櫻井翔のコメディセンスは想像を超えていたーー『先に生まれただけの僕』制作陣インタビュー

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 櫻井翔が主演を務める10月14日夜10時スタートのドラマ『先に生まれただけの僕』(日本テレビ)。櫻井が演じるのは、類まれな営業力を持つ商社マンであり、その実績を認められてか、社内の派閥争いに負けてか、彼の勤める企業が経営する不採算の高校を立て直すために校長として送り込まれる男。これまで教師と生徒の友情や愛が描かれた学園ドラマは数多くあったが、このドラマで主軸に描かれるのは、櫻井演じる鳴海涼介校長を軸とした教師たち。35歳の商社マンがいきなり校長先生になるという設定は突飛なものに思えるが、脚本家の福田靖氏(『HERO』『ガリレオ』『救命病棟24時』シリーズなど)と、演出の水田伸生氏(映画『舞妓Haaaan!!!』、ドラマ『ゆとりですかなにか』など)は、これはリアリティに基づいた物語だと話す。

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■「翔君の新しい一面が映っている」

――若い商社マンがいきなり高校の校長先生になるという、今回の企画を思いつかれた経緯を教えてください。

福田:最初、日テレさんで書かせていただくと決まったときに、何かお題をいただければと話したところ、水田さんから“若者の貧困”という、やたらと難しいテーマを言われまして(笑)。その参考として、いろいろなものを読んでいるうちに、地方から東京に出てきている学生たちがいかに大変かを知りました。というのは、30年前の僕とほとんど変わらない額の仕送りしかもらっていないのに、学費は上がっているし、住む部屋も5〜6万円するのは当たり前で。そうなると、僕らの時代みたいに遊びのためのバイトじゃなくて、生活のためのバイトをしないといけなくなってくるんですよね。そうやって今の学生たちの事情を調べていくうちに、中学や高校の先生はそういった現実をちゃんと教えているのだろうかと思い始めて。今、ここから明るい未来が待っているとは思えない中で、先生たちが子供たちをどうやって送り出しているのかと思い、水田さんに『学園ものはどうでしょうか?』と提案させていただきました。

――水田さんは、福田さんからの提案を聞かれて、どのように感じましたか?

水田:最初はアラン・ドロン主演の映画『太陽がいっぱい』(06年)みたいなものを考えていたんです。今の日本で自分の境遇について少し鬱屈しているというか、恨みのある男性のイメージで。それだと櫻井翔君のこれまでにない色っぽい一面が出せるかなと思ったのもありまして。なので、福田さんから『学校もの』と言われたときには「えっ?」と思いました(笑)。でも、その意図を細かく伺っていくうちに、たしかに自分は学校について何も知らないなと。私自身も子を持つ父親なので、ある程度知っているつもりでしたけど、結局は偏差値という外側の包装紙で計っていて、中身は何も知らなかったんだなと思い、反省するところがたくさんありました。

――櫻井さん演じる主人公・鳴海涼介は、スーパーヒーローではなく、いきなり校長という場違いな役回りを与えられて戸惑い、葛藤する普通の人間です。それを櫻井さんが演じるからこそ、付け加えられた要素などはあったのでしょうか?

福田:僕の書いているものは結果的にヒーローものが多いと言われるのですが、自分ではそういう意識は無くて。どの作品でもそうですが、まずその人が演じて一番いいと思えるものは何なのかを考えます。今回も櫻井翔さんの年齢やパブリックイメージ、芸能界におけるポジションのようなものを考えたときに、大人というのは重要だし、たとえうまくいかなくても何か正しいものを持っているんじゃないかと思わせる鳴海涼介は、櫻井さんに合っているんじゃないかと思いました。

――水田さんは櫻井さんを演出して感じたことはありますか?

水田:翔くんが賢いのは誰もがわかっていますよね。なので、シナリオに対する読解力があるのは当たり前なんですけど、長く芸能界の一線で培ってきたコメディセンスは想像を超えていました。緩急の使い方が上手で、メリハリが効いているんです。あと、これは福田さんが翔くんの内面を見抜いてお書きになったのだと思うのですが、意外と向こう気が強くて、それが芝居している間にボンと熱く出る瞬間があるんですよね。そういうものはバラエティやニュース番組では出てこないと思うので、翔くんの新しい一面が映っているのではないかと思います。

■「リアルでないといけないのはエピソード」

――蒼井優さん演じる鳴海に反発的な現代社会の教師、瀬戸康史さん扮する人見知りな英語教師など、鳴海校長以外の先生方も濃いキャラクターばかりですね。

福田:このドラマを描くにあたり、実際に学校の先生をしてらっしゃる方に20〜30人ぐらいお会いしました。それでお話を伺っていると、自分がまるで知らなかったことが次々に出てくるんです。例えば、北海道で校長先生をしている友達に会いに行ったときに、「教頭先生は?」と聞いたら、「メンタルでお休み」と言うんですよ。僕はその言葉に驚いてしまって。

――このドラマの中でも先代の校長先生が「メンタルで辞職」という設定になっていますね。

福田:そうなんです(笑)。実際に先生をやってらっしゃる方々からお話を伺うと、「なんだそれ?」と思うことばかりが出てくるんです。先生によっては日本の教育と世界の教育を比べて語る方もいらっしゃれば、鉄パイプを持った3人の生徒に囲まれて、ここからどう逃げるかを必死で考えたと熱弁する先生もいて。本当に学校によってさまざまだったのですが、その中で一番印象的だったのが、ある先生の「生徒は僕のことを人間だと思っていませんから」という発言。一瞬、聞き捨てならないことを聞いたような気がしたんですが、(笑)、要するに、学校の先生にもプライベートがあって、じつは昨日の夜に彼女にフラれているかもしれないし、母親や父親が病気で寝込んでいるかもしれない。でも、教壇に立ったときに、生徒はそんなことはまったく知らないわけです。なので、その先生の「生徒は僕のことを人間だと思ってませんから」という言葉を聞いたときに、これは学園ものだけど、よくある破天荒な先生がやってきて、生徒と向き合うようなものではなく、先生をメインにした話にしようと思いました。そうなると当然、先生にもキャラが必要なのですが、僕が取材でお会いさせていただいた先生方がみなさん個性的だったので、そういった意味では違和感なく作っていけました(笑)。

――福田さんによる丹念なリサーチによって、リアルな教師像が生まれたのではないかと思いますが、水田さん的にはどう感じましたか?

水田:教師像がリアルというよりは、リアルでないといけないのはエピソードなんですよね。でも、そのエピソードもさすがの取材力というか、すごくリアリティがありました。

福田:本当に今回の取材で初めて知ったことが多くて。保健室で薬を出せないというのも初めて知ったし、保健室に来る理由も今はメンタルな部分が多いというのも知らなかったので、学校も大変だなって思いました。

水田:そういったエピソードが単におかしい、面白いじゃなくて、視聴者の方に少し考えていただける要素があるのが福田さんの脚本の力ですよね。というのは、ドラマの中にリアルな問題を発見するだけでなく、我々はその先を行かないといけないというか。つまり、ドラマに出てきた問題を先生たちはどう解決するのか、そしてご家庭ではそれをどう受け止めるのか、進学実績を上げ、志願者を増やすには、具体的には何をすればいいのかということをドラマとして表現していかないといけないわけです。ドラマは当然、3カ月の物語ですから、ある程度、短時間に何かが変わるのですが、一番変わるべきなのは教師だというのは、福田さんから最初にご提案いただいたことなのです。「教師が変われば生徒が変わる、生徒が変わると学校が変わる」そこに集約していこうというという話になり、福田さんの脚本を読むだけで、「なるほど!」とうなずくところがたくさんありました。あとはそれを俳優の体を通して具体的に表現していくだけ! 俳優陣には福田さんの脚本に負けないように頑張ってもらいました。

――水田さんは演出面でこだわられたことはありますか?

水田:芝居をしやすい環境を作ることです。

福田:今回、わりと早めに脚本を書いたので、よく撮影現場にお邪魔していたんですけど、セットの作り込みがすごいんですよ。職員室にある机も先生それぞれの個性に合わせて作られているし、引き出しを開ければ中身も個性に合わせてある、何気ない下校シーンで使う自転車も映りもしないのに50台全部に(ドラマの中での高校の名称)京明館高校というステッカーが貼ってあるんです。ここまで作られていると、役者さんも役に入りやすいだろうし、それを水田さんの指示ではなく自主的に行われたチームのみなさんの努力を惜しまない姿勢は本当にすごいなと思いました。

――福田さんは口述筆記で脚本を書かれるそうですが、水田さんは演出をしていて、口述筆記だからこそのセリフの生っぽさみたいなものを感じましたか?

水田:これはドラマや映画の現場では稀なことなのですが、今回の現場では俳優からセリフを言いづらいと言われたことはなかったです。例えば、駅のアナウンスのように気持ちの入らない言葉なんて世の中にはいっぱいあるのですが、映画やドラマのセリフだとそうはいかなくて(笑)。でも、今回はそう言われることが一度もなかったので、「さすがは福田さん!」と思いました。

福田:僕が口述したことを文字に起こしてくれるアシスタントの男の子がいるのですが、台詞を書くたびに、その台詞は耳で聞いてわかるか、彼に問いかけます。当然、状況を明らかにする説明台詞も出てくるのですが、そこにも感情を乗せていかないと観てくださっている方の耳にも届かないので、説明台詞にも必ず感情的な何かを入れるように、常に意識しています。何より、自分が口に出して気持ちが悪い台詞は書かないですね。

■「生徒役は無名の子ばかり」

――『先に生まれただけの僕』は、日本テレビ系の土10枠で放送されますが、この時間帯だと、ご覧になられる視聴者は高校生であったり、その親世代の方であったり、とても幅広いと思うのですが、その方々にどういうところを楽しんでいただきたいですか?

福田:まず、教育に物申したいというのは何もないです。結局、ドラマはエンタテインメントなんですよね。今、いろんなことをお話させていただきましたけど、面白いドラマになってくれるのが一番の目的ですから。ただ、あわよくばですけど、子供と親御さんが一緒の部屋でこのドラマを観てくれるとうれしいです。それで「学校ってこうなの?」という会話の糸口になってくれればうれしいですね。

水田:演出としては俳優の演技を楽しみにしてほしいです。櫻井翔くんをはじめ、個性豊かで確実に腕のある役者がそろっているので、そこは無条件に楽しんでいただけると思います。あと、(生徒役の)とてもフレッシュな子供たちが300人近く出てくるので、そこにも注目していただければと。

福田:水田さんがおっしゃったとおり、生徒役は無名の子ばかりなんです。芝居経験も少ないのですが、撮影までにたくさん稽古をしていました。一生懸命に頑張っていた彼、彼女たちの姿は見どころだと思います。ほとんどの連続ドラマは撮って出し的に過酷なスケジュールなものが多いですが、このドラマは準備期間も含め、相当贅沢なドラマになっていると思います。

(取材・文=馬場英美/写真=大和田茉椰)