11年目のFリーグに、ふたつの異変が起きている。

 ひとつは、毎年のように下位に沈んでいた湘南ベルマーレの好調ぶり。過去プレーオフに一度も進出したことのない湘南だが、今季は第20節を終えて3位と好位置につけている。


得点ランキングでトップを走る府中アスレティックFCの渡邉知晃

 そしてもうひとつの大きな変化は、得点ランキングに表れている。今季得点ランクを牽引しているのは、府中アスレティックFCに所属する日本代表FP(フィールドプレーヤー)の渡邉知晃だ。

 Fリーグは開幕初年度の2007-2008シーズンにFP横江怜(よこえ・れお/ペスカドーラ町田)、2年目にFP稲田祐介(当時・バルドラール浦安)が得点王に輝いて以降は、外国籍選手あるいは帰化選手が常にランキングトップにいた。しかし今季は第20節終了現在、渡邉は28ゴールで2位のFPロドリゴ(湘南)に6得点差で得点ランキング1位に立っている。そのため、9シーズンぶり3度目となる純日本人得点王の誕生に大きな注目が集まっているのだ。

 2009年に初めてFリーグのピッチに立った渡邉は、今シーズン開幕までの8シーズンで計105ゴールを積み重ねていた。1シーズンあたり平均約13ゴールを挙げている計算で、キャリアハイは2013-2014シーズンの18得点。最前線のピヴォでプレーし、ボレーシュートの技術はリーグ屈指。決勝などのビッグゲームにもめっぽう強い。

 とはいえ、ここまでの大爆発ぶりはチームにとってもうれしい誤算だろう。なにせシーズン開幕前に谷本俊介監督と立てていた目標は20得点。その目標を早々に達成したあとも、このままいけば年間50得点という驚異的なペースでゴールを量産し続けている。Fリーグの年間最多ゴール記録は2015-2016シーズンFPヴィニシウス(シュライカー大阪)が打ち立てた年間48ゴール。この記録の更新さえも狙える勢いだ。

 なぜ今季の渡邉は、キャリア平均4倍ものハイペースでゴールを決め続けることができているのか。日本代表でも一緒にプレーするチームメイトのFP皆本晃は、渡邉の変化をこう指摘する。

「反転シュートは明らかに増えました。昨シーズンは反転して決めたゴールは1点か2点しかなかったのが、今年はけっこう増えています。チームで(反転シュートを増やしていこうと)話したわけでもないので、『意外と反転するんだな』と驚いたくらい」

 31歳のピヴォの進化を、ゴール数が増加した理由に挙げた。

 FP完山徹一は「特別にボールを集めようとしているわけではないですし、トモ(渡邉)に点を獲らせようとか、何かを変えたということはないんですよね」と首をかしげる。そして「強烈なミドルシュートを打つとか、そういう選手ではないのですが、点を獲る場所に顔を出して決めてくれている印象はあります」と続けた。

 また、FP柴田祐輔は渡邉のゴールへの意欲が変わったと証言する。「ゴールに対して、より貪欲になったのかなと思います。ゴールに対する執着心が見えるし、実際に得点も決めてくれている。それによって、よりパスが集まっていると思います」と、好循環が起きているようだ。

 渡邉の変化について、チームを率いる谷本監督はいくつかの要因が重なっていると説明する。

「今季はプレシーズンからしっかりチームと一緒に時間を過ごせているなかで、味方との細かなコンビネーションがちゃんとできているのがひとつ。また、出場時間も伸びている。あとは、彼を生かそうとする周りの働きもあるでしょう。セットプレーも含めて、彼がどう生きるかを考えて組んでいるところもあります。もちろん彼も努力をしていますし、どうすればコンスタントに点を獲れるかを突きつめて考えていると思う。いろいろなバランスが取れているのが一番だと思います」

 3シーズン前に名古屋オーシャンズから加入した渡邉だが、実はまだシーズンを通して府中でプレーをしたことがない。加入1シーズン目は、中国のプロチームからオファーを受けてシーズン途中で移籍。2シーズン目も、そのクラブがAFCフットサルクラブ選手権に出場する際、アジア人枠の助っ人として大会限定で期限付き移籍したからだ。

 監督が要因のひとつとして挙げたセットプレーについては、本来はボレーのうまい渡邉を中心に戦術を組み立てたくても、シーズン途中でいなくなることがわかっていたので、昨季まではそれができなかった。しかし、今季はシーズン開幕前から一度もチームを離れていないため、渡邉を軸としたセットプレーができるようになり、チームメイトとの連係面も向上したという。また、同じピヴォのFP小山剛史の退団やFP三井健の負傷によって出場時間が増えたことも、ゴールラッシュの一助となっているようだ。

 では、渡邉自身はどのように感じているのか。キーワードは「意識」だった。

「(得点の)バリエーションが増えたことは間違いないと思います。今シーズンは反転シュートから5〜6点は獲っていますからね。でも、特別な練習をしたというより、意識の問題だと思います。

 ピヴォでボールを受けたとき、周りを生かすプレーのほうが好きだし、得意でした。(昨季までは)自分にボールが入るなと思ってトラップしたとき、いい落としをして点を獲らせることを最初に考えていたんです。そうすると反転シュートを打つときに2〜3秒遅れてしまうので、その間に相手に守備を整えられてしまっていた。でも、今年はボールをもらった瞬間に『反転してやろう』『自分で行こう』と瞬間的に思うようになったんです」

 ボールを受けたときの選択肢が変わったことを、渡邉は明かした。

 誰がゴールを決めても、1点は1点だ。これまで自分で点を獲りにいくことよりも、周囲に点を獲らせることを意識していた渡邉だが、今季は「俺が獲らないと勝てない」と思うようになったという。

「ゴールという目に見える形で、自分の存在価値を示したいんです。これまでは1試合のなかで1点獲れば『自分の仕事はできた』と思ってしまう部分があったのですが、今は2点目、3点目も決めたいと思うようになりました。

(皆本)晃とも代表合宿のときに話をしたのですが、長年チームにいた(小山)剛史くんもいなくなって、これからは俺と晃が府中の中心になっていくのは間違いありません。これで府中が下位争いしていたら、『皆本も渡邉も大したことないな』と思われてしまいます。

 現在、府中にはGKクロモト、FPマルキーニョと外国人選手もいますが、年間30点、40点も獲ってくれる選手ではない。そうなったとき、俺や晃が助っ人外国人と同じ活躍をしないと府中は優勝できないし、上位にもいけない。だから、俺が点を獲らないといけないんです」

 振り返れば、渡邉はそのキャリアのなかで「チームの絶対的なエース」という立ち位置にいたことがなかった。名古屋では外国籍選手やFリーグで4度の得点王に輝いた森岡薫(現・町田)がおり、日本代表でも森岡、高橋健介(浦安監督)、星翔太(浦安)といった選手たちがファーストチョイスだった。

 責任ある「エースの座」を与えられたことで、渡邉の秘めていた能力が開花したのかもしれない。シーズンを折り返した今も「まだ半分、終わっただけだから」と語る府中の13番は、得点王を意識することなく、本能のままにゴールを求めていく。

■フットサル記事一覧>>