北朝鮮ミサイルで急騰したビットコインの未来とは? 落合陽一が語る!

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“現代の魔法使い”こと落合陽一が、人類の未来を予言する『週刊プレイボーイ』本誌の月イチ連載『人生が変わる魔法使いの未来学』。

個人に対する“みんなの評価”がお金になる――そんな「評価経済」という概念がこの夏、新興サービス「VALU」の炎上騒動とともに話題となった。

そして、その取引をスムーズにさせているのが、ビットコインをはじめとする仮想通貨だ。どこかつかみどころのない、この魔法のような経済潮流はどこまで広がるのか? 前編に続き、“現代の魔法使い”がズバリ解説!

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―そのVALUやタイムバンクの取引は、仮想通貨ビットコインで行なわれています。ビットコインといえば、8月29日に北朝鮮が日本列島を飛び越えてミサイル発射実験を行なった際、大きく買われて値上がりしましたよね。

落合 そんな不思議なことじゃないですよ。だって、金や国家発行の法定通貨と違って質量のない財産だから、使い勝手がいいじゃないですか。しかも、ボラティリティ(価格変動幅)がそこそこ高くて買い手もつきやすい。

―金より扱いやすく、ドルや円などの国家通貨と違って特定地域の情勢にも左右されない、と。逆に言えば、ミサイル発射前に北朝鮮がビットコインを仕込んでおけば大儲けできたことになりますね。

落合 ありえない話じゃないですよね、それは。

―ビットコインの運用が開始されたのは2009年ですが、当時ここまで世界的に広がると思いました?

落合 全然! 2010年、一番最初にビットコインが現物決済に使われたときは、「ピザ2枚と1万ビットコインの交換」でしたからね。

―今のレート(9月25日現在、1ビットコイン=約42万5000円)だと……ピザ1枚が21億円以上!!

落合 流れが変わったのは、取引所ができて、現金と交換できるようになってからです。

―最近はビックカメラやメガネスーパー、エイチ・アイ・エスなど、ビットコインでの決済に対応する企業もだんだん増えてきました。

落合 今みたいに全体のトレンドが上り調子である限り、ビットコインでの決済は店側にとって得だと思いますよ。だって、客から支払われたビットコインを売買成立後すぐに現金化せず、決算時まで待っていれば、その頃には今より上がっている可能性が高いわけです。「積み立てておくことができる」というか。

―そうなると、いずれ仮想通貨は国家が発行する現実通貨を駆逐する?

落合 いや、「駆逐」まではしないでしょう。例えば、日本円の価値をゼロにしようという試みがあったとしたら、国家はきっと死人を出してでもそれを阻止しますよね。そういう意味では法定通貨はやはり強いです。

ただ、それでも法定通貨の存在感は徐々に下がっていくでしょうね。だってビットコインのほうが便利だから。質量がなくてスマホがあればいいし、為替と違って交換するのに手数料もかからない。

―でも、この動きって国家にとっては脅威になりませんか? 通貨発行権と徴税権が国家権力の源泉だとすれば、その片方が脅かされているともいえるわけで。

落合 片方どころか、両方ですよ。例えば、ビットコインでの決済に消費税は課せられるのか、という問題があります。飛行機の国際便の中で、アマゾンやeBayでの買い物をビットコインで決済したら、それは果たしてどこかの国に消費税を払うべきなのか、とか。“脱国家”したマネーといってもいい。

―中国政府は最近、国内でのビットコイン取引に対する規制を強めようとしていますけど、それも脅威に感じているからこそなんですね。

落合 ただ、いくら中国でもビットコインを完全に潰すというのは無理です。ビットコインは法定通貨と違って特定の発行者がおらず、世界中のみんなで運用しているし、ブロックチェーンに守られているから、軍事力で侵攻・奪還することもできない。

ちなみに現状、全世界の仮想通貨の流通量は約11兆円。そのうち4兆9000億円くらいがビットコインです。2位のイーサリアムという仮想通貨がここ最近、すさまじい勢いで猛追していて、すでに2兆円以上の流通量になっているんですが、これは総量が決まっていないから危なっかしいんですよね。それに対して、ビットコインは流通総量が2100万ビットコインと決まっていますから。

―総量が決まっていることが、なぜ大事なんですか?

落合 それが「信用」だからです。金塊の価格が安定しているのは、地球の金の埋蔵量がだいたい判明しているからだし、不動産価格がそれほど乱高下しないのも、地球の陸地の表面積が一定だからです。もし無限に海を埋め立てられるようになったら、不動産市場は崩壊しますよ。

―その総量規制があったから、今年8月の分裂騒動(1ビットコインが、1ビットコインと1ビットコインキャッシュに分裂)も、大したダメージにはならなかった?



落合 でしょうね。分裂しても価格は暴落しませんでしたから。ただ、本当はああいう分散にも規制があったほうがいいんですけどね。同じような分裂騒動が数十回あったら、さすがにヤバいでしょう。

(構成/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●落合陽一(おちあい・よういち)

1987年生まれ。筑波大学学長補佐。同大助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰。コンピュータを使って新たな表現を生み出すメディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び、東京大学大学院で学際情報学の博士号取得(同学府初の早期修了者)。最新刊は『超AI時代の生存戦略 シンギュラリティに備える34のリスト』(大和書房)