会見で謝罪する川崎博也・会長兼社長(中央)ら神戸製鋼所の経営陣(撮影:大澤誠)

「線材の神鋼」「自動車の神鋼」とも呼ばれる神戸製鋼所。同社の品質データ改ざん問題は一段と範囲を広げ、アルミ・銅製品だけでなく主力事業の鉄鋼部門の線材にも及んできている。

同社は10月13日夕刻、川崎博也・会長兼社長が記者会見を行い、8日公表の一部アルミ・銅製品、11日公表の鉄粉、ターゲット材に加え、新たな改ざんがグループ会社で9件確認されたと公表した。

対象となる納入先企業はこれで約500社に達した。守秘義務があるとして具体名は明らかにしなかったが、海外企業も含まれている。また、実際には使われていないが、東京電力の福島第二原発にもデータをねつ造したチューブが納入されていたことも判明した。

看板の線材製品でも改ざんを確認

新たに発覚した改ざんには、鋼線やステンレス鋼線が含まれる。いずれも神鋼が看板とする線材製品だ。

内部調査はまだ進行中であり、今後さらに改ざん対象が広がる可能性がある。1カ月以内に機械や電力事業を含む全社・全部門の調査を行い、原因分析と対策を発表する方針というが、それで本当に全容が解明するかは疑問。約10年前から改ざんしていた例も判明しており、過去にさかのぼってどこまで事実を解明できるかは定かでない。

内部の調査委員会は川崎氏自ら委員長を務めている。「調査の範囲の広さやスピード感を考えると、私がリーダーシップをとってやる必要がある」と川崎氏は言う。

だが、川崎氏もある意味インサイダーであり、調査対象の1人のはず。「第三者の外部法律事務所」にも調査を依頼しているというが、いまだにその名前や神鋼との関係性は明らかにしていない。川崎氏自身、2006年に兵庫県加古川市の加古川製鉄所で工場排出ガスの測定データ改ざんが発覚した当時、同製鉄所の副所長を務めていた。

今後、製品の交換やリコールなどの費用がどこまで膨らむかもわからない。これまで改ざんが判明した製品は全体の4%程度としても、調査次第で増加する可能性がある。

「負担コストは顧客との相談次第だが、(負担する)腹積もりはある」と川崎氏は言う。だが、信用失墜による顧客離れや海外株主を含む損害賠償請求を含め、業績への具体的影響についてはまったく予想がつかない状況だ。

しみ付いた偽装・隠蔽体質


川崎博也・会長兼社長は自らの責任について明言しなかった(撮影:大澤誠)

神鋼が成長戦略の柱に位置づけるのが、燃費規制強化に向けた自動車軽量化対策であり、ハイテン(高張力鋼板)、アルミ材、特殊鋼がその製品群である。同社は鉄とアルミの両方を生産する世界唯一のメーカーであり、アルミ材を持たない新日鉄住金やJFEホールディングスとは異なるユニークな存在。本来、その強みが一段と生かせる環境になりつつあるが、アルミ材の品質改ざんでその勢いを殺がれた形だ。

会見で川崎氏は「ハイテンやアルミ材の供給戦略の方向性に変更はない」と述べたが、もしハイテンにまで強度偽装が波及するようなことになれば、その戦略は大幅な見直しを余儀なくされる可能性がある。

川崎氏は自身の進退について、「原因究明と対策をまとめた後に考える」と保留した。また、なぜ改ざんがこれだけ大規模かつ広範囲に広がったのかについても、現段階で言及を避けた。

神鋼は1990年代以降、総会屋利益供与や違法献金を含め、何回も不祥事を繰り返している。昨年6月にグループ会社でステンレス製品の日本工業規格(JIS)違反が表面化した後も改ざんが続いていたということは、同社にしみ付いた偽装・隠蔽体質は極めて根深い。日本のものづくり全体に対する信頼低下にもつながる今回の事態は、“真の第三者”による徹底的な原因究明が必要だ。

――不正案件は今後増える可能性があるのか。調査の現状は。

川崎会長兼社長:10月12日に経済産業省から、「これ以上の不正事案がないか早期に調査して完了すること」と言われた。全事業部門で調査中だ。アルミ・銅事業ではデータと現物との照合を終えたが、その中で発覚したのが今回発表した追加の案件だ。

鉄鋼、機械、電力事業でも調査を実施中。鉄鋼事業では製品の入れ替わりがあり、3カ月で1サイクルだ。それを4サイクル、1年の期間で調査・検証している。経産省の指示通りに、早期完了を意識して調査したい。


会見は1時間半近くに及んだが、資料配付に時間がかかるなど不手際が目立った(撮影:大澤誠)

――10月8日の発表時には、不正品の売上高に占める割合は4%だった。今回追加発表したものを含めると、割合はどれくらいになるか。

川崎氏:今回の追加分を含めても(4%という数字は)ほとんど変わらないと思う。

勝川四志彦常務:(4%という数字から)大きな変化はない。ただ、不正件数は多いので、深く反省している。また、これからの調査で変動することは理解してほしい。

「隠したのではない」

――今回公表した9件のうち鉄鋼の4件は「問題を解決済み」としているが、これらは不正があったことを知りながら隠していたということか。

川崎氏:隠したのではない。4件は、神戸製鋼のコンプライアンス委員会、そして取締役会で取り上げられた。損益への影響や法令違反かという観点から判断してこれまで公表しなかった。

今回なぜ公表したのかと言えば、それは今回の一連の不適切な行為の原因を考えると、現在進行中のものだけで分析するのは不足だと考えたためだ。アルミ・銅だけでなく、鉄鋼でも不正が出た。(過去の分まで考えることは)避けて通れないものだと考えた。

――一連の不正行為は取締役会に報告があったというが、その時に公表義務があるのではないか。なぜいま、公表するのか。

勝川氏:このケースは、会社の管理ミスだ。金額的な意味も含めて、社内では管理ミスということに大きな問題提起はしなかった。むしろ、その管理ミスがわかった時点でなぜ改善を図らなかったということを悪質だと判断して、われわれのコンプライアンス委員会にかけた。

――神戸製鋼の企業風土や不正が発生する背景について聞きたい。

川崎氏:なぜ今回のようなことが発生したのか、いま分析中だ。経産省の指示通り、1カ月以内でまとめる。ものづくり推進部に品質監査機能を持たせたが、それは機能したと思っている。機能して監査・自主点検をしたから今回の不正が出てきた。なぜもっと早くやらなかったかという思いはある。また、今回のように(グループ内で)広範囲に出たことが問題だ。これを分析したい。

ー―ものづくり推進部は2010年に設置されて7年が過ぎているが。

川崎氏:ものづくり推進部に品質監査機能を持たせたのは昨年だ。各製作現場の生産性を高めること、また若手社員の教育がこれまでの主体だった。昨年の不正事件を重く見て、本社に監査機能を持たせる必要があると考え、品質統括室を置いた。

――出荷先は500社だが、海外の自動車メーカーも含まれているのか。

勝川氏:具体的な取引先を公表するのは差し控えたい。ユーザーには連絡し、安全性に関して打ち合わせをし、今後の協力内容などを聞いている。要求されたデータや素材メーカーとしての見解などを伝えている段階だ。

――今回の事件で神戸製鋼の信頼は失墜した。また、(リコールなどの)費用負担に応じるとなると、神戸製鋼は今後も存続できるのか。

川崎氏:今後、ユーザーからどういう指示や指摘が上がってくるかはわからないが、現状認識としては、(今回の不正品が売上高に占める割合は)4%だが、残り96%はどうなっているのかという話になると思う。アルミ・銅事業については、各製品の品質データと仕様書との整合を終えた。そしてデータが合致している案件では、ダブルチェックを行うなどトップレベルで品質の確認をし出荷している。

(出荷しているとはいえ)神戸製鋼は信頼できるからというのではなく、「条件」付きだと認識している。その「条件」を今後取ってもらえるのか。これは、1カ月以内にまとめる調査での原因究明や今後の対策の確立にかかっている。

「BtoBビジネス」であることに原因

――現場レベルで納期へのプレッシャーや作り直しなどで発生するコスト増などが不正につながった可能性はないか。

川崎氏:ないとは言えないが、上から指示はしていない。顧客のニーズに対する生産工程やその余力、また品質保証に関するデータの自動化などがどうだったのか。そういうことの検証を鋭意やっていく。

――今回で時価総額が約4割減った。これを理解しているか。

川崎氏:理解している。原因の分析と対策を進めたい。

――「安全性に問題がない」という根拠は?

勝川氏:安全性については、われわれで評価できない。以前発表した案件については、供給したユーザーから確認している。他の案件では現在調査中だが、これまでのところ安全性に対する話は来ていないという意味だ。

――今回の一連の不正は、本体の各部門やグループ会社など広範囲に及んでいる。現時点では何が問題と思うか。

川崎氏:神戸製鋼のビジネスは、たとえば鉄鋼事業やアルミ・銅事業はBtoBであり、半製品を供給するビジネスだ。一方で機械はBtoCビジネスで、最終製品をつくるメーカーに納めている。今回の問題はそのBtoBビジネス、直接消費者に関係のない製品に集中している。ここに原因の本質があると思う。

――不正を誘発する企業文化や組織体制があるのではないか。

川崎氏:外部から見ると風土的なものを感じるかもしれないが、1カ月以内の調査報告で、徹底的な原因分析をどうとらえるかだと理解している。