相模原で2年目を迎えた今季、コンディションは上向きつつあり、確かな手応えを掴んでいる。写真:佐藤明(サッカーダイジェスト写真部)

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「いやもう、悔しくてダメですね。夜も眠れなかったし」
 
 10月1日、J3リーグ25節。アウェー北九州戦に挑んだ相模原は、0-3の完敗を喫す。相模原のゴールマウスに立ったのは川口能活。7月22日の18節・栃木戦以来の出場で、「チームも連敗していたので」と強い決意で試合に臨んだが、悔しい結果に終わってしまった。
 
「なんとか流れを変えたかったけど、そういうプレーもできなかった。終始、北九州の気迫に圧倒されてしまって……」
 
 チームを勝利に導くことはできなかった。ただ、落ち込んでばかりもいられない。
 
「しばらくゲームに出ていなかったし、結果は良くなかったですけど、またここから、なんとかチームを立て直せるようにしたい」
 
 3つのゴールを許しただけに、GKとしては無念極まりなく、唇を噛み締める想いでいっぱいのはずだ。2連敗中のなかでの先発起用で、自身にかかる期待の大きさは十分に理解していた。それだけに、悔しさや申し訳なさで、その胸の内は占められていたのだろう。
 
 試合勘という意味でも、2か月以上、実戦から離れていただけに、難しさはあったはずだ。もっとも、“らしい”プレーがなかったわけではない。
 
 52分の2失点目の場面。最終ラインを突破され、ペナルティエリア内に侵入してきた相手に味方のDFが懸命に追いすがるも、川口と1対1のような形になる。
 
 この時、相模原の背番号1はスッと前に出て相手との間合いを詰めた。同じシチュエーションでも、ゴールラインに立つGKもいるが、前に飛び出すプレースタイルは、実に川口らしかった。
 
 目の前で打たれたシュートは止められなかったが、感触は悪くない。
 
「3失点しましたけど、自分の動き事態は悪くなかったと思います。かなり広い範囲を守れていたし、走れてもいた。シュートストップは少なったかもしれませんが、前に出るっていうところで、自分らしくというか」
 
 キレや試合感を含めた、全体的なパフォーマンスがすべて戻ってきているわけではないが、「自分らしさは、ちょっとずつですけど、取り戻せている感じがする」という。
 今年8月で42歳を迎えた。まだまだ現役を続けるつもりでいるし、失点すれば、“夜も眠れない”ほど悔しがる。気持ちは若い時のままだ。
 
 ともすれば、20代の頃のような躍動感は出せないかもしれない。だからといって、「省エネでやるより、自分らしくプレーしたい」と言葉に力をこめる。
 
 前に出ないでステイする、あるいは、プレーエリアを狭めて、DFに任せる部分を増やす。それは自分の流儀に反する。あくまでも自分のスタイルにこだわる。
 
「あのシーン(2失点目)も、コースは完全に読んでいたけど、一瞬だけ遅れて、やられてしまった。ただ、何試合か重ねていけば、防げるようになる。試合に負けたことは納得できませんが、前向きにはなれました」
 
 いくつもの成功体験がある。過去を振り返れば、似たような場面で、後ろで我慢せずに、思い切って前に寄せて、コースを限定し、キャッチする時もあれば、胸でも顔面でも、身体のどこかに当ててゴールを守ってきた。
 
「いくつになっても、自分のスタイルを貫きたい。やられるなら、自分らしく」
 
 近年は複数の怪我に悩まされて、理想とするプレーをなかなか表現できず、苦しい時期が続いた。ただ、信頼できる「治療家」との出会いで、身体の状態は改善されつつあり、メンタルも充実してきている。
 
「なんとか、ここから這い上がっていけるように。チャレンジしたいですね」
 
 引退の二文字が頭をよぎらないわけではないが、今は階段を駆け上っている実感がある。良くなっていく兆しがはっきりと見えている。「だから、やめられないんですよね」と、人懐っこい笑顔を浮かべる。
 
 続くホーム・琉球戦も、スタメンを勝ち取った。チームは今季初となる1試合・4得点と攻撃陣が爆発。終盤に2失点したのは余計だったが、試合後には、チームメイトとハイタッチして久々の勝利を喜ぶ川口の姿があった。
 
 シーズンは残り少なくなったが、最後に、今後に向けた意気込みを訊いた。
 
「自分がこのタイミングで起用されたのには、何かしら理由があるはず。期待に応えられるように頑張りたい。
 
 チームの成績はあまり良くないですが、後ろから鼓舞できるように。こういう時こそ、ベテランの力でなんとかしたいですね。言葉で何かを伝えることもありますが、僕はベテランというのは、“醸し出す”ものだと思っているんです。その雰囲気だけで、チームを落ち着かせられるように、と。
 
 でも、プレーはいつまでも若々しく、アグレッシブに。プレーまで老け込んじゃうと、本当に存在感すらなくなっちゃうので(笑)」
 
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)