「出版不況」と言われだしてからすでに20年近くたつ。 (c) 123rf

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 文芸春秋の松井清人(まつい きよんど)社長が10月13日の全国図書大会にて、図書館への「文庫本貸し出し中止」要請を発表した。この件に関して既に12日、PDFにて原稿内容がWeb上で公開されていたため、ネット上などでもさまざまな物議が醸されている。

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■「文庫は借りずに買ってください」が意味するもの

 第103回となる「全国図書館大会 東京大会」は、10月12日〜13日の日程で国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された。問題となった文芸春秋・松井社長の「図書館での文庫本貸し出し中止」は、本大会13日に報告会の壇上にて発表されたものだ。

 松井社長によるこの発言は「公共の図書館の役割と蔵書、出版文化維持のために」をテーマとした報告で、原稿内容が書かれたPDFが発表前の12日から既にWeb上にて公開されていた。

 松井社長の原稿には、最近は文庫本を積極的に貸し出す図書館が増えているために、それが文庫市場の低迷に少なからぬ影響がある(と自分は思う)。だからこそ出版文化を共に支える図書館に対し、出版業界の屋台骨である文庫本の貸し出しをやめて欲しいと訴えたものだ。

 そのため内容はいくつものニュース媒体で報道され、文芸・出版に携わる者以外にも、著名者や一般人など多くが知ることとなり、この内容についてさまざまな議論が交わし続けられている。

■そもそも売り上げ低迷は本当に図書館の所為なのか?

 ところで「文庫本売り上げ減少の要因が図書館にある」については、実は前置きとして「確たるデータはありませんが」の一文が入れられていたのだ。2014年からの大幅な文庫本売り上げ減少については、出版科学研究所から3年分の数字が視覚化されていたが、図書館との因果関係についてはデータが提示されていないことになる。

 「週刊文春」を出版する文芸春秋だが、文庫本の収益が全体の30%強を占めており、同社にとって最大の収益源が雑誌ではないことも明かした。それゆえ文庫本が生む利益で版元を、そして作家を守りたいとのことなのだ。

 原稿の締めとして、松井社長は自身が幼い頃に本の面白さを教えてくれたのは図書館だとしている。それを踏まえて、図書館で文庫の貸し出しをやめれば、ユーザーは本屋で買うしかなく、そんな空気が熟成されていくのが(文庫市場回復に)何より重要だと訴えたのだ。

 近年では電子書籍化の波が押し寄せ、10月6日からはAmazonジャパンがプライム会員の特典として、特定の書籍が読み放題となる「プライムリーディング」の提供を開始している。またTwitterなどでは文庫本が売れない理由を、スマホとの競争に負けたからではないかとの意見も多くあげられた。

 ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの作品が、どれも軒並み増刷体制へとなっている。ユーザーが文庫本を購入するよう本屋に足を運ばせるには、よほどのヒット作が登場しない限り現状では難しいかもしれない。