今年の夏に行われたアウディカップ。リバプールFCのドミニク・ソランケ選手の胸にはスタンダードチャータード銀行のロゴが目立つ(写真:DPA/共同通信イメージズ)

2016年11月、楽天がFCバルセロナ(スペイン リーガ・エスパニョーラ)とパートナーシップ契約を締結し、このクラブの“胸スポンサー”になることを発表した。

注目を集めたのは、年間5500万ユーロ(約72億円)と言われる高額な契約料だ。契約期間は2017-2018年シーズンからの4年間(オプションで1年延長あり)なので、総額は約290億円となる。日本企業では、ほかに横浜ゴムが2015年7月からチェルシーFC(英プレミアリーグ)の胸スポンサーとして5年契約を結んでいる。

再び欧州クラブのスポンサー価値に注目が集まる

欧州のビッグクラブの胸スポンサーには、過去にも多くの日本企業が名乗りを上げている。1980年代には「SHARP」の文字がマンチェスター・ユナイテッドFC(英プレミアリーグ)のユニフォームに登場し、これが同チームにとって初めての胸スポンサー契約となった。同じ時期には当時の日本ビクター(JVC)がアーセナルFC(英プレミアリーグ)初の胸スポンサーとなり、その後をセガが引き継いだ。ほかにも、NECがエバートンFC(英プレミアリーグ)、ソニーがユベントスFC(伊セリエA)と、おもに1980年代から1990年代にかけて日本企業の社名が欧州サッカークラブのユニフォームを賑わせた。


2017年7月、バルセロナFCのメッシ選手たちが来日。楽天とのパートナー契約締結会見の様子(撮影:今井康一)

2000年以降もマツダやトヨタ、コニカミノルタなどが胸スポンサーとして欧州サッカークラブとパートナーシップを結んでいた。その後は韓国や中国、中東諸国の企業名が徐々に目立つようになり、日本企業はかつてのような存在感はなくなっていった。

しかし、楽天や横浜ゴムの契約により、再び日本国内でも欧州サッカークラブの胸スポンサーの価値が注目されている。

サッカーの母国であるイングランドのプロサッカーチームで初めて胸スポンサーを募ったのは、プレミアリーグのリバプールFCだ。このクラブは熱狂的なサポーターを持つことで知られている。リバプールFCによると、欧州、アジア、アフリカなどを含めサポーター数は全世界で7.7億人という。リーグ優勝18回、欧州制覇5回という栄光こそ、サポーターたちの強い忠誠心の理由だろう。チームの功績とファンの情熱の象徴と言われているユニフォームに初めて社名を入れたのも、実は日本企業だった。1979年から3年間リバプールFCとパートナーシップを結んだ日立である。

これまでリバプールFCのユニフォームに社名を載せることを許されたメインパートナーは、日立、クラウン・ペインツ(イングランド)、キャンディ(イタリア)、カールスバーグ(デンマーク)、そして現在のスタンダードチャータード銀行(イングランド)の5社のみだ。

しかも、カールスバーグとスタンダードチャータード銀行は何度も更新を重ねており、結果的に前者が18年(1992〜2010年)、後者が9年(2010〜2019年)と、計27年をこの2社が守り抜くことになる。

この事実から、パートナー企業側が巨大な投資の効果をきちんと得られていることがうかがえる。ちなみに、カールスバーグはメインスポンサーの契約が満了してからも別の形でリバプールFCとパートナーシップを組んでおり、メインスポンサー時代も合わせると25年間も関係が続いている。これは、プレミアリーグでは最長のパートナーシップだ。

英プレミアリーグは200以上の国や地域で放送

欧州サッカーとパートナーシップを組む企業がまず求めるのは、やはり世界的認知の拡大だろう。たとえば、英プレミアリーグは現在200以上の国や地域で放送されており、ライブはもちろんニュースでも試合映像のハイライトが各国で流れている。

視聴者はCMを早送りすることはあっても、選手が映っているシーンをスキップすることはほぼない。ゴールや勝利の瞬間など、確実に視聴者に届く映像の中には必ず社名が含まれることになり、それが各国に発信されれば世界的認知度の向上が期待できる。

胸スポンサーがほかの看板スポンサーなどと違うのは、フィールド内だけでなく、選手の記者会見、選手のイベントやメディアの出演、選手の写真入りオフィシャルグッズ、選手がユニフォームを着て出演する広告、そしてサッカーのゲームソフトの画面まで、選手が登場するあらゆる場所で社名の露出が見込めることである。

海外での認知度が高くない日本企業にとっては、テレビCMや一般的な広告で同じレベルの効果を得ることを考えると、高額な契約料でもコストパフォーマンスはむしろいいと判断できるのではないだろうか。

もちろん、世界的に露出して終わりというわけではない。胸スポンサーのメリットをうまく活用した事例として紹介したいのが、現在リバプールFCの胸スポンサーであるスタンダードチャータード銀行のCSR(=企業の社会的責任)活動の活性化である。

スタンダードチャータード銀行はロンドンに本拠を置いているが、アジア、アフリカ、中東に多くの顧客を抱えている。プレミアリーグでもっとも歴史あるリバプールFCと手を組むことによって、彼らはこのクラブのファンの多い地域での認知向上だけでなく、“信頼の獲得”を狙ったのだ。

その一環として現在も行われているのが、ユニフォームに掲載する社名を年に1回「Seeing is Believing」のメッセージに置き換えるCSRキャンペーンである。このメッセージは、スタンダードチャータード銀行がブラインドサッカーなどを通して視覚障害がある人々を支援していることを表現したものだ。

この活動は2003年に同銀行150周年イベントの一環としてスタートしている。現在ではリバプールFCのスポンサー活動において、ユニフォームを活用して自分たちの思いやあり方を伝えることにより、銀行への信頼、そして新たなファン(潜在的顧客)の獲得による「企業価値の向上」を狙っているのである。

また、同銀行は「グローバル・ゴールズ」というCSRキャンペーンも行っている。これは、世界の193人のリーダーが貧困解消、飢餓撲滅、良質な教育の獲得、男女平等など17の目標を掲げ、2020年までにサポーターと共にクリアすることを打ち出したキャンペーンだ。

このキャンペーンを認知させる手段としても、同じく年に1回ユニフォームの社名を「#GLOBALGOALS」の文字に入れ替えている。選手の胸の文字を変化させることにより、視聴者や観戦者はこのキャンペーンをいち早く、そして高い確率で認知することができるのだ。

欧州クラブとのパートナーシップは世界進出の宣言

リバプールFCのサポーターの多くは、パートナーシップによってすでに好印象を抱いていたこの銀行に対し、CSRの要素が加わることでさらにポジティブな理解、つまり“信頼感”を抱くようになった。胸スポンサーは、自分たちが何者であるか、どんな思いのもとで事業を展開しているのか、そのメッセージを世界に発信する最強ツールの1つだと考えられる。

そのツールを現代でいち早く活用しようとしているのが楽天であり、横浜ゴムなのだ。そして、胸スポンサーではないものの、2017年にユベントスFCのスポンサーとなったサイゲームスや、リバプールFCのスポンサーである住友ゴムのFALKEN(ファルケン)ブランドも、スポーツの力を活用するメリットを十分に知っているはずだ。彼らにとって欧州サッカークラブとのパートナーシップは、「これからグローバルのトップを目指して世界で戦っていく」という宣言と言えるだろう。