明治はスナック菓子「カール」の東日本での販売を8月生産分で終了した。(時事通信フォト=写真)

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■ロングセラーブランドのつくり方とは

発売以来、時代の変遷を乗り越えて売れ続けるブランドをつくることは、企業にとって永遠のテーマと言えます。ロングセラーブランドは、どうすればできるのでしょうか。

いつまでも人気の衰えない有名人に置き換えて考えてみましょう。例えば、1970年代にデビューした北野武(ビートたけし)さんや明石家さんまさん、あるいはサザンオールスターズの桑田佳祐さんなどは、現在まで第一線で活躍し続けています。

ビジネス界で言えば、ソフトバンクグループの孫正義さんも、パソコンソフトの流通ビジネスをしていた80年代から脚光を浴び続けています。これらの人たちには共通する特徴があります。それは、「パフォーマンス」と「スタイル」を兼ね備えているということです。

ここで言うパフォーマンスとは、アウトプットの水準の高さを表します。例えば、話の内容や作品、雰囲気など、その時々の時代の要請に合ったものを常に生み出しているということです。パフォーマンスには、受け手側が頭で理解する(認知的)側面もあれば、心で感じる(情緒的)側面もあります。

一方、スタイルとは、その人らしさのことです。さんまさんや桑田さんのように、パフォーマンスの型(パターン)がその人らしさとなる場合もあれば、たけしさんや孫さんのように、価値観や考え方などがスタイルとなる場合もあります。

■ブランド製品になると生じる2つの機能

ここで1つ質問です。皆さんが普段、売ろうとしているのは製品でしょうか、それともブランドでしょうか?

ここで言う製品とは、広い意味での製品であり、モノだけでなくサービスも、またパッケージやデザインなども含みます。ブランドとは、ある製品を他の製品と区別するための、ネーム、ロゴ、パッケージなどの「記号」のことです。製品が売れるときというのは、モノ自体がいいから売れる(=製品で売れる)こともあれば、ブランドイメージがいいから売れる(=ブランドで売れる)こともあります。この2つは区別して考えることが大切です。

「製品で売る」ということは、名前(スタイル)ではなく、中身(パフォーマンス)で勝負するということです。一方、「ブランドで売る」ということは、パフォーマンスとスタイルの組み合わせで勝負するということです。製品で売るよりも、ブランドで売るほうが、顧客にも企業にもメリットがあります。

パフォーマンスにスタイルが加わること、つまりノーブランド製品からブランド製品になることで、顧客にとって2つの機能が生じます。

■人は「不確実性」を避けようとする

1つは、パフォーマンスを予測できるようになることです。例えば、出張でホテルを予約する際、知らない名前のホテルよりも、知っている名前のホテルを選ぶほうが安心しませんか? その理由は、ブランドが付いていることで、品質(パフォーマンス)を予測しやすくなるからです。予測が困難だと、リスクが高まります。これは、人にとって心地よくないことです。

人は予測の困難性、つまり不確実性を避けようとします。ブランドが付いていると、予測が容易になりますから、安心感が得られますし、製品選択の労力も軽減されます。食品を選ぶときも、以前買った食品がおいしかったら、また同じブランドの食品を選ぶことで、期待通りの味が得られます。中身を知るための手がかりとなることは、ブランドの最も基本的な機能です。

ブランドにはもう1つ機能があります。人には、自分らしさを確認したり、他者に表現したいという欲求があります。ブランドは、そのための小道具になるのです。ただし、この場合は、そのブランドがある程度有名になり、世の中にイメージが共有されている必要があります。

■ブランド拡張の典型例「コーチ」

それでは企業には、どのようなメリットをもたらすでしょうか。まず、自社製品を他社製品と差別化することにより、価格競争に巻き込まれずに高く購入してもらうことができます。

また、製品の仕様変更やモデルチェンジをしやすくなり、派生製品も展開しやすくなります。例えば、ソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション」は、94年の発売以来、複数回のモデルチェンジを重ねてきました。製品自体は初代と全く違うものになりましたが、プレイステーションというブランドによって、知名度やイメージは引き継がれています。また、派生製品についても、据え置き型のプレイステーションから、携帯型の「PSP(プレイステーション・ポータブル)」や「PSV(プレイステーション・ヴィータ)」へと展開しました。いずれの場合も、もしブランドがなかったら、一から製品説明が必要になったでしょう。

さらに、ブランドを利用して、異質な分野へとビジネスを広げていくことも可能です。これを「ブランド拡張」と言います。例えば「コーチ(COACH)」はレザーバッグからスタートし、時計やジュエリー、靴など、さまざまなカテゴリーに製品を展開しています。

逆にブランドが機能せず、中身と価格でしか勝負できない状態のことを、マーケティングの世界では「コモディティ化」と呼びます。いわゆるコスパ(コスト・パフォーマンス)競争です。21世紀に入ってから、デジタル化の進展により、製品間の比較が容易になり、消費者のコスパ志向が強まりました。そのため、一時期、多くの企業がコスパ型のマーケティングを採用し、安売り競争に陥りました。その典型がパソコンや液晶テレビです。「ブランドで売る」という視点を失うと、痛手を被ることがよくあります。

ブランドには、コモディティ化を回避する機能があります。企業にとってブランドには、売り上げ・利益・シェアといったマーケティング成果を安定させたり、高めたりする効果があるのです。ブランドは、売れ続けるためのドライバー(駆動力)と言えるでしょう。

■なぜコカ・コーラは売れ続けているのか

いつまでも人気が衰えない有名人の話に戻ると、彼らに共通する特徴は、パフォーマンスは時代に合わせて機敏に変化させているが、スタイルは一貫しているということです。

ロングセラーブランドにも同じことが言えます。パフォーマンス、つまり、製品、パッケージ、価格、チャネル、アフターサービス、そして顧客経験(customer experience)は常に時代に合わせて変化させていく。その一方で、ブランドのスタイル(らしさ・方向性・ポリシー)は変化させない。ブランドのスタイルを、マーケティングの世界では「ブランド・アイデンティティ」と呼びます。ほとんどのロングセラーブランドには、「パフォーマンスは進化させ、スタイルは変えない」というルールが当てはまります。

ロングセラーブランドの代表例がコカ・コーラです。コカ・コーラの場合、ボトルのサイズや形状、広告コミュニケーションなどは時代に合わせて変化させていますが、赤と白を基調としたパッケージデザイン、独特なボトルデザイン、そしてあの風味は一貫しています。さわやかで明るいブランドイメージは不変です。

なお、ロングセラーブランドとは別に、ロングセラー製品もあります。ブランド力というよりも、製品のパフォーマンスで長く売れている製品です。

ロングセラー製品の主要なドライバーは、(1)品質(あるいはコスト・パフォーマンス)のよさ、(2)競争の少なさ、(3)入手容易性(チャネル・配架の優位性)の3つです。例えばアサヒビールの「アサヒスーパードライ」は、ドライビールというカテゴリーにおいて、ほぼ独占状態です。製品そのものの独自性によって売れている製品だと思います。

(青山学院大学経営学部マーケティング学科教授 久保田 進彦 構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)