金正恩氏

写真拡大

北朝鮮の食糧事情は、ここ数年でかなりの改善を見せた。ところが、今年は様子が違うようだ。北部山間地域を中心に食糧事情が悪化し、餓死者が出たとの噂が急速に広がっている。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、恵山(ヘサン)の駅前で飢え死にした人を見たとの話を複数の人から聞いたと証言した。また、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋も、市内の市場を中心に「飢え死にした人がいる」との噂が広がっており、あまりにも多くの人が同じ話をするため、事実と受け止められていると語った。

いずれの情報筋も現場を見たわけではないというが、両地域では2年連続でトウモロコシとコメが凶作となり、今年の収穫量は昨年の半分になった上に、中国から肥料が入らなくなったことなどを挙げ、信憑性の高い噂と見ている。

北朝鮮は1990年代半ばから後半にかけて、「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉に見舞われた。餓死者の数は一説に100万人以上とも言われるが、少なくとも数十万の単位であることは間違いないと見られる。

当時に比べ、現在の北朝鮮は食糧事情が大幅に改善されている。ただ、国民経済のなし崩し的な資本主義化が進行し、貧富の格差が広がっている今、貧困層は食べ物などの価格がわずかに上昇しただけでも大きな影響を受ける。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

食糧不足の影響を最も受けるのは、配給に依存して暮らしている兵士や農民たちだ。

咸鏡北道の中朝国境に面した地域では、国境警備隊員2〜3人が夜の闇にまぎれて川を渡って中国に侵入、穀物を略奪する事件が起きた。彼らは犯行を目撃した一般市民からも略奪を試みたという。

民間人の食糧事情がかなりよくなっていた頃でも、兵士たちは食べるものがなく、中国の民家に侵入し、盗みを働き、一部は殺人まで犯している。

また、地方の協同農場の農民は配給や分配に依存しているため、政府が2号米(軍糧米)を放出しない限りは、深刻な食糧不足は解消しないだろうと情報筋は見ている。

「苦難の行軍」は、いつでも再発し得るのだ。

実際に2012年には、穀倉地帯の黄海南道(ファンヘナムド)の食糧を、当局が根こそぎ徴発してしまったため、青丹(チョンダン)、白川(ペチョン)、延安(ヨナン)などを中心に、多数の餓死者が発生した。犠牲者数は2万人とも言われ、1日で1000人以上が餓死した日もあったと伝えられている。

このような事態がまたもや繰り返されることになれば、金正恩体制の動揺につながる可能性もある。