国内カフェチェーン店で3位の「コメダ珈琲店」は、現在、全国に760店以上を展開する。そのコメダがカフェではなく、「コッペパン専門店」を出した。東京の店は期間限定だが、先に期間限定で出した名古屋の店は常設店になった。なぜ、コメダはコッペパンに目を付けたのだろうか――。

■「東京ソラマチ」で限定販売を実施

9月1日、東京スカイツリーの真下にあるショッピングモール「東京ソラマチ」に期間限定のコッペパン専門店がオープンした。「小倉マーガリン」や「ポークたまご」など甘い味から総菜系まで20種類近くあり、価格は1本220円から390円(いずれも税込み)。調理ブースでは店舗スタッフがコッペパンに具材を入れる実演販売も行う。

「やわらかシロコッペ」と掲げた同店を運営するのは、「コメダ珈琲店」だ。よく見ると調理ブースの外面にもコメダのロゴが入っており、イラストは“コメダおじさん”と呼ぶキャラクターをアレンジした。店は小売りのみでイートインのスペースはないが、同じフロアに他店舗と共用の座席がある。

「まだオープンして間もないのですが、おかげさまで非常に好調です。日によって用意する本数が変わりますが、1000本用意して完売する日もあります」(コメダ広報グループ課長・清水大樹氏)

店を取材したのは平日午後で、お客さんが気軽に立ち寄り購入していた。場所は総菜店や食品店が並ぶ一角。コメダ珈琲店では買えないという「限定感」や「手軽さ」もあるようだ。

■「コッペパン店」を出した理由

なぜコメダがコッペパン専門店を出店したのだろうか。清水氏が続ける。

「もともとコメダ珈琲店はパンにこだわってきました。40年前から提供している看板商品『シロノワール』は、デニッシュパンの上にソフトクリームを載せて出していますが、このデニッシュパンも自家製です。そこで『パンを使った別の商品を提供できないか?』を社内で議論するうちにコッペパンに行き着いたのです」

最近は、コッペパンがブームで各地に専門店もできているが、出店はそうした流れとは無関係に進めていたそうだ。末永く販売したいので、ブームになってほしくなかったと本音も明かす。

「『やわらかシロコッペ』と名づけたように、選ぶ小麦粉や発酵の仕方、焼き方にこだわり、白い質感と柔らかな食感が特徴です。お客さまには、その日のうちにお召し上がりいただくようお願いしています」(清水氏)

名古屋が本社のコメダは、ソラマチ出店の前に名鉄百貨店本店(名古屋市中村区)で今年4月5日から5月2日までの1カ月弱、先行販売をしてきた。その結果も好評で、9月27日から装いも新たに、同店地下に常設店としてスタートさせた。

実は、“コッペパンの聖地”と呼ばれる店が岩手県盛岡市にある。創業70年の「福田パン」(フクダパン)だ。価格は1個139円から。盛岡市内の高校にも配達しており、「福田パンを食べて大人になった」と話す盛岡市民は多い。

コッペパンが一気にブームとなったのは最近だが、十数年前から雑誌の「東京・下町特集」ではコッペパン専門店も紹介されていた。それも浅草や上野といったメジャーな地域ではなく、墨田区京島のようなローカルな場所だ。当地にある「ハト屋」は大正元年創業と福田パンより歴史が長く、価格帯もほぼ同じ。東京における「聖地」となっている。

こうした老舗店に比べるとコメダのコッペパンは安くはないが、ソラマチや百貨店の商品としてはお手頃だ。ちょっとしたお土産や自宅用として利用しやすいかもしれない。

■2015年に稼働した千葉県のパン工場

実は、コメダがコッペパン店を出した背景には、千葉県印西市にあるコメダ千葉工場の存在抜きでは語れない、

もともとコメダ珈琲店のトーストやサンドイッチ、ハンバーガー、シロノワールで使われるパンは、本拠地がある愛知県のパン工場3拠点で生産し、各店舗に納入していた。それが店舗拡大によるパンの需要増に対応するため、2015年に千葉工場を新設したのだ。北海道から関東まで、東日本地区のコメダ珈琲店に供給するパンはこの工場でつくられる。

筆者も昨年、同工場を取材したが、食パンの製造機械などは圧巻だった。工業団地にある新しい工場なので「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)も配慮され、作業動線も優れていた。千葉工場ができて以来、稼働態勢に余裕ができ、名古屋地区のパン工場の負担も減ったという。名古屋でも東京でも、コッペパンの供給がしやすくなったのだ。

コッペパンはコメダ珈琲店では買えないが、食パンは買うことができる。「全店舗の98%がFC店ですが、FC店を通じて『お客さまからパン販売について要望がある』という声が相次いだので、2年前から本格的に販売しています」(清水氏)

せっかくコメダがやるのなら、コッペパン店も「カフェ併設でやってほしい」という声があるかもしれない。だが、ソラマチや百貨店という一等地のビルイン店ではむずかしい。店舗面積をそれなりに確保する必要があり、店内での調理などに各種の届け出も必要となる。一等地の家賃負担は重く、人件費を含めたビジネスモデルとしては厳しいのだ。

■閉鎖的な名古屋企業の“他流試合”

コメダのような名古屋企業は、ビジネス現場では「閉鎖的」ともいわれる。筆者は半分当たっていると思うが、あるきっかけで外に目を開き、“他流試合”を行う企業も目立つ。コメダはこちらのタイプだ。

たとえば創業者から投資ファンドに経営権が移ったのが2008年。以後、カフェの店舗拡大に一段と拍車がかかった。その投資ファンドは今年株式を譲渡して、同社の経営から手を引いたが、現在もコメダ珈琲店は店舗拡大に意欲的で、シロノワールの派生商品や期間限定の新商品を投入する例も目立つ。「変わらずに、いつも同じ商品を提供し続けるのがコメダのやり方だ」といった反対意見もあったが、さまざまな改革を進めている。

今年は「ロッテ パイの実〈コメダ珈琲店監修シロノワール〉」(ロッテ)や「コメダ珈琲店キャンデー」(サクマ製菓)など他社とコラボレーションした商品も発売した。デパ地下や商業施設に出店したコッペパン店も、コメダにとっては他流試合だ。

「消費者心理」の視点で考えると、コメダとコッペパンの相性はいいと思う。世代によって意識は異なるが、コッペパンには学校給食で食べた思い出を持つ人も多く、「どこか懐かしい」はコメダ珈琲店のブランドコンセプトに近い。

また、コメダ珈琲店の隠れた合言葉は「注文後のお客さんを待たせない」「店でひと手間かける」だ。食パンは工場で切って配達するのではなく、店で切って提供している。風味を損なわないことだけでなく、「ひと手間」がコメダらしさの源泉になっている。その場で具材を入れてすぐに提供できるコッペパンはコメダらしい商品といえる。

次なるコッペパン店の開業は未定だが「できれば広げていきたい」(清水氏)と意欲を示す。小売り(コンビニ)が、カフェの主力商品であるコーヒーを積極拡大する時代。逆にカフェが、小売りの得意な食品を販売する事例が増えるかもしれない。

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高井 尚之 (たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント。1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト 高井 尚之 撮影(ソラマチ)=プレジデントオンライン編集部)