8月29日(火)、30日(水)に富士カントリークラブ(CC)で行われた平成29年度関東男子秋季Dブロック対抗戦で優勝、Cブロックへ昇格が決まった。盾を持っているのが井上監督(写真:東京大学ゴルフ部)

東京六大学野球で、東大が法大から勝ち点を上げた。スポーツ新聞だけではなく、一般紙でも大きく報道されていたので、ご存じの方も多いだろう。記事によると、対戦相手に2勝すると得られる勝ち点を挙げたのが15年ぶり、連勝による勝ち点は20年ぶりで、法大から連勝での勝ち点は実に89年ぶりという。騒ぎになるのも無理はない。

今年の東大には宮台康平という好投手がいて、プロ野球志望届も出している。東大卒のプロ野球選手が誕生するかもしれない。こちらも野球ファンには見逃せない話題だろう。

東大ゴルフ部は男女ともに快挙を成し遂げた

運動部が所属する東大運動会の中で、硬式野球部に負けないぐらいの「快挙」を成し遂げたのが、実はゴルフ部だ。関東学生ゴルフ連盟の主催する関東大学プロック対抗戦Dブロックの秋季大会で東大ゴルフ部が男女ともに優勝した。来年春季は1つ上のCブロックに昇格する。男子は7年ぶり、女子は初めてになる。

関東学生ゴルフ連盟のHPなどによると、連盟の発足は1935年(昭和10年)で、慶大、早大、明大を設立発起校に、法大の4大学が加盟して創立した。現在は男女合わせて団体加盟 59大学、個人加盟6大学。団体戦がメインで、男子は成績に応じてA〜Fブロック、女子はA〜Dブロックに分かれて、春と秋に対抗戦を行い、成績によってブロックを上がったり下がったりする。

ちなみに、いちばんレベルが高いAブロックで秋季男子の優勝は倉本昌弘日本プロゴルフ協会(PGA)会長はじめプロゴルフ界に大学出身選手としては最も多く人材を送り込んでいる日大、2位は先週のツアー・ワールドカップで優勝した宮里優作や世界で活躍する松山英樹らを輩出している東北福祉大だった。

男女各ブロックや活動の詳細は関東学生ゴルフ連盟のHPなどを参照いただくとして、東大のことだ。東大にもゴルフ部があるのか、と思う方もいるかもしれない。部史によると、1938年に「東京帝大ゴルフ倶楽部」として発足。1939年には原田盛治氏が日本アマなどアマタイトルを独占している。戦後は1955年に活動を再開。OBには鳩山邦夫元総務相、近衛文麿元首相の次男通隆氏らがいる。

初心者が多く集まる東大ゴルフ部、指導は無報酬

近年は個人としても強い選手はおらず、団体戦でも下位ブロックに低迷していた。昨年10月にPGAティーチングプロの井上透プロがコーチを始めてから快進撃。井上プロは男女優勝という実績を受けて、今年9月から4年生が抜けた新チームの監督に就任した。

日大や東北福祉大などは、全国のジュニアゴルファーからスカウトする形で集まってくる。まさしく「プロ予備軍」なのだが、東大はもちろんスカウトなど論外だし、入学するのが大変。ゴルフ部に入ってくるのは、ほとんどがいわゆる「新勧」で獲得するゴルフ初心者だ。

井上監督は「多くの大学ゴルフ部は、強い選手のことしか考えていません。ゴルフは楽しくてすばらしいスポーツであることを知らせること。大学ゴルフ部のあり方を提案していきたい」という。指導は無報酬で「東大ゴルフ部の成長を発信するのが私の報酬」という。

ほとんど初心者で入ってくるが「目標は卒業までに70台」という。「70台、80台で回れたら、その後のゴルフが楽しいでしょう。彼ら、彼女らは世の中でこれからいろいろなことを成し遂げていくでしょう。その中に、アマチュアゴルフの歴史をつないでいく役割があると思うので、ゴルフを好きになってもらいたい」と、井上監督は話す。確かに戦前からゴルフをつないできているのは大学ゴルフでもある。


9月5日(火)、6日(水)にこだまゴルフクラブで行われた平成29年度関東女子秋季Dブロック対抗戦でも優勝しCブロックへ昇格した(写真:東京大学ゴルフ部)

女子の岡見菜生子主将(肩書は前、以下同=工学部4年)は入部したときは130ぐらいだったという。「2年生の夏に100を切り、3年生の春に90を切りました。ベストスコアは83。優勝は実力以上だったと思います(笑)。井上コーチ(当時)に不調になったときの立て直し方を教わってよくなった」という。

男子の山野俊樹主将(工学部4年)は父も東大ゴルフ部。ゴルフの心得はあったが「入学時は110ぐらい。いまベストは76です」という。伸びた理由は何か。「今まで試合前とかも適当にやっていましたが、井上コーチのおかげでスイング分析をしたり、コースの分析をしたり、準備ができるようになった」(山野男子主将)。

ゴルフ場とウィン・ウィンの仕組みを作った

昨年春の対抗戦ではチームの平均スコアは100だったが、今年の秋は88になっている。近藤卓司主務(経済学部4年)は「井上コーチに来ていただいてから、練習環境が改善されたのが大きいと思います」という。

それまで練習やラウンドもできたりできなかったりであった。井上監督の紹介で、神奈川の名門、程ケ谷CCに土日にまとまった人数でキャディーのアルバイトに入る約束で、平日は業務後のラウンドを自由にできるようになった。ゴルフ場も今はキャディーが不足しているので、双方に利益がある。練習にも真剣みが出てきて、一般の練習場に「団体割引にしていただけるように自分たちで交渉した」(近藤主務)と週2回、安く練習できるようにした。

一般的に、大学ゴルフ部で用具代や練習、ラウンドの費用など年間数十万円程度はかかるといわれている。「月2回がノルマ」というキャディーのアルバイト料は自分の手元に入り、その中から月5000円の部費を支払える。土日なので授業の支障にならない。授業が終わった後にコースに行けば回れる。平日は授業の合間に練習場に行ける。そんな環境が「いつも」存在することになった。部の運営には、大学からの補助はほとんどないため、OB会の援助も大きいという。

自前の練習場を持っていたり、大学の「広報」としての役割を果たすために資金も豊富な強豪校とは違う環境の中でも「楽しむ」「うまくなる」「優勝を味わえる」と、階段を上がっていった。

ゴルフを通じた横のつながりが将来を支える

井上監督は「入ってくる部員は全員辞めさせないように、ゴルフの好きな社会人になってもらいたい」という。そのために、試合も多くの部員が経験できる環境を整えるのが、今後の目標でもある。現在は関東大学ゴルフ連盟競技のほか「旧七帝大」と呼ばれる東京大、京都大、大阪大、名古屋大、東北大、九州大、北海道大に一橋大を加えた対抗戦もある。「今度、慶大との交流戦もやります。野球でいう東京六大学の交流戦まで発展させられたらと思っています」(井上監督)。

日本を支えていく人材を輩出するさまざまな大学と、ゴルフを通じて「横のつながり」を作ること。それがゴルフ界の将来の底辺を支えることになるだろう。

プロを目指すわけではない。そんな東大生にとってゴルフはどんな意味を持つのだろうか。

「ゴルフはいろいろな年齢の人と回れるコミュニケーションツールとして考えています。キャディーのアルバイトでも普通では話せない人と話せます。そういう方とコミュニケーションを取れるかも大事だと思います」(山野男子主将)

「東大生は家庭教師とか、教育系のアルバイトが多いので、言葉遣いなども意識しないので社会勉強にならない。ゴルフで、特にキャディーのアルバイトでも、話すのはこれから私たちが行く世界の人たち。社会勉強になったらいいと思います」(岡見女子主将)

「70代、80代のOBの方々が元気にラウンドしている姿を見て、長年続けられるスポーツだと思います。キャディー経験、部活の運営など、人間として成長できますし、目上の方と臆せず話せるようになりました」(近藤主務)。
 
これは、東大生に限らず多くの人に共通するゴルフの効用だろう。