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歌手の三波春夫の有名な言葉に「お客様は神様です」というものがありますが、

この言葉ほど、真意が誤解されて広まった事例は珍しいのではないかと思います。

三波にとってお客様とは客席にいる聴衆のことで、

「お客様を神様と思い、神前で祈るときのように、雑念を払って澄み切った心で歌わなくてはならない」というのが本来の趣旨です。

しかし、短く簡潔な言葉であるがゆえに意味が誤解されてしまい、現代では「自分はお客様なのだから、神様のように扱われなければならない」、

あるいは「金を払うのだから、何を要求しても許される」といった意味で捉える困った方が多いように思います。

不動産業界においてもそういう困った方は多いものです。

今回は思い出に残る「困ったお客様」について書いてみたいと思います。

■困ったお客その1:親族の横やりに翻弄され、最後は上司に怒られた気の弱い男性

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結婚予定で新居を探しているというカップルを松戸市内のマンションに案内したことがあります。

初回の案内の際は何やら第三者のような立場の人が付き添い、2回目の案内では夫の親族がぞろぞろと付いてきました。

2人とも部屋を気に入って話が順調に進み、いよいよ契約という事になったのですが、ここから話がおかしくなります。

重要事項の説明を済ませ、本人が納得して署名捺印したのですが、連帯保証人である父親がどうしても捺印しません。

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起算日まであと数日という段階で「新生活の大切なスタートなのだから、完全に納得して契約したい」

ということで15項目くらいの修正要求が本人から送信されてきました。

どれもお話にならないレベルの内容で、再案内時の付添人が「ああ言え、こう言え、こうなるまで絶対にハンコは押すな」

と横やりを入れていることが明らかです。

結局、土壇場でキャンセルということになりました。

■今度は2人の共通の上司からの連絡が…

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数日後、今度は初回の案内時の付添人から「部屋がまだ空いているなら、もう一回話を進められないか?」という電話がありました。

なんとこの方は2人の共通の上司で、自分も関わった可愛い部下(特に女の方)の新居探しが破談となったことに驚いていたようです。

経緯を説明して「信頼関係を根底からひっくり返すような人とは取引できない」といって断ったのですが、

数日後「上司に怒られました」と本人から謝罪の電話がありました。

結婚後の新居という重要な問題で、周囲の横やりに対して自分では何もできなかった夫を、妻がどう思ったか知りたいところです。

■困ったお客その2:土壇場で話をひっくり返そうとした外資系証券会社の外国人社員

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賃貸マンションの営業をしていると外国人のお客様を相手にする機会は珍しくありませんが、物の考え方や価値観が違うので苦労が絶えません。

世界中を混乱に巻き込んだ「なんとか兄弟」という名の外資系証券会社の男性社員が茅場町のマンションの契約をした時も、

あれやこれや無理難題を吹っかけられて苦労しましたが、

内見についてきた別の外資系証券会社に勤める彼女さんが「私も住みたい」と言い出した時は大変でした。

その方は住んでいる部屋の退去期限が迫っていて、すぐにも引っ越さなければならない状況だったのです。

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しかし退去予告が出ているだけでまだ空いていない部屋を、間取り図だけ見て「どうしてもこの部屋にしたい」と申し込みを入れてきたのです。

部屋というものは前の入居者が退去するとリフォーム工事をしなければならず、退去したからといって次の人がすぐに入れるわけではありません。

部屋の傷み方が激しければリフォームにも時間がかかるため、入居できるタイミングは「空いてみなければわからない」といえます。

しかし、確実に入居可能な他の部屋を勧めても頑として応じようとはしないため、管理会社と相談の上申し込みを受けました。

■お客様に対してブチ切れたのは、後にも先にもこの一回だけだった

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すべて最速で進めれば恐らく間に合うだろうということで、ここまでは珍しい話ではありません。

最大の問題が発生したのは期限ギリギリでリフォーム工事が終了し、部屋の確認をした時です。

その部屋の向かい側でビル工事が行われていたことから、本人が部屋を変えたいと言い出したのです。

こんな土壇場でのキャンセルなど、日本人なら恐らく言わないでしょう。

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「別の部屋に変えられるのであれば、しばらくホテル暮らしになっても構わない」というのを聞いて筆者の頭に血が上りました。

「あなたがどうしてもこの部屋をこの日までに、と言うから大勢の人が動いたのです。

それを今さらキャンセルなんかすれば、たとえ別の部屋で申し込みを入れ直しても今度は審査が通りません!」

営業マンとしてのキャリアの中で、お客様に対してブチ切れたのは、後にも先にもこの一回だけです。

この方はこれ以降、人が変わったように素直になったのが印象に残っています。

■不動産営業マンのホンネとは…?

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不動産の世界でよく使われる言葉に「買わない客は客じゃない」というものがあります。

既に何回か書いておりますように、不動産の世界は契約にならなければ、たとえどれだけ手間と経費をかけてもビタ一文もらえない世界です。

お客様として神様のように扱ってほしいならまず契約しろと、営業時代の筆者は思っていました。

家というものは生活の場になりますので、そこで発生する問題には様々な人間模様が反映します。

これを書きながらも「そういえばあんな事もあった」「こんな事もあった」と様々な出来事が思い出されてきました。

今後も折を見てご紹介したいと思います。