房)を出版している。タイトルからも分かるように、流しのギタリストやサックス奏者などミュージシャンを主人公にした5話の短編。ミュージシャンを目指していた彼は、もちろん音楽にも造詣が深い。彼のそんな一面が如何なく発揮された作品だ。

 日本では芥川賞作家の町田康氏が、パンクバンド・INUのボーカリスト「町田町蔵」として活動していたことは有名だ。川上未映子氏も2002年には「川上三枝子」名義でアルバム『うちにかえろう〜Free Flowers〜』を発表し、音楽活動もおこなっている。

 今年も受賞は逃したが、今、日本人作家で一番ノーベル文学賞に近いと言われている村上春樹氏も、作家になる前はジャズ喫茶を経営していた。彼の作品を読めば分かるが、ジャズに限らず、ロックからクラシックに至るまでその音楽の知識は並大抵ではない。

 著名な作家たちが、音楽というものを文字で表現する…そこに一体どんな視点が見えるのか、どのような感覚を読み手は持つのか。秋の夜長に文学に興味のない方も、音楽が好きでない方も、たまには違った趣で本を手に取り、あるいは音楽を聴いてみてはいかがだろうか。【松尾模糊】