地方を変えるのは巨大計画より小さな店だ

写真拡大

地方の活性化にはなにが必要なのか。高校時代からまちづくりに関わり、35歳にしてキャリア20年の木下斉氏は「まちを変えるのは、小さな市場を掴む個性のある店だ」という。その典型例が北海道・静内の「あま屋」。全国からファンが集まり、自前の「フェス」まで開催するという人気店は、どうやって生まれたのか。現場から報告する――。

■なぜ小さなお店や企業のほうが着実に成長するのか

たくさんの専門家が集まり、多額の資金を投じて、巨大な施設開発を行う。全国各地の自治体は、そうした地域再生事業を主導していますが、私はそうした事業で再生した地方を見たことがありません。

むしろ、投資を行ったにもかかわらず、マイナスの影響を与えてしまい、地域をさらなる衰退へと引きずり込んでしまっている事例のほうが目立ちます。

一方で、地方に可能性がないかといえば、そんなことはありません。実はここ数年、小さくとも尖(とが)ったコンセプトの民間発の事業が、少しずつ成長し、地域に大きな影響を与えるようになった事例が、着実に増加しているのです。

なぜ官民あげた巨大計画は頓挫するのに、大して資金力もない小さなお店や企業のほうが地域で着実に成長していくのか。本連載では、そのような地方の小さくともキラリと光るお店や企業などに光をあて、その事例を紹介していきます。

■供給を拡大して地域を破壊する巨大計画

地方ではいまだに活性化のための巨大計画が策定されています。それは、大規模な資金を投資して「供給」すれば、さまざまな需要が自動的に吸い寄せられ、地域が再生するはずだ――という都合のいい考え方に基づくものです。

しかしすでに地方においては、住宅も、店舗も、公共施設も余っています。つまり量的な「供給」は既に足りているのです。そのため、単に小さくて古いものを壊し、大きくて新しいものをつくるだけでは、とんでもない失敗となり、地域をさらに衰退させることになります。

岡山県津山市のアルネ津山、青森県青森市のアウガ、山梨県甲府市のココリ、秋田県秋田市のエリアなかいち、北九州市のコムシティなど、大きな予算を使った計画が頓挫し、活性化どころか周辺にマイナス効果をもたらした事例は枚挙にいとまがありません。

■「尖った市場」を掴む、地方の小さな店

小さな店、小さな事業よりも、大きな店、大きな事業のほうがいい、というのは、「拡大経済社会」における価値観です。昔のように、皆が同じものを買い求める消費行動が基本の巨大市場が存在する場合には、大きいものが勝ちます。ところが、今はそのような市場はどんどん減少しています。また、そもそも昔からある大きな市場は大企業が大きなシェアを持っており、地方の小資本・少人数で今から参入して勝てることは稀です。

現代においては、価値観が多様化しており、消費行動も同様に個々人で相当に幅があります。その結果、かなり尖った小さな市場が多数存在しています。

だからこそ、今、地方で成果をあげる小さなお店や企業は、強い個性で、小さな市場に適合して成長しています。そして、いつの間にか、その小さな店は地域で無視できない存在感を示すようになり、そのうち地域外からもその店を目的に、そのまちを訪れる人を増やし、結果的に地域全体に変化を与えるようになっているのです。

■北海道・静内の商店街で個性を放つ「あま屋」

こうした「小さな店が変革を起こす」という事例はたくさんあります。先日も、北海道日高地方、旧静内町(現・新ひだか町)で驚く店に出会いました。その名は「あま屋」。

あま屋のある新ひだか町は、北海道の南東部に位置し、札幌市から車で約2時間半の立地です。決して恵まれた場所とはいえませんが、全国各地からファンが訪れる人気店であり、地域全体に変化を与えていると聞いて、仲間と共にたずねました。

店に入ると店主・天野洋海さんの元気な声が響きます。メニューには、ウニ、いくら、つぶ貝など、どれを選ぶか悩んでしまうような魅力的な食材が並んでいます。しかもどのメニューに対しても、情熱のこもった解説があるのです。私は地元食材を華麗に用いた絶品料理の数々に圧倒されました。同行していた仲間と共に、一瞬にしてあま屋のファンになってしまいました。

印象的だったのは、「エゾシカの熟成肉」を使った、特製トマト鍋です。見た目からしてインパクトのある鍋に、うま味たっぷりのエゾシカの熟成肉をしゃぶしゃぶして、あっさりした温かいダシにつけて食べます。食べ始めると箸が止まりません。

■地域の素材・資源を「料理」に引き上げる

トマトが名産品だからトマト鍋、地元で鹿がとれるからシカ鍋。そんなものは各地で多数食べさせられてきましたが、あま屋のそれは全く違いました。

元自衛官である相樂正博さんは退官後に地元に移住。退職金をつぎ込み「株式会社北海道食美樂」を起業し、試行錯誤の末、このエゾシカ熟成肉を開発したといいます。当初は熟成の手法だけでなく、販路開拓でも苦労したそうです。そんな折にあま屋の天野さんと出会い、コラボレーションを進めることで、先の特製トマト鍋を完成させました。そして、今やエゾシカ熟成肉は、国内の有名ホテル、海外の星付きレストランのシェフなどからも引き合いがあるほど、人気の食材となっています。

地域の素材・資源を単にそのまま出すのではなく、投資をともなう高次元の技術で加工し、さらに優れた調理技術をプラスして「料理」へと引き上げる。そして、それを店主の個性と経営力の組み合わせで事業として成立させる。これが地域食材の高い付加価値を生み出す原則です。

■補助金ゼロで行われる「あまフェス」の熱気

しかしながら、単にうまい飲食店というだけでは、それほど尖っているとは言えません。実は、あま屋は6年前からは夏に「あまフェス」という自前の大型イベントを開催しているのです。道内の仲間の料理人、ミュージシャン、そしてあま屋のファンを集めたイベントなのですが、その熱気がまたものすごいのです。

ひとつの店がしっかりと実業を通じてファンを積み上げ、その仲間で地域を巻き込んでいるからこそ生まれる熱気は、補助金に依存したB級グルメイベントでは感じません。あまフェスは当然、補助金はゼロ。完全自前で仲間と開催にまで至るからこそ、地域に多大な影響を与える存在になっています。さらに当日の盛り上がりだけでなく、2017年からは地元ホテルが「あまフェスパック」を組み立てるなど、地元ぐるみでしっかりと事業化していることも、補助金依存事業にはない堅実な発展です。

皆が関わり、応援したくなる店という存在は、地域に新たな連帯まで生み出しています。

そんなあま屋もオープンは2003年。天野さんは札幌の飲食店で勤務した経験があり、あま屋は天野さんの実家の鮮魚店が経営する飲食店としてオープンしました。当初は地元向けの普通の和食店だったものを、地元の食材に特化した業態に変更。客層も人口減少が進み続ける地元客だけでなく、日本だけでなく世界から、日高のうまいものをしっかりとした料理で食べたいというファンに向けたものへと転換しました。

■路線変更には地元からの反対も

オープン時に安価だった価格帯も見直し、しっかりと付加価値のとれる店へと変化しつつ、今に至っています。そのような路線変更に対し、当初は地元からかなりの反対があったそうです。しかし今は、地元の方々も記念日など「ハレの日」に使う店へと定着しています。

さらに、尖ったコンセプトに刺激を受けた国内外の料理人との人脈も広がり、料理そのものの進化も加速。その際には先のエゾシカ熟成肉も紹介しているため、今では取扱店のマップもできました。相楽社長とのコラボレーションの成果です。

小さな鮮魚店の変革が、新たな地元食材の利用拡大や、多くのリピーターが訪れる目的につながり、さらに年に一度音楽フェスを開催するなど、地域全体に大きな影響を与えるまでに成長していっているのです。

まちが変わっていくためには、時代遅れの大規模な施設開発などよりも、小さいけれども尖った1つの店が成長していくことのほうが、よっぽど大切なのだとわかります。

----------

▼あま屋
北海道日高郡新ひだか町静内御幸町2丁目5-51
http://shizunai-amaya.com/

----------

----------

木下 斉(きのした・ひとし)
まちビジネス事業家。1982年生まれ。高校在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長に就任。05年早稲田大学政治経済学部卒業後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学。在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。07年より全国各地でまち会社へ投資、経営を行う。09年全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版新書)、『まちで闘う方法論』(学芸出版社)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(共著、日経BP社)などがある。

----------

(まちビジネス事業家 木下 斉 撮影(あま屋)=木下斉)