―私、年内に婚約するー

都心で煌びやかな生活を送る麻里・28歳は、ある日突然、こんな決意を固めた。

女の市場価値を冷静に受け止めれば、20代で結婚した方が絶対お得に決まっている。

掲げた目標は“今年中にプロポーズされる”こと。

麻里は本気の婚活を決意したが、男たちとのデートはうまく行かず、元彼にすら「結婚」という言葉を出した途端に引かれてしまう。

だが麻里は、自分を騙した既婚男・浩一を利用し、運命の男と、とうとうデートの約束を取りつけた。




―麻里ちゃん、お店の場所分かるかな?もし家にいるなら、マンションの下まで迎えに行きますー

ただでさえドキドキが止まらないデート直前、「迎えに行く」という優樹からのメッセージに、麻里の胸はさらに高鳴った。

彼が予約してくれた『ラパルタメント ディ ナオキ』は、麻里の家から徒歩10分弱ほどの距離であり、その便利な立地も彼の気遣いゆえだろう。

そして同年代のデート相手たちとは店で直接会うことになるのが多い中、このちょっとした距離を“迎えに来てくれる”というオファーは、かなりポイント高めだ。

スマホで地図を眺めながら不安定なハイヒールでコンクリートを歩くのは正直しんどい。何だかんだで、女はこういう単純な優しさに弱いのだ。

自分がそれなりの好意を抱いている相手ならば、尚更である。

鏡の前で、麻里は何度も全身をチェックする。

服はバッチリとキメすぎないよう、ネイビーのニットのセットアップを選んだ。シンプルだが素材は良いものだし、身体のラインもイイ感じに強調してくれる。

そのぶん、アクセサリーはユラユラ揺れるゴールド系の華奢なものでまとめ、足元はラベンダー色のマノロブラニクを合わせた。

―はぁぁ、楽しみ...!

思わずスキップでもしてしまいそうな勢いで、麻里は部屋を出た。


期待値高まりまくるデートの展開はいかに...?!


韓流ドラマの如く、ピュアに惹かれ合う二人


高揚と緊張で胸が張り裂けそうな思いをした麻里であったが、その期待は裏切られることなく、優樹とは最高の時間を過ごすことができた。

時間通りに麻里のマンションの下で待機してくれていた彼は、ジーンズにグレーのセーターという無難な恰好をしていたが、脚長の細マッチョ体型には、変に着飾らないシンプルな服がよく似合う。

「麻里ちゃん、連絡くれてありがとう。本当に嬉しかったよ...」

「...だって、優樹くんが誘ってくれないから。でも、すぐに会えて私も嬉しい」

普段ならば、こんなに好意バレバレのセリフを易々と口にすることは、まずしない。

しかし、やはり優樹を前にすると、麻里はなぜか心が丸裸にされるような、素直な気持ちになってしまう。

「ごめん!仕事が結構忙しかったのと、正直、麻里ちゃんみたいな人が俺なんかと本当にまた会ってくれる自信もあんまりなかったんだ。でも、そんな風に言ってくれるなんて...」

二人は顔を見合わせ、くすくすと笑い合った。

会うのがたったの2回目だなんて信じられない。それくらい穏やかでほのぼのとした空気が二人を包む。

―やっぱり、優樹くんとの出会いは運命なんだわ...。

本物の運命の相手というのは、ありがちな駆け引き、攻防戦、邪推のし合いなど全く必要としないのだ。

そんなもの飛び越えて、ただ見つめ合うだけでも、お互いの気持ちはちゃんと伝わっている気がした。




『ラパルタメント ディ ナオキ』は、カウンター席メインの、こじんまりとしたイタリアンだった。

そのアットホームな雰囲気の中、恋が始まりかけた男と“五感を刺激する料理”をテーマにしたおまかせコースに舌鼓を打つのは、何とも言えない至福の時間である。

オーダーの仕方、麻里の食事のペースに対する気遣い、そして、上品に料理を口に運ぶ様子......優樹には、やはり何一つ文句はない。

一度食事をすれば、だいたいの人となり、そして相性は分かってしまうものだ。

「何か...麻里ちゃんとは、たった一週間前に出会ったなんて気が全然しないな。こんな楽しい時間久しぶりだよ。それとも、やっぱりモテる女性といると、男はみんなそう思っちゃうのかな」

「そんなことないわ。私も、信じられないくらい楽しい」

まるで韓流ドラマの如く、こんな風にピュアに惹かれ合う男女が、果たして港区にどれだけいるだろう。いや、希少すぎるに決まっている。

これだけ婚活に励み、週に7回以上の食事会に赴いた女がそう思うのだから。

「会ったばかりなのに、俺、本当に麻里ちゃんのことが......」

優樹が切なそうに声を振り絞るのを、麻里は胸を高鳴らせながら、ウンウンと元気づけるように頷きながら見守った。


しかし、やはり事件は起きた...?!


「俺、麻里ちゃんのことが......」の先が、なかなか聞けない


だが、しかし。

「俺、本当に麻里ちゃんのことが......」

この“......”の続きを聞くことは、なかなか出来なかった。

麻里が優樹を促すように温かな笑みをたたえ、辛抱強く彼の言葉を静かに待っていても、なかなか決定的な一言を口にしないのだ。

「麻里ちゃん、本当に俺......」

しかし優樹は、何度も“その一言”を口にしたそうな気配を見せる。

―きっと、一度目のデートで告白なんかするのは軽率だって思って我慢してるんだわ。

優樹は真面目で節度のある男なのは十分に分かるから、麻里はこの寸止めプレイをそんな風に解釈することにした。

食事のあとは、二人は『ヒルトップカシータ』に移動し、日曜だというのに夜中まで語り合った。お互いにいくら話しても時間が足りなかったのだ。

「良かったら、次はお昼から会えないかな。麻里ちゃんとの時間は、夜だけじゃ全然足りなくて...」

この二人の意志疎通度といったら、もう以心伝心レベルの感動である。帰り際には、しっかり次の週末のデートの約束をして別れた。


とうとう明らかになり始めた、彼への違和感


それから優樹とは、丸1日デートを4度も重ねた。

だが、初デートで二人の距離はグンと縮まったにも関わらず、やはり彼はなかなか告白をしてこなかった。

出会いから3週間経過した今日の日曜日は、昼から外苑前いちょう並木の『シェイクシャック』で秋晴れの昼下がりを満喫した後、代々木公園を散歩という何とも爽やかな時間を過ごしたにも関わらず、だ。




―でも......優樹くんとは、真っ昼間からハンバーガーを食べるのすら楽しすぎるわ。

正直、いつまで経っても「俺、麻里ちゃんが......」の寸止めをし続ける彼に違和感はあった。

しかし、この“正式な恋人となるまでの期間”というのは、長ければ長いほど絆が深まるなんて説も雑誌か何かで読んだ気がするし、優樹との時間はとにかく幸せだったから、麻里はその違和感を無視していたのだ。

だが、とうとう事件は起きた。

―あ!優樹くんのお財布、持って帰って来ちゃったわ!

散歩中にバッグの中に預かった彼の財布をそのまま持ち帰ってしまったのに気づいたのは、デートから帰宅してしばらく経ってからだった。

麻里は急いで優樹に電話をかける。

「あ、もしもし!麻里です!優樹くん、お財布...」

「...あなた、だれ?」

しかし電話に応答したのは、優樹でなく、知らない女の声だった。

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この女の正体は...?!恋にのぼせる麻里を、凄惨な修羅場が待ち受ける。